スポーツまいんど その9

 
 

◎スポーツの「ルール」を考える 2

 「悪いこと」だが「受け入れられる」

   前回、話したように、反則(ルール違反)=「悪いこと(悪)」というようには簡単にいかないようである。このようなルールと善悪の関係を「エートス」、つまり民族や集団にゆきわたっている道徳的なもの、それと「ルール」の関係という観点から説明している研究がある。その考えに基づいて話を進めよう。

 ルールというものは、「よいこと」と「悪いことを」を分け、「許されること」と「許されないこと」を決定している。バスケットボールでボールを持ってスリーステップすることは「悪いこと」で「許されない」。だから3歩ステップはトラベリングというルール違反となって、そのバツとして大切なボールは相手チームへと渡される。そして一般的に、その「許されない」こと(スリーステップ)をすることは「受け入れられない」ことである。だから審判は、「ダメ」といって笛を吹く。

 しかし、そうでない場合もある。昔、私がアメリカの大学バスケットボールの試合を見ていたときの話。ホームチームの長身選手(2m以上の身長だが、あまり上手くない)が、相手のボールをインターセプト(奪うこと)して、ノーマーク(守っているディフェンスのいない状態)でゴールへとドリブルを始めた。当然ここはダンク。1万人近くの観客もそれを期待して大声援。

 ところが、この選手、明らかにスリーステップ以上(多分4-5ステップ)してダンク。しかし、審判は笛を吹かない。観客はダンクに熱狂し、ウェーブが始まる。誰も審判にブーイングする者などいない。まあ、あそこで笛なんか吹いたら、その審判、帰りに観客に殺されてしまいかねない、あの雰囲気では。つまり、インターセプトしてノーマークになった時点でもう、ここからはショータイム。相手の選手もそれを阻止しようとして追っかけたりしないし(事実、ダンクにはいるのを相手選手も何も守ろうとしないで見ていた)、審判もそれを心得ている。

 このようにアメリカでは、トラベリングは「悪いこと」で「許されない」ことだが、「受け入れられる」というような場合がある。しかし日本人の審判だったら、必ず笛を吹くだろう、あの場面で。そして観客も審判が笛を吹くことを期待するだろう。日本ではトラベリングはどんなときでも「悪いこと」で「許されない」し、それを見逃すことは「受け入れられない」から。

 野球でバッターを敬遠することは「悪いこと」ではない。プロ野球で松井選手を敬遠することや、甲子園で強打者を敬遠することは「許される」ことである。だから審判も何も言わないし、事実、数多くの敬遠策が取られているように「受け入れられる」ことである。しかし、熱狂的な巨人ファンや、「連続して5回も、それも神聖なる甲子園で」と考える人々にとっては「受け入れられない」ことになる場合がある。つまり、先のアメリカのトラベリングの場合とは逆に、「悪いこと」ではないが、「受け入れられない」。

 このように、「よいこと」と「悪いことを」を分け、「許される」ことと「許されない」ことを決めているのが「ルール」であるが、もうひとつ「受け入れられる」ことと「受け入れられない」ことを分けている基準がありそうである。ここに関わってくるのが「エートス」、つまり「ある民族や社会集団にゆきわたっている道徳的な慣習・雰囲気(広辞苑)」である。事例をあげて考えてみよう。

続く


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