< ホリデーパスを使って その2  北関東を走る >

2002/6

古河 - 渡良瀬川遊水池 - 館林 - 足利 - 北鴻巣    約100km

 


     旧上毛モスリン株式会社の本館

この日は太平洋上を低気圧が北上した。小さな台風並の北西風に逆らっての走りとなった。

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 一体私は衣服反物に対して、単に色合いが好いとか柄が粋だとかいう以外に、もっと深く鋭い愛着心を持って居た。女物に限らず、凡べて美しい絹物を見たり、触れたりする時は、何となくふるい附きたくなって、丁度恋人の肌の色を眺めるような快感の高潮に達することが屡々であった。殊に私の大好きなお召や縮緬を、世間憚らず、恣に着飾ることの出来る女の境遇を、嫉ましく思うことさえあった。
 あの古着屋の店にだらりと生々しく下って居る小紋縮緬の袷  ー  あのしっとりした、重い冷たい布が粘つくように肉体を包む時の心好さを思うと、私は思わず戦慄した。あの着物を着て、女の姿で往来を歩いて見たい。・・・こう思って、私は一も二もなくそれを買う気になり、ついでに 友禅の長襦袢や、黒縮緬の羽織迄も取りそろえた。 谷崎潤一郎  「 秘密 」 

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 谷崎の文を引用したのは「そういえば最近、繊維製品の素材について云々することが少なくなったなあ」と思ったからです。一昔前までは反物だけでなく、カシミヤドスキンだとか、綿ギャバジンだとか普通に耳にしました。製品の質が上がって素材を考えなくてもよくなったという面もあるでしょうが、衣類が使い捨て感覚になってきたようにも思われます。

 しかし、衣類に限らず住宅についても同じような感じを持ちます。マンションから一戸建てへ。家族が増えてきたから広い家に移転。子供達が独立したから都心のマンションに引っ越し。都市の生活は「根無し草」だと云われますが、何処か「仮住まい」の感覚があたりまえになってしまっているようです。

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 両毛線の沿線は織物の街のイメージが強い。JRホリデーパスを使って出かける北関東。3月には小山から栃木、益子方面を走った。今回は古河から北西。足利へ。計画では桐生、伊勢崎を回るつもりだったが、見物に時間が掛かって予定の半分しか走れなかった。

 


 

< 古河 >

 

 渡良瀬遊水池から館林、足利と足を伸ばす計画で古河をスタート地点とした。古河については予備知識は何もなかった。渡辺崋山が描いた肖像画で知られる鷹見泉石の住んだ家が残るということで、寄り道をしてみた。落ち着いた町並みの一画にある。茅葺きの住居がよく手入れされている。色々な街をまわっていると、こうした文化的施設のあり方が住む人の文化的水準を示しているようで面白い。

 


       旧鷹見泉石住居

 

 

< 渡良瀬遊水池 >

 

    

 関東平野もこの辺りは渡良瀬川の支流や水路が多く、水郷地帯を走っている錯覚に陥る。

 

 

< 館林 >

 

 館林。童話「分福茶釜」の物語の舞台となった茂林寺へ寄って、つつじが岡公園にまわる。城沼に沿って公園が整備されている。ハナショウブを見て、田山花袋の旧宅や旧上毛モスリン事務所を見学。

 


     モスリン織り機

 

 モスリン。しばらくぶりに聞く名前だった。「唐縮緬(とうちりめん)」「メリンス」ともいう薄地で平織りの毛織物。薄地で柔らかく、無地染、友禅染などに加工し、着尺、じゅばん、はんてん、寝具、ブラウス、スカーフなどに用いられるという。

 

 

< 足利学校 >

 

 

 足利学校は特別無料公開日。この日は講堂で漢字検定試験が行われていた。文化財とそこで実際に勉強する子供達。足利学校は建物も新しく整備され、建物や庭など古いものと新しいものが違和感なく調和している。そして実際に生きた使い方がされている。

 


 

< 追い風にのって >

 

 今日は行程を切り上げて南下。ありがたいことに追い風。軽く回すだけでグングン走る。いい気になって走っていたら、熊谷への分岐点を通過してしまい仲間からヒンシュク。

 


                   日が傾いてきた。影が長くなる。

 

 しかし南に向かって走って行けば高崎線にぶつかるはず。武蔵水路に沿ってひたすら走って北鴻巣に着く。駅の近所で食事を済ませたら、すっかり日が暮れてしまっている。自転車を畳んでホームに上がると、ホームの裏手が田圃になっていて、のどかにも蛙の合唱が聞こえていた。

 谷崎が「陰翳礼賛」や「秘密」などで表現した皮膚感覚化された歴史・風土・文化。それらは地方都市にかろうじて残照として残されている。それらがまた、こうして地方都市へ向かわせる魅力でもある。

 

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