この街のどこかで・・・1月放送 「花 音」~かのん~ 前編 脚本
2008/01/22 (Tue)
深夜に語るモノローグドラマ
この街のどこかで・・・
1月と2月は、【風】が語るファンタジー。
「花 音」~かのん~
毎日 夜11時45分~0時
朝11時30分~11時45分
木・金・土 深夜 1時 ~ 1時15分
「花 音」(前編)脚本
【風】が語る、【花】の想い。
私は【風】・・・“流れてゆく者” 彼女は【花】・・・“生を受けた者”
流れ者と生を受けた者とでは、その宿命も、役割も、決して交わることがないけれど、
私たちは常にひとつの世界で結ばれている。
【風】と【花】は、強い絆で結ばれている。
【風】は【花】が好きだし、【花】は【風】が大好きだ。
でも、【風】は“流れてゆく者”、【花】は“生を受けた者”。
不意に、そのことを思い知らせたりもする・・・・
【風】は知っている。
【花】に時間は・・そう、ない・・・。
タイトルIN 「花 音 ~かのん~ (前 編)」
ある眩しい冬の朝、私は【花】から、その気持ちを聞かされて愕然とした。
私の動揺は、キラキラと輝く冬の晴れ間とは裏腹に、
すべてを凍り付かせるような冷たい【風】となって、この街を駆け抜けていった。
水 「冗談もほどほどにしてよ! 氷っちゃうじゃない! 」
木 「君のおかげで、枝葉が風折れしちゃったじゃないか」
【水】が私が吹かせた風に文句をいい、【木】は、思いも寄らない寒風に悲鳴をあげた。
私のような【風】は、心の持ちようで、自分の意志とは裏腹に、
その心の動きが吹く風に影響する。
だから【風】なんだけど・・・
私は【花】から突然、人間の男性に恋してしまったことを聞かされた。
もっと驚いたのは、【花】は神様に、自分を人間にして欲しいと願い出たことだった。
何を言ってるの?そんなこと、叶うはずがないじゃない。
だいたい、【花】が人間になってしまったら、もう二度と・・・・
すると・・・【花】はニコッと、とても可愛らしい笑顔を見せて、
『それでもいいの』・・・と、何の外連味のない、美しい響きとともに、
その決意を口にした。
そして、『【風】ならわかってくれると信じてたよ』と言った。
私は【花】に何も言うことができなくなってしまった。
その動揺が、寒風となって、結果的に、みんなに迷惑をかけてしまった。
水 「まさか・・・」
木 「花が・・・そう言ったのか?」
風 「うん・・・」
水 「そんなこと、神様が聞くわけないじゃない。だいたい、私たちのようなモノが、
人間に恋したり、ましてや、人間になりたいなんて・・・ありえない」
木 「・・・それで、神様は承諾したのかい?」
水 「するわけないじゃない」
風 「それが・・・」
木 「したのか?」
水 「まさか!」
風 「その、まさか・・・」
水 「どういうこと!まったく・・・・花も花なら、神様も神様だわ」
木 「シー!神様に聞こえるよ」
ザワザワっと、「水」の水面が微かに震え、「木」の枝葉が、ガサガサっと音をたてた。
私は・・・・静寂を保つしかなかった。
木 「ということは・・・・花には、もう時間は残されていないわけだ」
風 「うん・・・・」
そう、人間になると決めた【花】には、もう時間がない・・・。
【花】が彼に出会ったのは、ずっと、ずっと、前。
まだ彼が少年だった頃だ。
何年も繰り返す「生」の中で、【花】はその年、彼の家の庭先に咲いた。
たった一輪、彼女はその可愛らしく、儚げな彩りを、庭の片隅の、
光があたるかあたらないかという場所に添えていた。
そんなある日のこと、花を散らす雨が降った。
【花】はずっと堪えていた。
「生」を受けた以上、簡単に散ってしまうわけにはいかない。
簡単に散ってしまえば、次の「生」が受けられない。
それが「生」を受けたものの役目であり、宿命だと、いつか【木】に教えてもらったことがある。
だから【花】は、一生懸命、その「生」をまっとうしようとしていた。
私のような「流れもの」には、【花】の試練をどうすることもできない。
「生」を受けたものの、生き抜く宿命。
「流れもの」の、見届けの役目。
私のような【風】が【花】にしてあげられのは、「生」の種を、新たな街へ運んであげる
ぐらいのこと。
「大丈夫。心配しないで」・・・【花】はいつも、【風】である私に強がってみせる。
同じ「流れもの」の【雨】がしでかすこと。
【私】は、その素行の悪さを知っていた。だから心配だった。
その不安は的中した。
雨が3日間降り続いた。
そして、その花散らしの雨に、みるみる【花】の力が尽きそうになった。
そんなとき、一人の少年が【花】に傘を差しだした。
その傘は、【雨】から【花】を守ってくれ・・・【花】は「生」をつなぐことができた。
多分・・・それがきっかけだったんだと思う。
彼は毎日、【花】に話しかけていた。【花】は嬉しそうに満面の彩りで輝いて見せた。
お家からは・・・お姉さんの趣味なのかな?クラッシック音楽が微かに聞こえてきて。
穏やかな日々は、しばらく続いた。
ところがそんなある日、その家は急に慌ただしくなった。
家の中にあった家財道具も運ばれ、庭先の鉢植えたちは、近所中に散っていった。
そして・・・誰もいなくなった。
最後に、少年は【花】に手を振っていた。「じゃあね」と手を振った。
それから家は静かになり・・・再び、家に笑顔と人々の声が戻ったときには、
その年の【花】の「生」は尽きていた。
ずっと・・・ずっと前の話だ。
「【風】はいいなぁ。どこへでも行けて」・・・それが【花】の口癖だった。
「「生」を受けたものは、いつも「流れもの」にそう言うね」と、私が応えると、
【花】はクスっと笑って、「そうだね」とだけ言う。
今思えば、【花】は「生」を受けるたびに、彼のことを想っていたのかもしれない。
本当なら、探して・・・もう一度逢いたいと思っていたのだろう。
【花】は、私が知っている以上に恋焦がれていた・・・
そうか・・・・だから人間になりたいと言い出したのか・・・・
木「それで、【花】はあんなに一生懸命「生」をまっとうしようとしていたのか」
水「長く生きれば、彼に会えるかもしれないから?そんなに簡単にいく?」
木「それもあるだろうけど、「生」をまっとうしてきたからこそ、
神様が言うこと聞いてくれたのかもしれないな」
水「まさかぁ」
風「実は、私も【木】と同じこと考えてた。
「生」を受けた者として、【花】は本当に精一杯生きてきたと思う。
でも同時に、【花】の想いとジレンマは積み重なる一方だった。
「生」を受けた【花】や【木】、そして、もちろん人間のようなものたちは、
私たち【風】や【水】【雲】のような「流れもの」にはなれない。
【花】が彼と再会するには、全てを捨てて、人間になるしかなかったのよ」
水「私には理解できないな」
木「「流れもの」には、「生」を受けて佇む僕らのような者達の気持ちはわからないよ」
水「そういう言い方ないんじゃない」
「【風】はどうして、いつも私の味方になってくれるの?」・・・【花】は不意に
そんなことを訊ねた。
私は、【花】とのお別れの時が来たことを悟った。
「どうしてだろうね?わからないよ」と応えると、【花】は微笑んで、「ありがとう」と
言った。
「ありがとう」・・・それが、私が【花】と交わした最後の言葉。
「ありがとう」・・・そう、私に言って、【花】は散っていった。
○彼
街の喧噪を聞き流しながら、ボンヤリと空を見上げる。
雲ひとつないのは、冬のせいなのだろうか?
それとも、今日はいつもより【風】が強いからなのか。
どちらにしても、晴天なのは嬉しい・・・自分にとって・・いや、二人にとって、
ある意味、特別な日なんだし・・・。
彼 女「珍しい!」
彼 「開口一番それかよ。10分の遅刻」
彼 女「たまたまでしょ。いつも、そっちの方が遅れてくるくせに」
彼 「今日はいつもと違う。特別だろ」
彼 女「うん。ゴメン。ちょっと、髪型気に入らなくて、出るの遅くなった」
彼 「まぁ、わかるけど」
彼 女「ねぇ、メイク、派手かな・・・」
彼 「そんなことないんじゃない」
彼 女「そっか。よかった。」
彼 「いつものままでいいんじゃないの」
彼 女「そうは言ってもね・・・」
彼 「緊張してんだ?」
彼 女「するでしょう、普通」
彼 「まぁ。俺も挨拶に行ったときは、緊張したし」
彼 女「会うの初めてじゃないのに、なんかやっぱ緊張してる」
彼 「大丈夫だよ。親父だっておふくろだって、もう娘だと思ってんだし。
最近は連れてこないって、俺が文句言われてるくらいなんだぜ」
彼 女「・・・(ため息)でもね、今日は特別だから」
彼 「大丈夫だって」
先日、俺が彼女の家に挨拶に行った。彼女の両親に、結婚を申し込んだことを報告した。
お母さんは終始笑顔だった。お父さんは半分喜び、半分寂しそうだった。
そして、今日は、彼女がうちに来ることになっていた。
もう何回も会っているというのに、今日はいつもと違うという緊張感が、
彼女はもちろんのこと、俺自身にも少しあった。
彼 「さ、行こう」
彼 女「もう、風強い!!髪がぐしゃぐしゃになっちゃう。最低!」
○【風】
私は【花】のことが心配だった。
【花】は本当に人間になれたのだろうか?
私にはそのことを確かめる術はない。・・・
【風】と【人間】は、感じることはできても、話すことはできないから。
私はふと思った・・・・。
【花】はきっと、【彼】の前に現れる。必ず、【彼】の前に。
だったら、私が【花】を見届けるためには、【彼】を探せばいい。
【彼】にまとわりついて、【花】が来るのを待とうと思った。
【木】や【水】、【雲】や【空】に、【彼】の居場所を訊いた。
【鳥】たちにだって、【蟲】にだって訊いた。
そして、私は【彼】を見つけることができた。
あの時の少年は、もう、立派な青年になっていた。
そして、【花】の想いも知らず、一人の人間の女性を愛していた。
わかってるんだけど・・・ちょっと色めいた。
自分でもよくわからずに、ザワザワとした感情がこみ上げてきた。
乾燥した空気が砂塵と落ち葉を巻き上げる。
彼が思わず顔をしかめ、彼女が悲鳴をあげる。
わかってる・・・わかってるんだけど・・・
せめて、【花】が【彼】に会うまでは・・・・
そんな時だった。私は街を吹き抜ける風の中に、一人の人間の女性を見つけた。
儚げでもあり・・・凛とした強さも感じられて・・・
何より、清楚な美しさに、【花】の香りを携えて。
それなのに、まるで街を行く他の人間達には、彼女の姿は見えていないようで・・・
私は咄嗟に思った。
【花】だ・・・彼女が【花】だ・・・。
○彼
それは、本当に風のように一瞬に通り過ぎていった。
それがなんであったのかは、その時まで気付かなかったけれど、
確実な印象として残ったのは、風とともにあの人はやってきて、
俺の横を通り過ぎていったこと。
そして、【花】のような、淡い輝き。
記憶のどこかに残る、【花】のような甘い香り。
俺はふと振り返った。
しかし、すでにあの人の姿は雑踏の中に消えていた。
その甘い香りが、あの人の残像と痕跡となった。
○風
【風】が語る、【花】の想い。
私は【風】。・・・“流れてゆく者” 彼女は【花】。・・・“生を受けた者”
流れ者と生を受けた者とでは、その宿命も、役割も、決して交わることがないけれど、
私たちは常にひとつの世界で結ばれている。
たとえ、【花】が人間になったとしても。
それがどういうことを意味するのか知っていたとしても。
【風】は知っている。
【花】に時間は・・そう、ない・・・。
この街のどこかで・・・「花 音~かのん~」(前編)
おわり
この街のどこかで・・・
1月と2月は、【風】が語るファンタジー。
「花 音」~かのん~
毎日 夜11時45分~0時
朝11時30分~11時45分
木・金・土 深夜 1時 ~ 1時15分
「花 音」(前編)脚本
【風】が語る、【花】の想い。
私は【風】・・・“流れてゆく者” 彼女は【花】・・・“生を受けた者”
流れ者と生を受けた者とでは、その宿命も、役割も、決して交わることがないけれど、
私たちは常にひとつの世界で結ばれている。
【風】と【花】は、強い絆で結ばれている。
【風】は【花】が好きだし、【花】は【風】が大好きだ。
でも、【風】は“流れてゆく者”、【花】は“生を受けた者”。
不意に、そのことを思い知らせたりもする・・・・
【風】は知っている。
【花】に時間は・・そう、ない・・・。
タイトルIN 「花 音 ~かのん~ (前 編)」
ある眩しい冬の朝、私は【花】から、その気持ちを聞かされて愕然とした。
私の動揺は、キラキラと輝く冬の晴れ間とは裏腹に、
すべてを凍り付かせるような冷たい【風】となって、この街を駆け抜けていった。
水 「冗談もほどほどにしてよ! 氷っちゃうじゃない! 」
木 「君のおかげで、枝葉が風折れしちゃったじゃないか」
【水】が私が吹かせた風に文句をいい、【木】は、思いも寄らない寒風に悲鳴をあげた。
私のような【風】は、心の持ちようで、自分の意志とは裏腹に、
その心の動きが吹く風に影響する。
だから【風】なんだけど・・・
私は【花】から突然、人間の男性に恋してしまったことを聞かされた。
もっと驚いたのは、【花】は神様に、自分を人間にして欲しいと願い出たことだった。
何を言ってるの?そんなこと、叶うはずがないじゃない。
だいたい、【花】が人間になってしまったら、もう二度と・・・・
すると・・・【花】はニコッと、とても可愛らしい笑顔を見せて、
『それでもいいの』・・・と、何の外連味のない、美しい響きとともに、
その決意を口にした。
そして、『【風】ならわかってくれると信じてたよ』と言った。
私は【花】に何も言うことができなくなってしまった。
その動揺が、寒風となって、結果的に、みんなに迷惑をかけてしまった。
水 「まさか・・・」
木 「花が・・・そう言ったのか?」
風 「うん・・・」
水 「そんなこと、神様が聞くわけないじゃない。だいたい、私たちのようなモノが、
人間に恋したり、ましてや、人間になりたいなんて・・・ありえない」
木 「・・・それで、神様は承諾したのかい?」
水 「するわけないじゃない」
風 「それが・・・」
木 「したのか?」
水 「まさか!」
風 「その、まさか・・・」
水 「どういうこと!まったく・・・・花も花なら、神様も神様だわ」
木 「シー!神様に聞こえるよ」
ザワザワっと、「水」の水面が微かに震え、「木」の枝葉が、ガサガサっと音をたてた。
私は・・・・静寂を保つしかなかった。
木 「ということは・・・・花には、もう時間は残されていないわけだ」
風 「うん・・・・」
そう、人間になると決めた【花】には、もう時間がない・・・。
【花】が彼に出会ったのは、ずっと、ずっと、前。
まだ彼が少年だった頃だ。
何年も繰り返す「生」の中で、【花】はその年、彼の家の庭先に咲いた。
たった一輪、彼女はその可愛らしく、儚げな彩りを、庭の片隅の、
光があたるかあたらないかという場所に添えていた。
そんなある日のこと、花を散らす雨が降った。
【花】はずっと堪えていた。
「生」を受けた以上、簡単に散ってしまうわけにはいかない。
簡単に散ってしまえば、次の「生」が受けられない。
それが「生」を受けたものの役目であり、宿命だと、いつか【木】に教えてもらったことがある。
だから【花】は、一生懸命、その「生」をまっとうしようとしていた。
私のような「流れもの」には、【花】の試練をどうすることもできない。
「生」を受けたものの、生き抜く宿命。
「流れもの」の、見届けの役目。
私のような【風】が【花】にしてあげられのは、「生」の種を、新たな街へ運んであげる
ぐらいのこと。
「大丈夫。心配しないで」・・・【花】はいつも、【風】である私に強がってみせる。
同じ「流れもの」の【雨】がしでかすこと。
【私】は、その素行の悪さを知っていた。だから心配だった。
その不安は的中した。
雨が3日間降り続いた。
そして、その花散らしの雨に、みるみる【花】の力が尽きそうになった。
そんなとき、一人の少年が【花】に傘を差しだした。
その傘は、【雨】から【花】を守ってくれ・・・【花】は「生」をつなぐことができた。
多分・・・それがきっかけだったんだと思う。
彼は毎日、【花】に話しかけていた。【花】は嬉しそうに満面の彩りで輝いて見せた。
お家からは・・・お姉さんの趣味なのかな?クラッシック音楽が微かに聞こえてきて。
穏やかな日々は、しばらく続いた。
ところがそんなある日、その家は急に慌ただしくなった。
家の中にあった家財道具も運ばれ、庭先の鉢植えたちは、近所中に散っていった。
そして・・・誰もいなくなった。
最後に、少年は【花】に手を振っていた。「じゃあね」と手を振った。
それから家は静かになり・・・再び、家に笑顔と人々の声が戻ったときには、
その年の【花】の「生」は尽きていた。
ずっと・・・ずっと前の話だ。
「【風】はいいなぁ。どこへでも行けて」・・・それが【花】の口癖だった。
「「生」を受けたものは、いつも「流れもの」にそう言うね」と、私が応えると、
【花】はクスっと笑って、「そうだね」とだけ言う。
今思えば、【花】は「生」を受けるたびに、彼のことを想っていたのかもしれない。
本当なら、探して・・・もう一度逢いたいと思っていたのだろう。
【花】は、私が知っている以上に恋焦がれていた・・・
そうか・・・・だから人間になりたいと言い出したのか・・・・
木「それで、【花】はあんなに一生懸命「生」をまっとうしようとしていたのか」
水「長く生きれば、彼に会えるかもしれないから?そんなに簡単にいく?」
木「それもあるだろうけど、「生」をまっとうしてきたからこそ、
神様が言うこと聞いてくれたのかもしれないな」
水「まさかぁ」
風「実は、私も【木】と同じこと考えてた。
「生」を受けた者として、【花】は本当に精一杯生きてきたと思う。
でも同時に、【花】の想いとジレンマは積み重なる一方だった。
「生」を受けた【花】や【木】、そして、もちろん人間のようなものたちは、
私たち【風】や【水】【雲】のような「流れもの」にはなれない。
【花】が彼と再会するには、全てを捨てて、人間になるしかなかったのよ」
水「私には理解できないな」
木「「流れもの」には、「生」を受けて佇む僕らのような者達の気持ちはわからないよ」
水「そういう言い方ないんじゃない」
「【風】はどうして、いつも私の味方になってくれるの?」・・・【花】は不意に
そんなことを訊ねた。
私は、【花】とのお別れの時が来たことを悟った。
「どうしてだろうね?わからないよ」と応えると、【花】は微笑んで、「ありがとう」と
言った。
「ありがとう」・・・それが、私が【花】と交わした最後の言葉。
「ありがとう」・・・そう、私に言って、【花】は散っていった。
○彼
街の喧噪を聞き流しながら、ボンヤリと空を見上げる。
雲ひとつないのは、冬のせいなのだろうか?
それとも、今日はいつもより【風】が強いからなのか。
どちらにしても、晴天なのは嬉しい・・・自分にとって・・いや、二人にとって、
ある意味、特別な日なんだし・・・。
彼 女「珍しい!」
彼 「開口一番それかよ。10分の遅刻」
彼 女「たまたまでしょ。いつも、そっちの方が遅れてくるくせに」
彼 「今日はいつもと違う。特別だろ」
彼 女「うん。ゴメン。ちょっと、髪型気に入らなくて、出るの遅くなった」
彼 「まぁ、わかるけど」
彼 女「ねぇ、メイク、派手かな・・・」
彼 「そんなことないんじゃない」
彼 女「そっか。よかった。」
彼 「いつものままでいいんじゃないの」
彼 女「そうは言ってもね・・・」
彼 「緊張してんだ?」
彼 女「するでしょう、普通」
彼 「まぁ。俺も挨拶に行ったときは、緊張したし」
彼 女「会うの初めてじゃないのに、なんかやっぱ緊張してる」
彼 「大丈夫だよ。親父だっておふくろだって、もう娘だと思ってんだし。
最近は連れてこないって、俺が文句言われてるくらいなんだぜ」
彼 女「・・・(ため息)でもね、今日は特別だから」
彼 「大丈夫だって」
先日、俺が彼女の家に挨拶に行った。彼女の両親に、結婚を申し込んだことを報告した。
お母さんは終始笑顔だった。お父さんは半分喜び、半分寂しそうだった。
そして、今日は、彼女がうちに来ることになっていた。
もう何回も会っているというのに、今日はいつもと違うという緊張感が、
彼女はもちろんのこと、俺自身にも少しあった。
彼 「さ、行こう」
彼 女「もう、風強い!!髪がぐしゃぐしゃになっちゃう。最低!」
○【風】
私は【花】のことが心配だった。
【花】は本当に人間になれたのだろうか?
私にはそのことを確かめる術はない。・・・
【風】と【人間】は、感じることはできても、話すことはできないから。
私はふと思った・・・・。
【花】はきっと、【彼】の前に現れる。必ず、【彼】の前に。
だったら、私が【花】を見届けるためには、【彼】を探せばいい。
【彼】にまとわりついて、【花】が来るのを待とうと思った。
【木】や【水】、【雲】や【空】に、【彼】の居場所を訊いた。
【鳥】たちにだって、【蟲】にだって訊いた。
そして、私は【彼】を見つけることができた。
あの時の少年は、もう、立派な青年になっていた。
そして、【花】の想いも知らず、一人の人間の女性を愛していた。
わかってるんだけど・・・ちょっと色めいた。
自分でもよくわからずに、ザワザワとした感情がこみ上げてきた。
乾燥した空気が砂塵と落ち葉を巻き上げる。
彼が思わず顔をしかめ、彼女が悲鳴をあげる。
わかってる・・・わかってるんだけど・・・
せめて、【花】が【彼】に会うまでは・・・・
そんな時だった。私は街を吹き抜ける風の中に、一人の人間の女性を見つけた。
儚げでもあり・・・凛とした強さも感じられて・・・
何より、清楚な美しさに、【花】の香りを携えて。
それなのに、まるで街を行く他の人間達には、彼女の姿は見えていないようで・・・
私は咄嗟に思った。
【花】だ・・・彼女が【花】だ・・・。
○彼
それは、本当に風のように一瞬に通り過ぎていった。
それがなんであったのかは、その時まで気付かなかったけれど、
確実な印象として残ったのは、風とともにあの人はやってきて、
俺の横を通り過ぎていったこと。
そして、【花】のような、淡い輝き。
記憶のどこかに残る、【花】のような甘い香り。
俺はふと振り返った。
しかし、すでにあの人の姿は雑踏の中に消えていた。
その甘い香りが、あの人の残像と痕跡となった。
○風
【風】が語る、【花】の想い。
私は【風】。・・・“流れてゆく者” 彼女は【花】。・・・“生を受けた者”
流れ者と生を受けた者とでは、その宿命も、役割も、決して交わることがないけれど、
私たちは常にひとつの世界で結ばれている。
たとえ、【花】が人間になったとしても。
それがどういうことを意味するのか知っていたとしても。
【風】は知っている。
【花】に時間は・・そう、ない・・・。
この街のどこかで・・・「花 音~かのん~」(前編)
おわり
| この街のどこかで・・・ | | |










