海からの呼び声

 それはね。わたしがまだ高校3年生だった頃のお話です。高校三年生というと受験
勉強の真っ最中です。でも、たまには遊ぼうよということになって、夏休みに大磯の
海岸にキャンプに行くことにしました。
 お昼は海岸で泳いだり、水遊びをしてすごしました。夜になってひとしきり話した
あと、もう遅いから寝ることにしました。
 確か2時頃だったでしょうか?ふとわたしが目を覚ますと、友だちの一人のいっち
ゃんがすーっと起き出していました。そして、外にでていきました。トイレかな?と
思いまいたが、なんかいや予感がしてしばらくして後をつけてみることにしました。
 みると、なんと海にいっちゃんが一歩二歩と入っていくではありませんか。服を着
たままです。みているうちに腰のあたりまで入っています。何かおかしい。わたしは
大きな声で呼びました。他の友だちも起き出してきました。
 しかし、いっちゃんはとまる様子もなく、首のあたりまで水がきていました。
 これはなにかある。とおもい、わたしは必死に泳いであとを追い、まさに沈みかけ
ていたいっちゃんのかたにふれようとしたときです。左足首を手でつかまれたと思う
とグッとつかまれたと思うと、水の中に引き込まれました。突然水中に引きずり込ま
れたわたしは必死にその右手と闘いました。そしてやっと離れてくれました。わたし
はいっちゃんの肩をつかむと追いついてきたみんなといそいで海岸まで泳ぎました。
 たどり着いたあと、いっちゃんに「どうしたの?」とききました。するといっちゃ
んは「呼んでる。」っていうんです。「だれかがぼくを呼んでいるからいかなっきゃ
ならないんだ。」っていうんです。「だれがどこから呼んでいるの?」ときいてみる
と、海を指して「あっちから。」いうんです。
 わたしたちはえっと海をみました。海は穏やかでした。そして私たち以外誰もいま
せんでした。その日は友だちと交代でイッちゃんを見張ることにしました。そして眠
れない朝を迎えました。
 すると、いっちゃんは「おれ昨日何かした?」というんです。きいてみると昨日の
ことは何も覚えていません。昨日の話をいくらしても思い出さないようです。

 あれはいったい何だったのでしょうか?
 わたしの足を引っ張ったのはその呼んでいた人なんでしょうか?
 もしわたしが気がついて後をつけなかったらどうなっていたのでしょうか?

 それを思うと今でもゾッとします。


学校の不思議〜放送室編〜

 
 学校ってね、たてるのに広い土地がいりますよね。でも、なかなかそんなにまとま
った大きな土地はないよね。だからね、あるところをつぶしてつくられた学校もある
のです。まとまった土地があるといえば、墓地。そう、お墓をつぶしてその上に学校
を建てるということがあったそうです。
 だから、学校って七不思議なんていいますけど、そういうことがあるからお墓をつ
ぶして建てた学校でなくとも、でてくるんです。
 それはわたしがかよっていた学校の七不思議の一つです。
 放送室の部屋の片隅に顔の形をした緑色のテープが貼ってありました。いつだれが
はったかはわかりません。でも、いつからかこれをはがすと何か悪いことがあるとい
う噂が流れるようになりました。
 ある日、放送委員の5年生が鼻の部分のテープをはがしてしまいました。するとそ
の子は一週間後に、体育で鼻の骨を折ってしまいました。
 またある日、口のテープをはがしてしまった子がいました。するとこの子は林間学
校の時、ころんで前歯を折ってしまったのです。
 これは何かある。すぐに緑のテープを張り直しました。すると、鼻の骨を折った子
はテープを貼って1週間したら鼻が治ってしまいました。
 前歯を折った子は、大人の歯が生えてきました。
 だから、わたしが放送委員会に入ったときは、鼻の部分と口の部分のテープだけが
新しくなっていました。目の部分は古いままです。

 これにはどんな意味があるのだろ?
 もし目の部分をはがしたらどうなるんだろう?
 今もそのテープはあるのかもしれません。
 だれかがはがしてなければの話ですが、、、


あの屋敷は?

 そうだなぁ。ちょうどこんな雨の日でした。わたしは友だちと横浜に絵を見に行き
ました。そのかえりにせっかくだから何か食べていこうということになり、少し遅く
なっていました。暗い中を3人で歩いているときです。ふと大きなお屋敷のような建
物がありました。この暗いのに明かり一つもついていません。誰もいないのかな?と
おもっていると、友だちの一人が、中に入ろうとするではありませんか。「どこいく
の?」っときくと「入ってみようぜ。」とその子がいいました。「やめた方がいいよ。」
といってもどんどんそのこは屋敷に近づいていきます。すると、ギイィ。という大き
な音がして、屋敷の門が開きました。
 友だちはとめるのもきかずにどんどん入っていきます。玄関まで来ると、友だちは
手をかけ、まわしました。ドアは今度は音もなく開き、中にどんどん入っていきます。
わたしは友だちをとめながら屋敷に入っていきました。
 ふと、廊下の真ん中で彼が止まりました。「やっぱりかえろうぜ。」といいかけた
とたん。こっちをむいたかとおもうと、わたしの首をグッとつかみました。その力の
強いこと、声を出そうと必死になって彼の目を見ると、まるで血に飢えた猛獣のよう
な目でわたしをにらみつけ、「よくも、よくも。お前を絶対許せない。」と低い声で
うなると、ぎゅっと力を込めました。
 体に少し浮遊感を覚え、だんだん視界が狭まってきたそのとき、もう一人の友だち
が大きな声で、「何やってるんだやめろ!」という声が聞こえました。その瞬間。手
の力が抜け、わたしは難を逃れました。わたしたちは急いで外にでようとしました。
しかし、さっきはいってきたはずの玄関がしまっているではありませんか。なにをし
ても、鍵がかかっているように全く動きません。わたしは全身の汗腺から脂汗が吹き
出てくるのを感じました。そのとき、わたしは、猫用の出入り口を見つけました。そ
こは鍵がかかっていません。そのせまい場所からわたしたちはやっとのことで逃げ出
しました。外にでると、もう一人も元に戻りました。きいてみると、なにかイヤな感
じがして、気がついたら首を絞めていたそうです。
 
 あのときのあの言葉は一体だれに向かって放たれたものなのでしょうか?
 もしあのとき猫の出入り口を見つけなかったらどうなっていたのでしょうか?
 もう一人の友だちが大声を出していなかったら、わたしは今ここにいられたでしょ
うか?
 
 今もきっとあの屋敷はひっそりとたたずんでいるとわたしは思います。


気を付けろよ。

 それはわたしがバイクに乗り始めて間もない頃のことでした。丹沢の方にある峠が
あるのですが、そこが比較的近いこともあって、よく走りにいきました。楽しいので
すが、カーブが多く危険なところでもありました。(そこがまた楽しいところなので
すが、、、)
 そんなある日、夜にその峠を友だちと登ることにしました。みんなでいくのではじ
めて車でいくことにしました。寒いので暖房をいれながら走り、峠の中腹までさしか
かりました。 
 すると、後ろからバイクがきて、フルフェイスのヘルメットをこちらに向けて、
「こっからさきはカーブが多いから気を付けろよ。」
と小さな声でいって、先に行ってしまいました。わたしはいい人だね。と友だちに話
しかけようとしました。そのとき、友だちが急に青ざめたのに気がつきました。
「どうしたの?」
ときくと、
「ねぇ。今窓しめてたよね。スピード60kmぐらいだったよね。相手もそれ位出し
ていたよね。」
「うん。」
「なんで今の声が聞こえるの?聞こえるわけないじゃん。」
わたしは全身の血の気が引いていくのがわかりました。もうスピードを出して運転を
することはできなくなりました。
 すると、3分ぐらいのぼったところで、下からきた車と上からきたバイクがぶつか
って交通事故になっていました。車はさっきまで前方を走っていた車です。わたした
ちはいそいで救急車を呼ぼうと連絡をしようとしたときです。
「な。あぶないだろ。」
あのバイクの人の声です。でも、バイクも人もいません。わたしはまわりを見回しま
した。すると、隅に小さな花束がそなえられていました。

 あの花束はあのバイクの人に手向けられたものだったのでしょうか?
 もしあのときスピードを落としてなかったらどうなっていたのでしょう?
 
 わたしたちは、その花束に向かって手を合わせました。サイレンの音が遠くから聞
こえてきました。


トンネルの記憶

 それは夏休みに逗子に行ったときのことでした。夜になって、わたしは海岸沿いの
道を歩いていました。その道は夜になると真っ暗で、大きな木と、切り立った崖の間
を通っていました。その道をぶらぶらと20分ほど歩くと、小さなトンネルがありま
した。歩道がある2車線のトンネルは、少し右にカーブしていました。わたしはその
中に入っていきました。中は電気がついていてとても明るく、これなら何かにつまづ
く心配もないな。と思いながら、入っていきました。しかし、わたしはなぜか不安に
おそわれました。
 ゆっくり進んでいくと。後ろから、バイクの音がしました。「ブォーン。バリバリ
バリ、ブォォォーン。」という爆音を奏でながら横を通って遠くに消えていきました。
 音だけが。
 わたしはエッ?っとおもって、後ろを振り向きました。すると今度は逆の方向から
救急車がきました。「ピーポーピーポー、ぴーぽー、ぴーぽー。」とドップラー効果
を残しながら通り過ぎていきました。
 音だけが。
わたしは急いでトンネルを駆け抜けました。たった150mが永遠の長さに感じまし
た。息を切らせながら出口にきたとき、わたしはある看板を目にしました。
「二輪車の死亡事故発生。スピード落とせ。」

 あの音はトンネルがおぼえていたのでしょうか?
 それとも、通り過ぎていった人の最期の記憶なのでしょうか?
 今でもそのトンネルはあのときのことをおぼえているかもしれません。


オートマチック??


 それは運動会の暑い盛りの頃のことでした。やっぱりそのころになると先生も、他
の先生方も忙しく、結構遅くまで残っていました。
 たしか9:00をすぎた頃だと思います。わたしは教室に忘れ物をしたことに気が
つきました。もう校舎は職員室以外真っ暗であまりいきたくはなかったのですが、仕
方なく、いくことにしました。階段をのぼり、長い渡り廊下を歩いて教室の前にきた
その時です。教室の電気がつきました。
 わたしはまだ教室の外なのに。この校舎にはわたし以外いるはずがないのに。
 おそるおそるわたしが入っていくと、電気がついている以外は何事もなかったよう
に静かな教室です。あたりをみまわしましたが、やっぱり誰もいません。
 いようはずがありません。
 わたしはいそいで忘れ物をとって、職員室にもどろうと教室の電気を消そうとしま
した。その消した瞬間。
 「ドン!」
と大きな音がして教室のCDプレイヤーが大音量で真っ暗な教室に流れはじめました。
わたしはドキッっとしました。背筋から何かがのぼってきました。
 無我夢中でCDの電源を切ると、急いで職員室に帰りました。
 職員室であったことを話すと、みんなも「帰ろう。」ということになり、あわてて
帰りました。帰り自分の教室をみてみるとなんと、消したはずの電気がついているで
はありませんか!!
 でも、もう消しに行く気にもなれません。そのまま帰ることにしました。
 翌朝。学校にきてみると、電気は消えていました。子どもたちも何事もなく学校に
きていました。もうそのようなこともなくなりました。

 でもいまでも、夜遅く教室にいくと、電気がつきそうな気がします。
 あれはいったい何だったのでしょうか?
 わたしの気のせいであればいいのですが、、、
 


11番目のバンガロー

 それはある年の夏休みのことです。わたしは友だちとキャンプにいきました。河原で夕食を食べ、
花火を楽しんだあと、わたしたちはバンガローに向かいました。ちょっとでも多く人が入ると底が
抜けるのではないかな?というほど薄っぺらな床にみんなで座り、あれやこれや話していました。
 わたしは座って、ふっと。上を見上げると、だれかがニヤッっと笑っています。「あれ?だれかな?」
とおもいわたしはみんなの顔を見ましたが、今見た顔の人はいませんでした。というか、だれの顔を
わたしがみたのかわたしでもよくわかっていませんでした。
 気のせいかな?とおもって談笑の輪にもどりました。話しているうちにそんなことも忘れて、あっと
いう間に時間が過ぎていきました。いったん会話がとぎれ、わたしはふっと上を見上げると、ニヤッ・・
さっきの笑顔です。今度は見間違えじゃないし、はっきりみました。しかしみえた位置が問題です。なに
しろ天井の蛍光灯のあたりなのですから、そんな背の高い人は今日のメンバーの中にいません。それにそ
の顔も、わたしの知っている人ではありませんでした。「??」なんだろう。しかしこわいとも思いませ
ん。何しろすごい笑顔なのですから、、、
 仕方ないので、心の中で、「楽しんでくれているの?だったらうれしいんだけど、みんなをおどかさな
いでね。」とそのみえた位置に向かっていいました。すると、風が窓からすーっと入ってきて、去ってい
きました。それからはその人の顔を見ることはありませんでした。

 あの人はなんだったのでしょう??
 11番のバンガローにいつもいて、楽しい声が聞こえてくると聞きに来るのでしょうか?
 ある意味今まで一番不可思議な体験だったように思います。


いっしょに。

 これは、わたしの友だちの幼稚園の先生のお話です。少し前のことになりますが、その先生が年長
さんを受け持ちました。その子たちはとってもかわいくて、毎日楽しく幼稚園で過ごしていたそうで
す。
 ところが、ある日のこと、かーくんという子が交通事故で突然亡くなっていまいました。その先生
はもちろんのことみんなもすごいショックで、一日泣いていた日もあったそうです。
 そんな悲しみが少し和らいだ3月。その子たちは卒園していきました。
 何年かして、その子たちとその先生が同窓会を開きました。そのとき、子どもたちのほとんどが卒
園アルバムを持ってきていました。「どうしたの?」っとその先生が聞くと、「先生知ってる?かー
くんが先生といっしょにうつっているんだよ。」その先生は、「え?」っと思ってアルバムをみまし
た。すると確かに、年長さんを持った先生たちの写真の後ろの園舎に、かーくんが立っています。は
っきりとです。おぼろな影ではなく、はっきりとした形をして。それをみて、その先生は涙を流した
そうです。
 実は、わたしもみせていただいたのですが、わたしはそのこの姿を見るなり、もの凄いくやしさに
おそわれました。たしかにはっきり写っていました。
 やっぱりかーくんもみんなといっしょに卒園したかったのでしょうか?わたしが感じたくやしさは、
だれのものだったのでしょうか?そのアルバムは、かーくんの仏壇の前に、今もご両親が飾っているそうです。