この街のどこかで・・・
湘南チャンネル デジタル002ch/アナログ2ch
夜11時45分~
昼 2時30分~ 他
彼 「静かに、糸を引くように降り続いている雨は、今朝になってもやまなかった。
昨日の朝の時点で、天気予報では梅雨入りを宣言していたから、
雨が降ることはあらかじめ予想はついていた。
だから、休日であっても、特に予定を入れることはせず、
自室で一日を過ごすと決めていた。
何かするというわけでもなく、おもむろにテレビをつけた。
タレント達が、先日、小学校時代の友達と偶然会ったものの、
小学生の時のイメージが強すぎて、大人になった目の前の姿を、
最後まで、受け入れかたかった自分がいたという話をしていた。
いわゆる“あるある”ネタなんだけど、自分もこの間、同じ経験をしたので、
わかる話でもあった。
そういえばその時に、小学校の卒業アルバムを見直そうと思ったんだった。
やろうと思っていたことを思い出し、自室の収納から、
小学校の時の卒業アルバムを引っ張り出した。
6年2組・・・・。
いたいた。・・・・自分は意外に変わってないな。
パラパラとアルバムをめくっていると、間に封筒がはさまっているのを見つけた。
なんだろう・・・・って思って、中のものを取り出してみる。
写真だった。小学校までやっていた、少年野球の集合写真。
大事なリーグ戦が終わった後に撮影したものだった。
自分を探し、見つけた後、次に探したのが・・・・当時、好きだった女の子。
同じクラスで、俺を含めたクラスの何人かがチームにいたので
友達同士で試合の応援に来てくれた。写真は、その時撮ったものだった。
不意に甦る当時の記憶。
そう言えば、あの時も、こんな静かな雨が降っていた。」
彼女「静かな雨が降っていた。
これは私の涙雨だ。そんな風に思わないと、
この重苦しい時間に耐えられない気がした。
サヨナラには慣れていた。
子供の時から、父親の仕事の関係で転勤が多かったから、
毎年のように私は別れを経験していた。
慣れたと思い込むことで、私はその哀しみと切なさを堪えてきた。
転校ばかりしていた私は、中学を卒業するまで、親しい友人は一人もいなかった。
高校進学の時、寮がある私学を希望したのは、転校し、サヨナラを続けるのに
疲れたからでもあった。
ただ、同じ学校に3年いるということがなかった私は、長く友人と付き合う術を
身につけておらず、対人関係に悩むことも多かった。
初対面で何とか友達になるためには、本心をとりあえず隠して、
相手に合わせるということが、私の中に染みついていた。
そしてそれは、私を、自分の本心をうまく伝えることができない
不器用な人間にしたんだと思う。だから、誤解されることも多かった。
大人になり、いろいろなことに煩わされて、心が疲れていた時に、
私はあの人と出会った。
あの人の優しさは、私を癒してくれた。
だから、その恋にのめり込むのに時間はかからなかった。
でも、先日、偶然にも彼が前の彼女と復縁を願っていると知ってしまい、
私は彼からその本心を聞き出すと、そのままサヨナラを言った。
大丈夫。サヨナラには慣れてる。その時は、そう自分に言い聞かせていた。
でも、日増しに強くなっていく寂しさと哀しみ・・・・。
結局、誰もやさしくない・・・・。
カーテンを少しだけ開けて、その隙間から窓の外を眺めた。
霧のような雨が、風に舞い、靄が世界を白濁に変える。
雨が降ると、時々ボンヤリと思い出す小学校の頃の出来事。
いつも“サヨナラ”をすると思うのだ。
結局、“彼”がいちばん優しかったったって。
子供の頃の思い出を美化しているのはわかっていた。
でも、押しつぶされそうになる心を持ちこたえるには、
過去の美しい思い出を彷徨うことでバランスをとることしか私は知らなかった。
憂鬱な時間を抱え込むようにして、私はまた、ベットに潜り込んだ。
彼「あの子に初めて出会ったのは、小学5年生の3学期だった。
その時、俺は隣のクラスで、突然見慣れない女の子と廊下にすれ違って、
ドキドキしたのを憶えている。
ひと言で言えば、一目惚れだったんだろう。
5年生が終わって6年生にクラス替えが行なわれようとしたとき、
実は一番に考えたことは、あの子と同じクラスになることだった。
その願いは見事通じ、6年生に同じクラスになることができた。
あの子は人前ではいつもニコニコしているけど、一人でいる時は、物憂げな、
とても寂しそうな表情をしていた。
あの子が時々垣間見せる、その憂いの理由を知ったのはすぐだった。
転校が多いことは聞いていた。
そして今回も、親の転勤の関係で、すぐに別の街に転校することがわかっていた。
今は、家族の環境が整うまで、祖父母の家に預けられているだけで、
この学校に登校しているのは、一時的なのだという。
それを聞いてショックを受けた。同時に、あの子の一挙手一投足に、
目が離せなくなっていた。」
彼女「やっと仲良くなれたと思ったら、クラス替えになって、仲良くしてくれた子とは
別々のクラスになってしまったことで、私はもう一度友達づくりを
やり直すことになった。
でも、夏がはじまる頃には、また、別の学校に行くことは知っていたから、
4月になってから、私は積極的に友達を作る気持ちになれなかった。
どうせ“サヨナラ”してしまうんだから、あまり仲良くすると辛いからという
気持ちがそうさせた。
だから私は孤立することが多くなった。
仲間はずれにされたというわけじゃないけど、なるべく一人になろうとしていた
私に、自然と周囲から声がかからなくなったということ。
でも小学校では必ずグループがあって、班分けがある。
だから一人でいるわけにはいかないことも多々あった。
そんな時、決まって声をかけてくれるのが“彼”だった。
地域の少年野球チームに入っていて、いつも仲間で活発に行動していることは
知っていた。
そんな彼が、何で、私にそんなに優しくしてくれるのか・・・・
最初は戸惑いもあったんだけど、私はその度にそんな彼に甘えて、
乗り切っていった。
そうしているうちに、やっぱり情も湧いてくるもので、
彼が他の女の子と楽しそうにしているのは面白くなかったし、
彼がケガをしたと聞くと、本気で心配している自分がいた。
今思えば、それが私の初恋だったと言える。」
彼 「それは突然だった。
朝のホームルームの時間に担任の先生が、彼女を前に呼ぶと、
予定が早まったとかで、一週間後に彼女が転校することを知らされた。
頭の中が真っ白になった気がする。
なんで予定が早まるんだよと、どうすることも出来ない苛立ちが心の中を
駆けめぐって、泣きたくなるのを堪えた。
そんな発表があったからか、彼女の周りに人が集まるようになった。
逆に自分は近づけなくなっていった」
彼女「転校が早くなると家で聞かされたとき、いつもなら素直に応じていた私は、
珍しく転校したくないと泣いた。初めてのことだった。
でも、私にはどうすることもできないとわかっていた。
学校で先生が転校のことをみんなに話すと、同情からか、私の周りに人が集まる
ようになった。
逆に、いつも優しい声をかけてくれた彼は、私を避けているように感じた。
私はそれが切なかった。
そんな時、クラスの女の子たちが、私を野球の応援に誘ってくれた。
クラスの男子の何人かが加入している少年野球チームの試合があるから、
それを応援に行こうという。
私は、彼が出場することがわかっていたから、その誘いを快諾した」
彼 「彼女が試合を見に来ると知って、いつも以上に気合いが入っていた。
でも、その気合いが空回りしたのは、その日の朝のことだ。
試合前の練習中に、足首を捻挫してしまった。
監督から大事をとって欠場しろと言い渡されたときは、さすがにショックだった。
クラスの女の子たちが応援に駆けつけ、テンションがあがって盛り上がる
チームメイトを尻目に、俺は誰も来ない、学校の非常階段の一番上にあがって、
情けない自分にひとりで泣いた。
そんな時だ、後ろから自分の頭に、優しくタオルがかけられた。
驚いて振り返ると、そこには階段を降りていく彼女の後ろ姿があった。」
彼女「一週間なんてあっという間。
最後の日にクラスメイトに別れを告げた。
お別れの記に、みんなが色紙に寄せ書きをしてくれた。
私は真っ先に、彼の名前を探した。決してきれいな字ではなかったけど、
力強く“元気でな”と書かれていたことが嬉しかった。
翌朝、両親が迎えに来た時は雨が降っていた。
静かな、糸を引くかのような細い雨。
先に車に乗っててという両親に従い、私は誰よりも早く玄関を出た。
そして車に乗り込もうとした時、私はこちらに向かってくる人影に気が付いた。
視線を移すと、そこには、傘をさして彼がたっていた。
きっとお父さんの傘なのだろう。大きく、ダーク系の色をしたその傘は、
彼の体の大きさと不釣り合いだった。
彼はおもむろに私に歩み寄ると、この間の試合の時に渡したタオルを差し出した。
“これ、ちゃんと洗濯してあるから”という彼の思わぬ言葉に、
私は吹き出してしまう。
バツが悪そうな彼に、私は“ありがとう”と言って受け取った。
彼はそれから私に、“元気でな”と言った。私はまた、“ありがとう”と言った。
それからは、どんどん切なさがこみ上げてきて、私は車に乗り込んでしまった。
泣きそうになったのを堪えるためでもある。
行き場をなくした彼は、ゆっくりと立ち去っていった。
後部座席から見ていると、しばらくして、また彼が振り返ってこちらを見つめる。
私と目があった。
ゆっくりと発進する車のリアウインドウから、私は彼に手を振った。
彼は、軽く手をあげて応えた。」
彼 「そう。あの日も、こんな静かな雨が降っていた。
まるで音もなく、静かに遠ざかっていく彼女を見つめていた。
見えなくなっても、しばらくそこにいた。
それが彼女との最後だった。
ふと、部屋の外を眺めた。雨がやみ、雲間から陽射しが出はじめた。
そうだ、あの時も家に帰る途中、空の向こうに薄明光線が出ていた。
今、彼女はどうしているんだろうか」
彼女「彼に見送られ、しばらく車で走っていると、陽射しが出てきた。
空の向こうに薄明光線があらわれ、神秘的な影を街に落とす。
その現象のことを“天使の梯子”と言われているのを知ったのは
大人になってからだった。
憂鬱なベットから這い出て、窓から外を見ると、雨は止み、空の向こうに
その天使の梯子が出ていた。
私は一瞬、夢と現実の境がわからなくなった。
夢?そうか・・・・私は彼とのことを夢に見ていたのか・・・・。
今、彼はどうしているんだろうか?
まだ、あの街にいるのだろうか?
まだ、私に優しくしてくれるだろうか?」
この街のどこかで・・・
「 空の向こうに天使の梯子を見つけ、ボクらはあの日の想いを綴る」
おわり