スポーツまいんど その3
スポーツまいんど その3
◎「肉体・身体・からだ」
人間の「身体(からだ)」というものは不思議なものである。ずいぶん昔になるが、北欧のある国の出来事として、交通事故で死亡した女性(脳死状態)が、その後、赤ちゃんを出産したということが報じられた。人間の「身体(からだ)」とは何だろう。ここからは「身体(からだ)」と運動について考えてみよう。
私の先輩に、人間の「身体(からだ)」を「肉体」、「身体」、「からだ」という観点で考えることを提唱している研究者イーさんがいる(この先輩、気功の名人でもある)。「肉体」という言葉から何を連想するだろうか。そう、あなた(特に貴男)も多分、衣服を着ていない状態を思い浮かべただろう。では「身体」、「からだ」はどうであろうか。
イーさんの話では、「肉体」という観点で「身体(からだ)」を考えるということは、生理学的、解剖学的に見ることであり、そこでは「体力」とかが関心の中心になるという。「身体」という観点では、文化論的、社会学的な見方となり、「技能」や「仕草」などが取り上げられる。そして「からだ」という観点では、存在論的、芸術的に「身体(からだ)」を見ることになり、「心技体」というように「人間」そのもの、あるいは全体を「身体(からだ)」として捉えることになるという。
従来のスポーツする「身体(からだ)」に関わる科学や研究、あるいは一般の人々の関心は、この「肉体」という観点から見たものであった。「体力」は様々な要素に分解され、測定され、分析される。1500メートルを何分何秒で走れるか、握力は何キログラムあるか、ジャンプは何センチメートルか。あるいは心拍数は、血圧は、呼吸数はいくつか、筋肉組織はどうなっているか。「技術」も測定され、分析される。シュート角度は何度か、踏切の強さは何キログラムか、スウィングスピードは何センチメートル/秒か、あるいは筋電図はどうか。そしてそれらは数字で表記されることによって、比較され、より良い「体力」、より良い「技術」というものが出現する。「やー、30代の体力ですねえ」と言われて喜び、「最近の子どもたちの体力は低下している」と嘆く。しかしそこでは、人間の「身体(からだ)」とその運動の「意味」というものを考えることはない。
スポーツする「身体(からだ)」を科学的(自然科学的)に分析したり、その結果に関心を持つことは否定されるものではない。それはスポーツ科学の発展の結果であり、未来への指標となるもの。しかし、人間の「身体(からだ)」には数字では表わすことができないものがある。次に、この数字では表せないものを見るために、「身体」—「からだ」という観点でスポーツする「身体(からだ)」を考えてみよう。
ここで問題。「ナンバ」とは何だろう、「ナンパ」ではない。あなた(貴男・貴女)が歩く時、左足が出たとき右手が前に出るだろう。これとは逆に、左足と同時に左手が前に出る歩き方が「ナンバ」いう(ほとんど手のスイングを使わない歩き方)。小学校の運動会の行進で、こんな歩き方している子がいたことがあるだろう。実は、この「ナンバ」という歩き方、日本人古来の歩き方。例えば、江戸時代の浮世絵(広重の東海道五十三次など)を見ると、同じ方の手と足が出ている描写がある。また現代でも、相撲の押しや張り手などに残っている。人間の歩き方なんかは、運動生理学的に人類共通だと思っていた人が多いと思うが、歩き方も一つの「文化」なのであり、時代や地域によって異なるもの。
そして、この日本人古来の歩き方「ナンバ」」は、明治期からの学校教育で変えられてしまったという。現代の日本人が、そんな歩き方をする「身体(からだ)」が、つい最近まであったことを忘れてしまうほどに。この「ナンバ」が変えられた理由は、「整列行進」や「戦闘に必要な機敏な動作」に向かないからというもの。つまり、近代軍隊の兵隊として適した「身体(からだ)」に、日本人全てが変えられてしまったのである。ちなみに、映画やテレビの忠臣蔵などで赤穂の義士が、整然と行進するのを見るが、実際は「ナンバ」でぞろぞろと歩いてたわけ。
このように「身体(からだ)」は、差別され、煽られ、そして教育される、言い換えれば人間によってつくられるもの。あのナチスの行進、某国の巨大なマスゲームに現れた「身体」、そして、スポーツする「身体」、これらも同様につくられる。つまり、「人間の身体は人為的につくられるもの、すなわち文化にほかならない」といえる。よって、「身体」づくりは「肉体」レベルに止まるものではない。他から強要されない自分自身の「身体」づくり、そして人間として生きていく「からだづくり」へと拡がる。スポーツする「肉体」は、スポーツする「身体」、そしてスポーツする「からだ」へと拡がる。スポーツによって「身体」づくりを目指すということは、「からだづくり」、つまり「人間づくり」でもある。