クドリャフカ
ちきゅうはまっくろなたまでした。
せんそうやかんきょうはかいで、いきているにんげんはとてもすくなくなりました。
そんなときうちゅうのはてからおおきなほしがふってくることがわかりました。
このままではやがてちきゅうにぶつかって、ちきゅうはこんどこそほんとうにこわれてしまうでしょう。
のこったヒトたちはよりあつまり、ちえをしぼりました。
おおきなうちゅうせんにおおきなミサイルをのせ、おおきなほしをこわしたらいいとだれかがいいました。
さっそくおおきなミサイルとおおきなうちゅうせんがつくられました。
うちゅうせんはスターシップとよばれひとびとをすくうきぼうのふねになりました。
けれどざいりょうがたりなかったので、できあがったうちゅうせんはとてもちいさくなってしまいました。
きぼうのふねはとてもちいさいので、おとなはのることができません。
ちきゅうをすくうためになんにんものこどもたちがえらばれてくんれんをうけました。
なかでもいちばんにゆうしゅうなこがスターシップにのってうちゅうをとぶことがゆるされるのです。
そのこはきんいろのうつくしいまきげをもっていました。
きびしいテストをいくつもくぐりぬけて、ちきゅうでいちばんにすぐれたこどもとみとめられたおんなのこのなまえを、アンジェラといいました。
アンジェラはかしこくつよく、スポーツもシミュレーションもいちばんよくできるのです。
ちきゅうじょうのヒトはみなアンジェラこそせかいをすくうきゅうせいしゅ、てんしのうまれかわりとたいせつにしました。
ことにおとなは、アンジェラのみごとなきんいろのまきげや、いろいろなはつめいをするずのうや、あおくふかくけぶるひとみをほめたたえました。
けれどアンジェラがおおきくなってせかいをみちびくことはないのを、かれらはよくしっています。
それはどうしようもないことでした。
スターシップにのせられるものはなにもかもみなかぎられていて、ちいさなアンジェラでものりこむのがやっとで、とてもかえりのぶんのねんりょうをつみこむよゆうがなかったのです。
ちきゅうでいちばんあたまのいいこは、うちゅうでひとりきりでねむらなければならないきまりでした。
アンジェラのいちばんのともだちのゼルダは、アンジェラがスターシップののりくみいんにえらばれたとき、とてもかなしみました。
じぶんがえらばれなかったからじゃあ、ありません。
アンジェラならばきっと、みんなをたすてくれるでしょう。
それでもゼルダはかなしくてしかたがなかったのです。
なんでもいちばんにできるアンジェラとちがって、ゼルダはなにをやってもだめでした。
ゼルダはなきむしで、なんでもゆっくりかんがえるこだったので、みんなゼルダをおいていってしまいました。
いつだっていちばんさいごまでのこってしまうゼルダをまっていてくれるのは、いつだってアンジェラひとりでした。
もんだいをとくのもかけっこもおそいゼルダをおいて、みんなどんどんさきへいってしまうときでも、アンジェラはいつもまっていてくれました。
「あなたってほんとうにグズなんだから。」
「なくんじゃないの、よわむし。」
そういいながらゼルダとてをつないで、ゼルダのしらないことをおしえてくれるのです。
ゼルダはあたまがよくてきれいであしのはやいアンジェラがだいすきでした。
アンジェラがおおきなほしへとんでいってしまえば、もうにどとアンジェラとはあそべなってしまいます。
もうにどとアンジェラのうたをきいたり、おたがいのかおをがようしにかきあったりはできなくなるのです。
ゼルダはアンジェラがとてもとてもだいすきだったので、それはとてもとてもくるしいことでした。
それなのに、アンジェラはいってしまうのです。
ちきゅうじょうのヒトをめつぼうのきょうふからすくうために。
「死ぬのはこわくないの?」
そっくりおなじふとんにくるまりながら、ゼルダはアンジェラにききました。
あしたはとうとう、スターシップのたびだつひです。
ふたりがいっしょにすごすさいごのよるです。
アンジェラはふふんとはなをならしていいます。
「こわくはないわ。あなたったらいったいなにをそんなにおそれてるっていうの?」
れもんのかおりがしそうなつきのひかりのなか、こどものへやでおきているのはゼルダとアンジェラのふたりきり。
ちきゅうじょうでいまおきているのはふたりだけかもしれないと、おもうだけでゼルダはこわくてたまりません。
「だって死んでしまったら、ひろいひろいうちゅうくうかんのなかでひとりぼっち。スターシップのなかで、だれにもみとってもらえずにさいごをむかえるのよ。おはかもつくってもらえないわ。」
そうはなすうちにも、ゼルダはなみだぐんでいました。
「死ぬのはちっともおそろしいことではないわよ。だってわたしが死んだら、せかいじゅうのヒトがわたしにかんしゃするわ。たとえおはかはのこらなくても、わたしのゆうきあるこうどうとなまえとは、えいえんにかたりつがれるのよ。」
「それでも。」とゼルダはつぶやきます。
「それでもやっぱり、死ぬのはこわいよ。」
したをむいていたゼルダが、「いいことをおもいついた!」ときゅうにかおをあげました。
「ねえアンジェラ。わたしがうたをうたってあげるね。アンジェラがたったひとりでうちゅうにいくとき、さみしくないように。
おおきなこえでアンジェラにとどくように
アンジェラのいちばんすきなうたを」
うすいいろのはながほころぶようにアンジェラはほほえみました。
あさがやってきました。
うすいたぁこいずいろのそらのした、あさひがうまれるほうこうへ、スターシップはとびたつのです。
ヒトのちえときぼうをのせて。
ヒトのつくったおおきなミサイルをのせて。
ヒトのこどものなかで、いちばんによいこをのせて。
おおぜいのヒトがアンジェラのたびだちをみおくりにきました。
「アンジェラ、アンジェラ。あなたならきっとヒトたちをたすけてくれるとしんじていますよ。」
アンジェラをそだててくれたヒトがいいました。
「はい、おかあさん」
ほほえんで、アンジェラはこたえます。
「アンジェラ、きみのシミュレーションのせいせきはクラスでいちばんだ。これまでならったことをいっしょうけんめいやれば、かならずヒトをたすけられる」
アンジェラをおしえてくれたヒトがいいました。
「はい、おとうさん」
ほほえんで、アンジェラはこたえます。
アンジェラのいもうとたちもみんな、アンジェラのたびだちをはげますことばをかけました。
ゼルダはひとり、どうしてもほほえむことができないので、やっぱりいちばんさいごにのこってしまいました。
アンジェラはじぶんとそっくりのかおをしたおんなのこのてをとって、いいました。
「しゅくふくしてちょうだい、ゼルダ。ちきゅうでいちばんにえらばれたわたしのために」
ゼルダはくびをふり、アンジェラをつよいちからでおしのけました。
そのてはふるえていました。
とてもふるえていました。
そんなゼルダをまわりのヒトははじめてみたので、びっくりしてとめることもできませんでした。
だからゼルダはかんたんにスターシップにのりこみ、うちがわからとびらをしめることができました。
びっくりしたヒトたちのなかで、いちばんにきがついたのはアンジェラでした。
「ばか、よしなさい。あなたなんて、死ぬのがこわいよわむしのくせに。はやくこのドアをあけなさい。」
アンジェラはとてもこわいかおでさけびます。
「そうだぞ、ゼルダ。これはヒトのうんめいがかかっているんだ。たいせつなうちゅうせんなんだよ。」
おとうさんのヒトがさけびます。
「ゼルダ、ゼルダ。いますぐにおりてきなさい。こわがりのあなたにできるわけがないでしょう。」
おかあさんのヒトがさけびます。
けれどゼルダは、うちゅうせんからおりようとはしません。
「死ぬのはこわいわ。とってもこわい。だけど、たいせつなヒトが死ぬほうがもっとこわいよ。」
スターシップはヒトたちがおどろいてみまもるなかで、よあけにむかってとびたちました。
うすいたぁこいずいろのそらのなかを、スターシップはぐんぐんとのぼってゆきます。
ヒトのちえときぼうをのせて。
ヒトのつくったおおきなミサイルをのせて。
ヒトのこどものなかで、いちばんにあしのおそいゼルダをのせて。
ゼルダのあしはちいさなうちゅうせんのなかで、ブルブルふるえっぱなしです。
あんまりふるえるので、アンジェラのかおまでふるえてみえるほどでした。
けれどいちばんにたいせつな、ミサイルのボタンをまちがえてはいけません。
ゼルダはこわくてとじてしまいそうになるヒトミをいっぱいにひらいて、モニターのなかのおおきなほしをみつめつづけました。
スピーカーからは、ちきゅうのうえにたつヒトたちのざわめきがとどいてきます。
けれどみんながいっぺんにしゃべるので、だれがなにをいっているのか、とうとうゼルダにはわかりませんでした。
「アンジェラ、アンジェラ。みんなのこえがきこえる。みんなよろこんでくれるかしら。でも、ねえ、どうして? 死ぬのはやっぱり、こわいよ」
ちいさなうちゅうせんが、おおきなほしにちかづいてゆきます。
おおきなほしはどんどんおおきくなって、ゼルダのめのまえいっぱいにひろがります。
うちゅうせんはガタゴトとゆれて、ちいさなほしのようなひがいくつもはじけました。
ゼルダはこわくてかなしくて、なみだがでてきました。
がまんしようとおもうのに、アンジェラのかわりにりっぱにしようとおもうのに、どうしてもとまらないのです。
「ねえ、アンジェラ。うたをきかせて。さみしくないように」
しろいつよいひかりと、エネルギーのかぜが、よぞらをなみだたせながらどこまでもひろがってゆきます。
どこまでも、どこまでも。
スターシップはしんじられないほどうつくしくかがやきながら、そのなまえどおり、ながれぼしのようにそらのどこかふかいところへしずんでゆきました。
ローズいろのくもがそらのはしっこにのこるあさ、そうしてゼルダはほしになりました。
たくさんのヒトたちがゼルダのみせたこうどうにおどろきましたが、やがてしょうさんのこえがあがりました。
「あのむすめっこはなるほど、おくびょうだったかもしれないが、しんにたいせつなものをみあやまらなかったのだ」
「わたしはきづいていましたよ、ええ。あのむすめがほんとうはいさましいおちびさんであることを」
「わたしたち、あのこがけっこういいこだってしってたのよ」
「これからのちきゅうにひつようなヒトであるアンジェラを、われわれにたくしたのだ、あのこは」
ありがとう、ありがとう、ゼルダ。
わたしたちをすくってくだすって、ありがとう。
ヒトたちのかんしゃはだいちををうめつくし、てんにあふれ、ほしにとどかんばかりでした。
ちじょうにみちみちるヒトはみな、ゼルダと、ゼルダのためになみだするじぶんじしんをあいしました。
ちきゅうじょうのぜんじんるいがよろこび、ここちよくゼルダをほめたたえているとき、ひとりだけだまりこんでいるヒトがありました。
アンジェラです。
アンジェラはじめんにひざをつき、うつむいたかおにりょうのてをおしあてたままじっとしています。
そのつぶやきをきくものは、だれひとりいませんでした。
この、くろくてまるいほしには。
「なにがえいゆうよ。
おおばかだわ、ゼルダは。
あなたが、いきていてくれれば、わたしは。」
アンジェラのゆびのあいだから、とうめいなしずくがぽとりとおちました。
それは、まったくきゅうでした。
ほんとうの、きれいなまるでした。
完2004.3.26
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