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皆様へ

アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2001を以下に掲載いたします。このガイドラインは、厚生科学研究「アトピー性皮膚炎の既存治療法の適応と有効性の再評価に関する研究」の一貫として、アトピー性皮膚炎治療ガイドライン1999を改訂したものです。今後も皆様方のご尽力を得て、このガイドラインの改良が継続されることを祈念いたします。ガイドラインの末尾に記載されておりますが、ガイドラインの集約にご尽力いただきました広島大学皮膚科 山本昇壯教授をはじめ、諸先生方に心より感謝申し上げます。
2001年4月8日   研究班主任研究者  九州大学皮膚科  古江増隆

アトピー性皮膚炎治療ガイドライン
2001



A guideline for the treatment of atopic dermatitis 2001

平成8年度厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー総合研究
および平成9ー12年度厚生科学研究
分担研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドラインの作成」より

本ガイドラインは現在ともすれば混乱しがちなアトピー性皮膚炎の治療に関して、その概要を示すものであって必ずしも個々の治療法の詳細を示すものではない。なお、本ガイドラインはアトピー性皮膚炎の診療にかかわる臨床医を広く対象として作成されたものである。


アトピー性皮膚炎の概念

アトピー性皮膚炎は増悪・寛解を繰り返す、掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。(付表1)


本ガイドラインの要点

  1. 診断
    上記の概念に従い,類似の症状を示す他の湿疹・皮膚炎群などを鑑別し、適切な診断がなされなければならない。
  2. 皮膚症状の評価
    治療法の選択にあたっては,皮膚症状の適切な評価が必要である。
  3. 治療の基本
    上記の評価に基づき、個々の患者において原因・悪化因子の検索・対策、スキンケア、薬物療法を適切に組み合わせて行う。 患者には治療に関する情報を十分に伝え、良好なパートナーシップを構築する。
  4. 原因・悪化因子の検索と対策
    各患者に関わる原因・悪化因子は多岐にわたるため(4頁)、各患者ごとにそれらを把握し、除去等の対策が必要である。
    1. スキンケア
      本症患者には様々の皮膚機能異常があり(4頁)、それらが皮膚炎の発症および増悪に深くかかわることが知られている。これらの皮膚機能異常の補正のために適切なスキンケアが必要である。
    2. 薬物療法
      炎症を抑制するためには適切な薬物療法が必要である(5頁)。


治療ガイドラインの概要


診断
重症度の評価
原因・悪化因子
検索と対策
スキンケア
(異常な皮膚機能の補正)
薬物療法


診断基準について

 本邦における診断基準には、日本皮膚科学会基準(付表1)と厚生省心身障害研究班基準(付表2)がある。前者は全年齢を対象とし、後者は小児を対象としたものであるが、両者は大筋において矛盾するものではなく、日常診療においてはいずれかの基準に基づいて診断する。

重症度のめやす

 現在アトピー性皮膚炎の重症度評価にはいくつかの基準が提唱されているが、その判定には熟練を要求されるため、ここでは治療のためのめやすとして下記の重症度を定める。

軽 症: 面積に関わらず、軽度の皮疹のみみられる。
中等症: 強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%未満にみられる。
重 傷: 強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%以上、30%未満にみられる。
最重症: 強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上にみられる。
*軽度の皮疹:軽度の紅斑、乾燥、落屑主体の病変(付図1,2,3参照)
**強い炎症を伴う皮疹:紅斑、丘疹、びらん、浸潤、苔癬化などを伴う病変(付図4,5,6参照)



原因・悪化因子
2歳未満 2歳〜12歳 13歳以上
○ 食物
○ 発汗
○ 環境因子
○ 細菌・真菌など
○ 環境因子
○ 発汗
○ 細菌・真菌
○ 接触抗原
○ ストレス
○ 食物など

注1)患者によって原因・悪化因子は異なるので、個々の患者
  においてそれらを十分確認してから除去対策を行う。


スキンケア(異常な皮膚機能*の補正)
  1. 皮膚の清潔
    毎日の入浴、シャワー
    • 汗や汚れは速やかにおとす、しかし、強くこすらない
    • 石鹸・シャンプーを使用するときは洗浄力の強いものは避ける
    • 石鹸・シャンプーは残らないように十分にすすぐ
    • 痒みを生じるほどの高い温度の湯は避ける
    • 入浴後にほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は避ける
    • 患者あるいは保護者には皮膚の状態に応じた洗い方を指導する
    • 入浴後には, 必要に応じて適切な外用剤を塗布する          など
                          
  2. 皮膚の保湿
      保湿剤(付表4)
    • 保湿剤は皮膚の乾燥防止に有用である
    • 入浴・シャワー後は必要に応じて保湿剤を塗布する
    • 患者ごとに使用感のよい保湿剤を選択する
    • 軽微な皮膚炎は保湿剤のみで改善することがある          など
                         
  3. その他
    • 室内を清潔にし、適温・適湿を保つ
    • 新しい肌着は使用前に水洗いする
    • 洗剤はできれば界面活性剤の含有量の少ないものを使用する
    • 爪を短く切り、なるべく掻かないようにする            など


*アトピー性皮膚炎における主な皮膚機能異常
・水分保持能の低下     ・痒みの閾値の低下     ・易感染性

薬物療法の基本
  1. ステロイド外用薬の強度、剤型は重症度に加え、個々の皮疹の部位と性状および年齢に応じて選択する(付表3)。
  2. ステロイド外用に際して、次の点に留意する。
    1. 顔面にはステロイド外用薬はなるべく使用しない。
      用いる場合、可能な限り弱いものを短期間にとどめる。
    2. 長期使用後に突然中止すると皮疹が急に増悪することがあるので、中止あるいは変更は医師の指示に従うよう指導する。
    3. 強度と使用量をモニターする習慣をつける。
  3. 症状の程度に応じて、適宜ステロイドを含まない外用薬を使用する。
  4. 必要に応じて抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬を使用する。
  5. 1〜2週間をめどに重症度の評価を行い、治療薬の変更を検討する。


薬物療法の基本例
軽症 中等症 重症 最重症
外用薬
全年齢
 ステロイドを
 含まない外用薬


必要に応じて
ステロイド外用薬
(マイルド以下)


外用薬
2歳未満
 ステロイド外用薬
 (マイルド以下)
2〜12歳
 ステロイド外用薬
 (ストロング以下)
13歳以上
 ステロイド外用薬
 (ベリーストロング以下)


外用薬
2歳未満
 ステロイド外用薬
 (ストロング以下)
2〜12歳
 ステロイド外用薬
 (ベリーストロング以下)
13歳以上
 ステロイド外用薬
 (ベリーストロング以下)


外用薬
2歳未満
 ステロイド外用薬
 (ストロング以下)
2〜12歳
 ステロイド外用薬
 (ベリーストロング以下)
13歳以上
 ステロイド外用薬
 (ベリーストロング以下)
内服薬
 必要に応じて
 抗ヒスタミン薬
 抗アレルギー薬
内服薬
 必要に応じて 
 抗ヒスタミン薬
 抗アレルギー薬
内服薬
 必要に応じて 
 抗ヒスタミン薬
 抗アレルギー薬
内服薬
 必要に応じて
 抗ヒスタミン薬
 抗アレルギー薬
- - - - - - - - - - - - - -
ステロイド
 (必要に応じて一時的に)
(原則として一時入院)
十分な効果が認められない場合
  (ステップアップ)
十分な効果が認められた場合
  (ステップダウン)


経過中の注意事項

  1. アトピー性皮膚炎は、伝染性膿痂疹、カポジ水痘様発疹症、伝染性軟属腫などの感染症を合併しやすいため、これらの早期発見に努め、速やかに適切な処置を行う。
  2. 眼病変(特に白内障、網膜剥離など)の合併に注意する。眼を強くこする、あるいは叩くなどの外傷性要因は眼病変の発生・悪化につながる可能性があるので留意する。
  3. 外用薬により接触皮膚炎をおこす可能性もあるので、症状が遷延・悪化する場合は注意する。
  4. このガイドラインは一般的なめやすであり、個々の患者によってはこの限りではない。
  5. このガイドラインに従って1か月程度治療しても皮疹の改善がみられない場合は、専門の医師または施設への紹介を考慮する。

付 記

  1. 16歳以上のアトピー性皮膚炎患者を対象に非ステロイド系免疫抑制薬であるタクロリムス外用薬(プロトピック軟膏)が開発され、特に顔面の皮疹に対して有用であるが、その使用はガイダンスにのっとって慎重に行う(臨床皮膚科 53(12):1057-1068、1999)。
  2. 今後新しい治療法が開発されて、その有用性が明らかにされれば、順次修正・追加していくものとする。


付表1.アトピー性皮膚炎の定義・診断基準(日本皮膚科学会)


アトピー性皮膚炎の定義(概念)・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解を繰返す、掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。」
アトピー素因:・家族歴・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)、または・IgE抗体を産生し易い素因。

アトピー性皮膚炎の診断基準・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  1.  掻痒
  2.  特徴的皮疹と分布
  1. 皮疹は湿疹病変
    • 急性病変:紅斑、湿潤性紅斑、丘疹、漿液性丘疹、鱗屑、痂皮
    • 慢性病変:浸潤性紅斑・苔癬化病変、痒疹、鱗屑、痂皮
  2. 分布
    • 左右対側性  好発部位:前額、眼囲、口囲・口唇、耳介周囲、頸部、四肢関節部、体幹
    • 参考となる年齢による特徴
          乳児期:頭、顔にはじまりしばしば体幹、四肢に下降。
          幼小児期:頸部、四肢屈曲部の病変。
          思春期・成人期:上半身(顔、頸、胸、背)に皮疹が強い傾向。
  • 慢性・反復性経過(しばしば新旧の皮疹が混在する)
:乳児では2カ月以上、その他では6カ月以上を慢性とする。
上記1、2、および3の項目を満たすものを、症状の軽重を問わずアトピー性皮膚炎と診断する。
そのほかは急性あるいは慢性の湿疹とし、経過を参考にして診断する。
除外すべき診断・・・・・・・・・・・・・
  • 接触皮膚炎
  • 脂漏性皮膚炎
  • 単純性痒疹
  • 疥癬
  • 汗疹
  • 魚鱗癬
  • 皮脂欠乏性湿疹
  • 手湿疹
    (アトピー性皮膚炎以外の手湿疹を除外するため)
臨床型(幼小児期以降)・・・・・・・・・・・・・
  • 四肢屈側型
  • 四肢伸側型
  • 小児乾燥型
  • 頭・頸・上胸・背型
  • 痒疹型
  • 全身型
  • これらが混在する症例も多い
診断の参考項目・・・・・・・・・・・・・・
  • 家族歴
    (気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎)
  • 合併症
    (気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎)
  • 毛孔一致性丘疹による鳥肌様皮膚
  • 血清IgE値の上昇
重要な合併症・・・・・・・・・・・
  • 眼症状(白内障、網膜剥離など)
    :とくに顔面の重症例
  • カポジー水痘様発疹症
  • 伝染性軟属腫
  • 伝染性膿痂疹


付表2.アトピー性皮膚炎の診断の手引き(厚生省心身障害研究)

・ アトピー性皮膚炎とは

 アトピー性皮膚炎とは、主としてアトピー素因のあるものに生じる、慢性に経過する皮膚の湿疹病変である。このため、本症の診断に当たっては、いまだ慢性経過の完成をみていない乳児の場合を考慮し、年齢に対する配慮が必要である。
注:アトピー素因とは気管支喘息、アトピー性皮膚炎、
アレルギー性鼻炎の病歴または家族歴を持つものをいう。

・ アトピー性皮膚炎の主要病変



1)乳児について

a) 顔面皮膚または頭部皮膚を中心とした紅斑または丘疹がある。耳切れが見られることが多い。
b)患部皮膚に掻は痕がある。
注:紅斑:赤い発疹、丘疹:盛り上がった発疹、
掻は痕:掻き傷の痕

2)幼児・学童について

a)頸部皮膚または腋窩、肘窩もしくは膝窩の皮膚を中心とした紅斑、丘疹または苔癬化病変がある。耳切れが見られることが多い。
b
)乾燥性皮膚や粃糖様落屑を伴う毛孔一致性角化性丘疹がある。
c
)患部皮膚に掻は痕がある。
注:苔癬化:つまむと硬い、きめの粗い皮膚
粃糖様落屑:米ぬか様の皮膚の断片
 

・ アトピー性皮膚炎の診断基準


1)乳児について
II-1)に示す病変のうちa)、b)の双方を満たし、[別表]に示す皮膚疾患を単独に罹患した場合を除外したものをアトピー性皮膚炎とする。
2)乳児・学童について
II-2)に示す病変のうちa)あるいはb)、及びc)の双方、並びに下記のイ)、ロ)の条件を満たし、[別表]に示す皮膚疾患を単独に罹患した場合を除外したものをアトピー性皮膚炎とする。
イ)皮膚に痒みがある。   
ロ)慢性(発症後6か月以上)の経過をとっている。


  [別表]以下に示す皮膚疾患を単独に罹患した場合はアトピー性皮膚炎から除外する。

1)おむつかぶれ   2)あせも   3)伝染性膿痂疹(とびひ)  4)接触皮膚炎(かぶれ)   5)皮膚カンジダ症  6)乳児脂漏性皮膚炎  7)尋常性魚鱗癬(さめはだ)  8)疥癬 9)虫刺され  10)毛孔性苔癬


付表3.主なステロイド外用薬の臨床効果分類の1例
薬 効 一 般 名 代表的な製品名
I群
ストロンゲスト
プロピオン酸クロベタゾール
酢酸ジフロラゾン
デルモベート
ジフラール、ダイアコート
II群
ベリーストロング
フランカルボン酸モメタゾン
酪酸プロピオン酸ベタメタゾン
フルオシノニド
ジプロピオン酸ベタメタゾン
ジフルプレドナート
ブデソニド
アムシノニド
吉草酸ジフルコルトロン
酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン
フルメタ
アンテベート
トプシム、シマロン
リンデロンDP
マイザー
ブデソン
ビスダーム
ネリゾナ、テクスメテン
パンデル
III群
ストロング
プロピオン酸デプロドン
プロピオン酸デキサメタゾン
吉草酸デキサメタゾン
ハルシノニド
吉草酸ベタメタゾン
プロピオン酸ベクロメタゾン
フルオシノロンアセトニド
エクラー
メサデルム
ボアラ、ザルックス
アドコルチン
リンデロンV、ベトネベート、
プロパデルム
フルコート、フルゾン
IV群
マイルド
吉草酸酢酸プレドニゾロン
トリアムシノロンアセトニド
ピバル酸フルメタゾン
プロピオン酸アルクロメタゾン
酪酸クロベタゾン
酪酸ヒドロコルチゾン
リドメックス
レダコート、ケナコルトA
ロコルテン
アルメタ
キンダベート
ロコイド
V群
ウィーク
プレドニゾロン 酢酸ヒドロコルチゾン プレドニゾロン
コルテス


付表4. 保湿を目的とした主な外用薬(医薬品)
一般名 代表的な製品名
ワセリン  
亜鉛華軟膏  
親水軟膏  
尿素含有軟膏 ウレパール軟膏、ケラチミン軟膏
パスタロンソフト、パスタロン10ローション、
パスタロン20、パスタロン20ソフト
ヘパリン類似物質軟膏 ヒルドイド軟膏、ヒルドイドソフト
アズレン軟膏 アズノール軟膏
付図1 付図4
付図2 付図5
付図3 付図6
本ガイドライン作成協力者


青木敏之
秋山一男
今山修平
小澤 明
倉繁隆信
河野陽一
高路 修
坂根 剛
下条直樹
田中洋一
玉置邦彦
鳥居新平
中川秀己
中山秀夫
西間三馨
古江増隆
古川福実
眞弓光文
溝口昌子
森田栄伸
山下直美
山本一哉
山本昇壯 


あおきクリニック・かゆみ研究所院長
国立相模原病院臨床研究センター部長
九州大学医学部皮膚科講師
東海大学医学部皮膚科教授
高知医科大学小児科前教授
千葉大学医学部小児科教授
県立広島病院皮膚科部長
聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター内科前教授
千葉大学医学部小児科講師
国立療養所川棚病院皮膚科部長
東京大学医学部皮膚科教授
愛知学泉大学家政学部教授
自治医科大学皮膚科教授
中山皮膚科クリニック院長
国立療養所南福岡病院院長
九州大学医学部皮膚科教授
和歌山県立医科大学皮膚科教授
福井医科大学小児科教授
聖マリアンナ医科大学皮膚科教授
広島大学医学部皮膚科講師
帝京大学医学部内科助教授
愛育病院皮膚科部長
広島大学医学部皮膚科教授

(○は分担研究者)      

本ガイドラインは、厚生科学研究費補助金を得て行った研究成果としてとりまとめられたものである。また、本ガイドラインの内容については、研究班の総意を反映したものであり、厚生省の見解や政策を示したものではない。