ENGLISH Journal 2009年6月号
   特集『英語耳』の著者が監修!
  ボイストレーニングで身に付ける
  通じる英語の発音と発声

執筆/監修:松澤喜好 イラスト:北沢夕芸

2009/5/4

ネイティブと英語で話をすると、聞き返されることが多くて、それがトラウマになって話せない――あなたも身に覚えが ありませんか?最近、英語学習者の間で、発音の重要性に目が向けられるようになりました。しかし、練習をしても、 自分の発音がどうしてもネイティブの発音に近付かない。何が原因かわからないが、どこか違和感がある・・・・ などという悩みを多くの人が持っているのも事実です。そんなときには、ボイストレーニング(ボイトレ) の視点から、自分の発音を見直すと、レベルアップのヒントがたくさん見つかります。EJの毎月の付属CDは発音練習の ための素晴らしい教材です。早速、今月号(一部過去号)のインタビューとニュースを使って、トレーニングを 始めましょう!

Contents Part 1-1  >>P.022
ポール・クルーグマンの息継ぎ
 (Interview Vol. 3)
Part 1-2 >>P.024
[s]のボイトレ
Part 2 >>P026
ナオミ・ワッツの美しい[s]
(EJ2月号People 1)
Part 3 >>P.028
ニコラス・ケイジの声の響き
(Interview Vol. 1)
Part 4 >>P.030
ギリス英語の鋭い息
 (BBC News Report 1)

P020

なぜボイトレが発音に効くのか?
 ここでは、英語の発音にとって最も重要なのに最も軽視されている「息の使い方」について、 発音学習書のベストセラー『英語耳』シリーズの著者、松澤喜好氏に解説していただきました。

魅力的で説得力のある話し方

ボイストレーニング(ボイトレ)というと、オペラ歌手や舞台俳優、アナウンサーなど、声を商売道具にする人たちが行なう、 発声を鍛えるためのトレーニング、というイメージがあるかもしれません。しかし、アメリカでは会社の幹部なども、 ボイトレを受けています。魅力的で説得力のある話し方を身に付けるためです。アメリカでは、舞台で歌ったりセリフを しゃべったりという場面に限らず、一般人が日常生活での話し方をより良くするために、ボイトレが有効だと考えられて いるからです。 ボイトレの真髄は、「息の有効な使いかた」と「音声の響かせ方」にあります。まずは身体全体に音を響かせることで 大きな声を出せるようになり、最終的には、声帯に負担を掛けずに、しかも少ない息で、よく通る声を獲得することが できます。このボイトレの知識を英語の発 音習得に応用すると、ワンランク上の英語の発音を身に付けることができます。

 

日本人の英語は「息の仕方」が間違ってる

英語の発音練習をするときには、唇の形や舌の位置には 注意を払っているかもしれませんが、呼吸についてはあまり練習して こなかったのではないでしょうか。しかし実は、発音に一番影響を与えているのは呼吸(息の使い方)です。なぜなら、息が、 音にエネルギーを与えているからです。息は、車のエンジンにたとえることができ、息のコントロールは、エンジンの制御に 似ています。エンジンが車をスムーズに駆動させるように、息は音に働き掛けて、ネイティブが聞き取りやすい発音を可能にします。 英米人の声は、良く響きます。英米人の声の「質」が日本人のそれと違うことは、皆さんも何となくお気付きのことと思います。 この違いは、息の強さで生じています。日本語の五十音の発音は、強く息を使わなくても、 相手に聞き取ってもらえますが、英語の発音は、その4倍もの息が必要です。ですから、日本語と同じつもりで 英語を発音すると、息が不足します。その結果、母音だけでなく、子音の発音も、自然な英語から程遠い発音になってしまう のです。例えば英語の発音では、子音、[s][ ʃ]などのときに、非常に強く息を使います。 今回の特集では、その英語の息の強さを感じてください。 とはいうものの、英米人も、やたらといつも強い息を出しているわけではありません。良く響いて、効率的な息の使い方を しており、そのため、ひと息で長い文章を発音できるのです。われわれも、息の使い方をマスターすることで、ネイティブが 聞き取りやすい発音ができるようになるのです。

 

実は難しい、「そのまま真似る」、ということ

 英語の発音を練習する際には、聞こえたとおりを、そのまま真似て発音せよと言われます。ところがこれが、口で言うほど一筋縄では いきません。目で見た英語のテキストに引っ張られて、また日本語の発音の癖が邪魔をして、脳が勝手に音を加工して、元の音とは 違った音が 口から発されます。特に「息の使い方」は、発音記号やアクセント記号のような指針となるものがないので、把握が難しく、 真似ることが難しいのです。 この特集では、付属のCDに収録されている声を幾つか分析して、英語の「息の使い方」に気付いていただきます。気付き さえすれば、発音できたも同然です。実は発音は習得しやすいのです。なぜなら、自分で気付いた音の特徴は、決して忘れる ことがないからです。 ここでボイトレ用に取り上げた素材は、4つとも40秒程度の短いものなので、声を出して50〜100回、発音練習してください。 自分で声を出すと、机上の勉強では得られないメリットがあります。運動と同じで、動作を繰り返していると、毎回、 少しずつ小さな発見があるのです。100回練習した後では、小さな発見の蓄積により劇的に変身できます。基本動作を何回も 繰り返して、スポーツを習熟するのと同じことです。では、皆さんご一緒に頑張りましょう。

 

英語の発音のための5つの要素

 

英語では、母音のすべて、そして子音のほとんどを、舌を使って発音します。唇を丸めると舌が口の奥に入り、唇を横に引くと舌は 口の前に出ます。口を動かしている感覚のほうが、舌を動かしている感覚よりも強いのです。特に舌の位置に注意したい音としてbird[ɚ:]butter[ɚ]があり、これらは舌を持ち上げて発音します。[r]は、[ɚ:]のように舌を持ち上げる方法と、巻き舌にする方法があります。[p][b][m][h]などは、例外的に、舌はほぼどこに置いても発音できます。

あご

アゴの開閉は、口の開閉と同じ意味です(唇ではありません)。英語の子音はすべて、アゴをほぼ閉じた状態で発音します。母音の[i:][i][u:][u][ɚ:][ɚ][ə]もアゴをほぼ閉じて発音します。逆に母音[ɑ][ɔ]は日本語よりもアゴを下げます。

唇を使う発音には、破裂音の[p][t]とハミングさせる[m]の音があります。母音の[i:]は唇を思い切り横に引き、[w][u:]は唇をすぼめて突き出します。 

声帯

声帯は、母音や有声子音の音源です。有声子音とは、[z][ʒ][b][d][g][v][ð][ʤ]などです。日本語を話す時には声帯がほぼ連続して使われますが、英語は、子音が連続している時には、声帯は休止しています。

息は、すべての音のエネルギーとなるものです。この特集では、特に息に注目します。英語の息の強さは、一つの文の中でも変化していて、瞬間的には日本語の4倍ほどに達します。

P022

■ Part 1-1
ポール・クルーグマンの息継ぎ
今月号のCDのInterview Vol. 3、 ポール・クルーグマンのインタビューから抜粋しました。 早速、この音声を素材にボイトレをしてみましょう。

息継ぎの位置をチェック!

息継ぎの位置をチェック!
まずボイトレでチェックするのは、息継ぎの場所です。
息継ぎは非常に大切です。歌の練習でもどこで息継ぎ
をするかが、非常に重要なのと同じです。息継ぎの所
に#記号をいれて改行したのが、以下のテキストです。
クルーグマンと同じ所で息継ぎができるようにしましょ
う。初めは息が続かないかもしれませんが、練習すればできるようになります。
 

最初は息を強く使って、発音し
てみましょう。練習を繰り返すと、少ない息でも発音で
きるようになっていきます。

 さらに、どこで息を止めているかも、発音練習の重要な
ポイントです。息を止める位置は、意味の区切りと一致し
ます。以下のテキストには、息を止めている所に>記号を入れました。
>と>の間は滑らかに続けて、1つの単語のように発音することがコツです。
 

ネイティブの息の仕方を聞いてみよう

まずは、以下の英文の意味を翻訳で確認しましょう。そのあとで一度CD を聞いて、息継ぎの位置と息を止める位置を確認します。その作業が終わったら、それらの位置に注意しながら、CDに合わせて50回以上音読して みましょう。(音読は1日に長時間行なうと声帯を痛めるので、1週間以上に分けて 行なってください。)

The core of it > is > the > 21st century version of a bank run.#
The Great Depression began with a stock market crash but that was not the major issue.#
The big thing was the > collapse of the banking system.#
I
n this case > although > traditional banks > are protected > and have not collapsed,#
we have these, all these other institutions that#
pursue banking functions#
--- money market funds, > hedge funds, > investment banks,#
asset-backed commercial paper,#
auction-rate securities#
and this thing, > the parallel banking system, > or the shadow banking system,#
has largely collapsed. 

 

訳:現在の金融危機の中核は、21世紀版の取り付け騒ぎです。大恐慌は株式市場の大暴落から始まりましたが、それが重要な問題では ありませんでした。重要だったのは銀行制度の破綻でした。今回の場合、従来型の銀行は保護されていて破綻はしませんでしたが、 銀行機能を果たしているその他もろもろの機関がありまして――マネー・マーケット・ファンドやヘッジファンド、投資銀行、 資産担保コマーシャルペーパー、オークションレート証券といったもののことです――この、パラレル・バンキング・システム とか、シャドウー・バンキングシステムとか呼ばれるものが、大部分破綻しました。

P023

1秒で6語をしゃべるクルーグマン

イントネーションに関しては、音の強弱に加えて、発音するスピードも非常に重要です。音読の指導では、「全ての単語を同じスピード で発音してはいけない」と毎回教えています。なぜなら英米人は意味のかたまり(複数の
単語)にあわせたスピードで話しているため、全てが同じスピードで発話されることはあり得ないからです。
 

ここで取り上げたクルーグマンの発話は、全 90
語(words)を38秒で話しているので、平均は142
words/min.です。数値上はゆっくりな部類に入りま
すが、途中で発音についていけないほど早口の所があります。一番ゆっくりなところは、60 words/min.、つまり1秒に1語ですが、一番速いところは、360 words/min.にも達しています。その様子が目で見てわかるよう、1秒ごとに1行の■でまとめたのが、右のテキストです。

1秒間に1語話しているところがあったかと思うと、6語も話している所があるのです(上から6行目)。音読練習をするときには、 このスピードの変化をそっくり真似するようにしてみてください。
 

さらに、強く発音されている個所は色文字にしました。この部分は強い息を使って、よく響く発音がされています。 ボイトレが威力を発揮するのは、この部分の発音です。どれだけ強い息が使われているのかを感じるために、何回か聞いて みてください。ネイティブが発声する、強くて、しかも効率のよい発音を聞いて、それを自分でも再生できるように、 いろいろ試してみる----

その「音を探す」試みこそが、ボイトレなのです。そっくり真似して発音することができるようになると、 あなたの発音は一気にネイティブの発音に近付きます。
 

1秒間の単語の数に注目!

1秒間で読まれる単語を1行の■で区切りました。読まれるスピードと、強い息を使って発音する箇所(=色文字)に注意しながら、CDについてくり返し音読してみましょう。

The core of it >

is >

the >

21st century

version of a bank run.#

The Great Depression began with a

stock market crash but

that was not the major

issue. #

The big thing was the >

collapse of the banking system.#

In this case >

although >

traditional banks >

are protected >

角丸四角形吹き出し:  
and have not collapsed,#

we have these, all these

other institutions that#

pursue banking

functions#

-       money market funds, >

hedge funds, >

investment banks,#

asset-backed commercial

paper,#

auction-rate securities#

and this thing, >

the parallel banking system, >

or the shadow banking system,#

has largely collapsed.

 

Part 1-2     
 [s]のボイトレ
ここでは、日本人英語学習者の多くが悩みを抱えている [s]の発音を徹底的にボイトレしてみます。

この先は、ENGLISH Journal 6月号(2009/5/2発売)をご覧下さい。