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一茶助八の悠々TRPG好き 第3回 TRPGって楽しいの?

■未来長屋の奥まった一室

八さん「おはようございます。あれ? もう掃除を始めてたんですね……って助さんじゃなくてご隠居?」

 長屋の奥にあるその一室には、白髪を几帳面に結った白髭の老人が、白いハタキを片手に掃除に励んでいた。

一茶「助さんはなんだか都合が悪くなったそうじゃ。助さんの隣の子がそう言付かってきたのじゃよ」
八さん「そういえば、助さんの姿をずいぶんと見てないですね〜〜。体を壊したのでなければいいのですが。  あっ懐かしい、これは初めて助さんのマスタリングで新撰組TRPG(注)をやったときの記録用紙です」
※『新撰組TRPG』:  幕末のヒーロー新撰組を扱ったTRPGはいくつかある。  最近では『ルール・ザ・ワールド:新撰組』(「RPGamer」6号所収/国際通信社/河村有木生/槙村衽/2004年6月/詳細情報 in アナログゲームSHOPさん)、『上海退魔行〜新撰組異聞〜』(エンターブレイン/朱鷺田祐介/2003年3月/詳細情報 in 楽天ブックス)などがある。
 数年前の思い出ということを考えると『壬生狼〜幕末血風録』(「別冊FGSI6号」所収/スザク・ゲームズ/朱鷺田祐介/2000年6月)と思われる。マニアの助さんのことなので、もしかすると自作ものかもしれないが。
 ちなみに大江戸における新撰組は、我々現代人おける近未来SFのような位置付けにあるのかもしれない。

 紙をケチるために、感熱紙の裏に刷られたその記録用紙は、長い年月によりすっかり黄色く変色していた。八さんは大事そうにそれをクリアケースに挟み込み、風呂敷包みの中に仕舞いこんだ。

一茶助八の悠々TRPG好き

第3回 TRPGって楽しいの?

 このテキストは、全国のTRPG愛好者(以降、TRPG好きと表記)が、無意識のうちに受け入れていることや、日頃の悩みなどから選び出された事例を語るものである。
 今回のテーマは、TRPG好きの息切れについてだ。どんな趣味、事業であれ、どんなに夢中になっていても熱意が途切れることがありえる。
 限りある人生。TRPGだけに全力を注ぐことができないのは当然だが、一度消えかけた熱意を再び点(とも)すことも難しい。
 はたして、人はどこまで、TRPGを愛せばいいのだろうか?

■数日前/銭湯 玉ノ湯

 未来長屋からしばらく行ったところにある、玉ノ湯という銭湯に助、八の姿があった。普段ならば、一日の汗と疲れを洗い流そうという男たちで混む時間帯なのであるが、藪入りのためか、かなり閑散としていた。

「大浴場キャンペーン終わりましたね〜」
「あぁ、そうだな」
「まさか銭湯をあんなふうに使って締めに持ってくるなんて思いませんでしたよ、浴場戦闘システムもバランスこなれてきましたし、数年後の彼らとかやりたいですねぇ」
「ああ、そうだな」
「……話、聞いてます?」
「ああ、そうだな……っ、もち聞いてるぜ?」
「なんだか助さん、最近上の空ですよ、マスタリングもどこか力が妙に抜けているところもありましたし」
「そ、そうか? う〜む、そんなつもりはなかったんだがなぁ」
「助さん、何か悩んでいるか隠し事あるんじゃないですか?」
「悩みか……」
「助さんのことだし、ルール運用で悩むとも思えないし……もしや別サークルでキャンペーンを始めてそっちの準備で忙しいのでは? そういえば、先月の駒形CONで妙に雑司ヶ谷のお富ちゃんにマスターせがまれていたような……助さんも色気づいたんですねぇ、助さんの結婚式の際には受付でも司会でも引き受けますので、どーんとこの機会を逃さないようにしてください」
「てやんでぇ、何をどうやったらそんな話になるんでぇ」
「大江戸は地方から流れ込んでくる男たちのおかげで、男女比をみれば圧倒的に男性が余ってるんですから、助さんも慌てないと」
「ったく、自分が嫁持ちだからって俺まで嫁が欲しいなんて思いこまないでもらいてぇもんだな」
「……も、もしかして助さんって衆道の気が? かなり前からの知り合いだけれど、そんなことがあるなんて……。でも、助さんもご存じの通り、僕にはかわいい妻と大事な子供がいるので助さんの想いには応えられません」
「別に衆道じゃねぇ、めとる気がねぇってだけさ」

 そういってニヒルに笑ってみせる助さんに、浴槽の奥から声がかかる。 「妻帯者になり、子供を作ってこそ一人前の男。昔からそういうじゃろう?」

「かぁ〜っ、伊勢屋のご隠居かい? そうは言っても俺はまだな……」
伊勢屋「ったくそれだけの腕を持ちながら、惜しいわい。助さんの稼ぎならば見合い相手も引く手数多(あまた)だというに」
「そのつもりになったら声かけるから見逃してくれ」
伊勢屋「いやはや金にも評判にもならない道楽にうつつをぬかすよりも、早く娶って尻を追い回す方がよほどいいと思うがな」
「っと、年寄の長風呂には付き合ってられねぇな。またな、ご隠居」
 助は立ち上がり、浴室から出て行った。八は伊勢屋に頭を下げ、慌てて2階へ昇っていった。
 銭湯の2階は、湯上がりの火照りを収めるための休憩スペースとして解放されていた。1回での裸の付き合いの延長として、肩書きに縛られることなくのんびりとした社交の場であった。
 軽食をとったり、軽く一杯ひっかけることもできたが、囲碁、将棋、双六、そしてTRPGに興じることもできた。玉ノ湯では短時間に気軽にできるシステムとして、アップル・ベーシック系のシステム、MAGIUS、TRPG大饗宴、福袋を貸し出している。
※アップルベーシック系のシステム、MAGIUS、TRPG大饗宴、福袋
 アップルベーシックとは、冒険企画局がデザインしたもので、宙出版から刊行されていた「ウィッチ・クエスト」「私立赤霧学園」、講談社X文庫「能登半島幽霊事件」詳細情報 in 楽天ブックスなどに用いられていたシンプルなTRPGシステム。
 MAGIUS詳細情報 in 楽天ブックスは富士見書房から20世紀末ころに刊行されていた汎用(?)TRPGシステム。富士見書房、角川書店が出版していた様々なアニメやライトノベルを原作としたシステムが展開された。
 「TRPG福袋」は、株式会社ホビージャパンから1990年代半ばに刊行されたTRPGミニシステム集。「TRPG大饗宴」詳細情報 in 楽天ブックスは、エンターブレインから刊行されたTRPGミニシステム集。コンセプト的には、福袋シリーズの跡を継いでいるという。
「伊勢屋のご隠居も仲人道楽さえなければいいご隠居なんだけどなぁ」
「払いがいいからそう無碍(むげ)にできないって助さんがぼやいていたのが、あのご隠居でしたか。いい人そうじゃないですか」
「まっ、悪い人じゃねぇさ。最近も伊勢屋のご隠居のおかげでちょっと小金がたまってな」
「じゃ、ここの一杯は助さんのおごりですね、ごちそうになります」
「ちょ、ちょっと待てぃ!」
「助さんにお金を持たせてもどうせTRPG系の同人誌になるだけだし」(笑)
「ちょっと話を聞けぃ」
「なんです?」
「小金のおかげで、しばらく左官を休んでもなんとかなる。そこで、だ。今までできなかったことをやろうと思ってな」
「というと、いつものセッション部屋の改築ですか。最近ルールブックの出版ペースが上向いてきたので、新しい棚を置くスペースが欲しいとご隠居とも話していたところですよ」
「すまねぇが、改築じゃねぇ」
「なんですか?」
「版元に原稿の持ち込みをしてみようと思ってな」
「おっ。助さんもいよいよプロ目指すんですか」
「なに、どんなことでも10年やれば一家言あるものさ。その一家言でいっちょどこまで受け入れられるか試してみたいのさ」
「でも食えないって聞いたことありますよ」
「そりゃぁ、何の物書きでもいっしょさ。だからこそ、小金が貯まったときじゃねぇと、挑戦できねぇってもんよ」
「へぇ、がんばってくださいね〜〜」
「おうよ!」

 八さんの思い出したその日の助さんの瞳は、無垢な子供のように純真に輝いていた。将来の不安を感じることもないままに。


■未来長屋の奥まった一室

「というわけでして」
一茶「ふむふむ、最近はキャンペーンにも来ないと思っておったが、そういうことじゃったのか」
「よっぽど大作を作り込んでるんですね、きっと。助さんはこだわりすぎるところがあるからなぁ」
一茶「確かに、助にはそういう面があるのぉ。
 いくつか不安な感じがするわい。八さんや、助の様子を見てきておくれ、角の鰻屋に寄るのを忘れないようにな」
「わっかりました。あすこの鰻、助さん好きですものね〜〜」

■助の部屋/未来長屋の一室

 長屋から表通りに出て、蒲焼きを買ってきた八さんは長屋に戻り助さんの部屋を訪れる。
 障子戸には埃が積もり、ずいぶんと開け閉めされていない様子がうかがわれた。
 八さんは扉の様子にどこか迷宮内の風景を連想してしまう。盗賊の技術を持っていなかったものの、〈罠捜索〉や〈聞き耳〉に挑戦してしまう。
 罠は見つからなかったが、中から助さんのうなり声を聞き取ることができた。

 八は声をかける。助さんの返事に従い、戸を開く。その返事は、いつもの覇気に満ちたものではなく、弱々しいものだった。

八さん「これ、ご隠居からです」
「おっ、悪いな……ご隠居もすっかりお冠だろう?」
「いえ、掃除はご隠居が替わりにやってくださいましたが、最近姿を見せないとかなり心配されてましたよ」
「ううむ。申し訳ねぇ……」

「どうしたんですか? 持込がうまくいかなかったとか?」
「いや持込はまだやってねぇ。なんとなく、な。やる気が起きねぇというかな」
「どうしたんです? 石巨人や熊の迷宮、鬼面都市、長き丘で冒険してきた仲間じゃないですか。一人の悩みはみんなの悩みじゃなかったんですか!?」
「……そう、だな。
 原稿をいざ書き始め、半ばまで書き終えたんだ。詰まっちまった俺は関連書籍や電網世界を読みふけった。だが、読みふけるんじゃなかったんだ。俺の原稿のレベルの低さ――そいつがとことん思い知らされた。このレベルの原稿ならば、誰でも書けると。
 20年近くやってきた俺のTRPG道って何をやってきたんだろう……。そう思ったら、TRPGも原稿もなにもかもどうでもよくなってな。
 俺がGMやプレイヤーをやっても、ものを書いても世の中にはもっと上がいるし、何も変えることはできねぇ」
※電網世界:  大江戸コンピュータネットワークサービス。我々のインターネットに相当するらしい。
「助さん……。
 助さんはTRPGが楽しくないんですか! 楽しいからやっていたんじゃないんですか?
 それ以外の何かを求めていたんですか?」
「じゃぁ訊くが、〈楽しい〉って何なんだ?
 〈楽しい〉と何かいいことがあるのか?」
「TRPGの〈G〉〈ゲーム(game)〉〈G〉でしょう? ゲームすなわち、遊び――まずは楽しめなければ駄目だと思うんです」
「俺は〈楽し〉んでいないと?」
「悩んでいる姿はとても〈楽し〉んでいるようには見えません。助さん、原稿を書きながら〈楽し〉んでいないんじゃないですか?」
「……確かに〈楽し〉んでいるとは断言はできねぇ。
 が、〈楽しい〉にこだわる意味はあるのか?」
「では、助さんは何のために、原稿を作っているのです? そして今までTRPGをやってきたのはどうしてです?」

■数日後/未来長屋の奥まった一室

「というわけなんです」
一茶「それは重症じゃな……」
「改めて考えると〈楽しい〉って何ですかねぇ……そもそもTRPGって楽しいんですかねぇ?」
一茶「八さん……? おまえまで考え込むかのぉ。まぁ、いい機会じゃ。TRPGをやる意味、楽しさを考えておくのも悪くないかもしれん」
「まず〈楽しい〉とそれに似た言葉の意味から見てみますね」


たのしい【楽しい】
(形)心配なことがまったくなく、心が明るく、浮き浮きする気分だ。愉快だ。喜ばしい。 おもしろい【面白い】
(形)1.笑いたくなる気持ちである。こっけいである。おかしい。funny 2.退屈しない。たのしい。ゆかいだ。enjoyable 3.魅力があって、心をひかれる。興味深い。pleasant 4.望ましい。満足できる。favorable
ゆかい【愉快】
(名・形動)楽しく気持ちのよいこと・さま。楽しく面白いこと・さま。pleasant
こっけい【滑稽】
(名・形動)おもしろおかしいこと。おどけ。

以上『講談社カラー版 日本語大辞典 第二版』より

※『講談社カラー版 日本語大辞典 第二版』  監修 梅棹忠夫/金田一晴彦/阪倉篤義/日野原重明(1995/7/3 第2版初刷)

一茶「まとめると次のようになるじゃろう」
〈楽しい〉とは?
1.心配なことがまったくなく、心が明るく、浮き浮きする気分だ。(心配の原因を解決する過程/心配が不要な能力に満足する)pleasant/happy/enjoy
2.興味深い、未知なる経験をする(現代人として体験できない経験を過ごす)interesting
3.笑いたくなる気持ちである。滑稽だ。(通常では遭遇し得ない奇妙/滑稽な経験をする)fun/joyful

一茶「上記の意味でTRPGの〈楽しい〉について考えてみるのじゃ」
「1ですが、シナリオってハラハラドキドキ、おっかなびっくりという興奮を味わうものですよね」
一茶「ふつうはそうじゃな」
「この興奮は心配がもとになるものですね。小鬼と戦って勝つことができるか? 生き残ることができるか? こういうハラハラドキドキ、心配を解消するのがセッションですものね」
一茶「うむ。すると1は成立するといえるのぉ。では、2はどうじゃな?」
「ファンタジーTRPGならば、僕たちの人生ではふつうは体験できないような現象に遭遇することができますね」
一茶「うむうむ。2は順当に問題さそうじゃな。だが、学生さんが学園ものTRPGをやるときはどうじゃ?」
「その場合でも、漫画や小説のようにふつうは起きない事件に巻き込まれるシナリオが準備されますから、2は成立すると思います。  あまり恋の三角関係を悩む学生さんもいないと思いますし」
一茶「つまり、TRPGの舞台に関係なく2を成立させるような『興味深かったり、未知な経験』をできるようなシナリオが準備されるという訳じゃな」
「そうしなければ、そのTRPGシステムのデザイナーやセッションのGMはプレイヤーに遊んでもらえませんから」
一茶「ふむふむ。シナリオについては後でもう一度触れるとして……、2は成立すると。では最後の3じゃ。
 滑稽さを提供するTRPGシステムはあったかのぉ」
「『ドラゴンハーフRPG』などコメディをテーマにしたものが数点発表されていたみたいですけれど……」
一茶「TRPGのルールを運用しているだけで自然とテーブルが笑いに包まれるような仕掛けは試行錯誤されておるが、目的を完全に果たせているとは言い難いのぉ。つまり、GMの準備するシナリオでもコメディを目指さなければならぬというわけじゃ」
「GMの準備ですか……」
一茶「結局、シナリオに2を成立させる要素が求められるように、3を成立させる要素が求められるというわけじゃ」
「でも、シナリオやTRPGシステムに関係なくセッションを進めていくだけで発生する滑稽さの方が、シナリオやシステムに準備された滑稽さよりも多いような気もしますよ」
一茶「偏った出目や勘違い発言などじゃな。うむ、それもまた一理。
 人は共通の話題を持って会話するだけでも十分滑稽な光景を作り出すことができるからのぉ。
 八さんも店員業務中にお客さんと会話に詰まったことがあるじゃろう? 互いに共通の話題が見つけられなかったからそうなるわけじゃ。
 それと比べれば、セッション中に共通の話題を持っていることは明らかじゃろう?」
「うう〜ん、そうなのかなぁ?」
一茶「まぁ強引じゃが、TRPGは〈楽しい〉というわけじゃ。
 さて、助さんが〈楽し〉んでいるか、じゃが、まずは比較材料として八さんが〈楽し〉んでいるか見ておくのじゃ」
「僕ですか? 1のハラハラドキドキは楽しんでますし、セッションごとにびっくりする状況に追い込まれるので2も大丈夫ですね。滑稽さについては、サイコロの出目だけでも笑えることが多いので自信あります」
一茶「うむ、八さんは〈楽しい〉と思っておる。それで十分じゃ。〈楽しい〉は感情じゃ、ほかの人物があれこれ突っ込む必要はないじゃろう」
「そう言いながらも、僕らは他の人物である助さんの〈楽しい〉について考えるんですねぇ。ある種、変な話かも?」
一茶「まぁ、そうじゃが……本人がここにおらぬ以上は仕方あるまい」
「そうかもしれませんけれど」
一茶「う、うむ。今日のはとりあえず予習じゃ、予習。助さんが来たときに本番をするということで、な。
 というわけで、1のハラハラドキドキは感情というより感覚じゃ。感覚は感情よりも慣れやすい。何度も数をこなすと慣れてしまうわけじゃ。助さんは長年のセッションのなかで、様々なハラハラドキドキや未知の光景を過ごしてきおった。
 こういったマンネリズムは繰り返し用いられる〈お約束〉〈ステロタイプ〉として、ゲーム内の印象を強める方向に作用するのじゃ。少女がごろつきに追われてきたのを救うことで、冒険の依頼につながったとしよう。次回から、少女が追われてきたのを見たのならば、冒険の依頼につながると判断するようになるわけじゃ」
「展開がわかったら『未知なる経験』ではないんじゃないんですか?」
一茶「類似した経験となるわけじゃが、すべてが同じとはならんのじゃ。セッションに参加するメンバー、システム、シナリオが同一だったとしても、メンバーという人間は常日頃新しい経験をしていく。新しい経験を持ったPLによって、セッションで得られる経験はどんどん変化していくのじゃ。持っている経験により、同じ動作をしても得られる経験は違ってくるというわけでな。
 そのあたりについては、経験に関する専門書を書店や図書館で探すのがよかろう」
「わかったようなわからないような……」
一茶「ふぉっふぉっ。
 一刻一刻と変わる各メンバーの経験により、セッションでは常に新しい経験を得ることができる。そのなかで得られる経験は2を満たすとして、3の滑稽さじゃ。
 ベテランTRPG好きは、TRPGを〈楽し〉むためにセッションへ足を運ぶ。自ら〈楽し〉むために、滑稽さを無意識のうちに探すようになるわけじゃ――極言じゃが。よって3は満たされると」
「なんだか無理矢理なところもあるけれど、ベテランTRPG好きも〈楽しい〉んですね。では、助さんは?」
一茶「おそらく、じゃが。
 ものを書く――という自己を見つめる作業を通して、今までのセッションを思い出し、追体験をした。追体験は『今の』自分で昔のセッションを体験し直す。そこから得られる経験は、『昔の』自分では感じられなかったものを『今の』自分が感じ取るということじゃ。
 追体験自体は、『未知なる経験』を得ることと大差はないはずなのじゃが……」
「ないはず?」
一茶「何度も同じ体験を追体験しておると、『今の』自分と『昔の』自分の差がなくなり、〈未知なる〉部分が減っていくわけじゃ。そうなると〈面白い〉要素は減っていくことじゃろう」
「つまらなくなるんですか……飽きるというべきかな?」
一茶「うむ。原稿を書くという不慣れな作業の中、何度も同じ体験を追体験する過程が助さんに緊張を強いたのじゃろう。原稿を書くには、題材を何度も何度も吟味せんとならんからのぉ」
「その緊張が助さんをあんな無気力に追い込んだですね?」
一茶「おそらくな」

■助の部屋/未来長屋の一室

「っと、気づけば八の持ってきてくれた包みも変な匂いがするようになっちまった。くぅ、食べよう食べよう思っているうちに数日たっちまうとは我ながら情けねぇ。
 しかし、もう何かもかもめんどくさくてやる気がしねぇ。
 原稿詰まってからは、TRPGやってねぇし。最近TRPGをやってない俺がほんとにTRPGの記事を書いていいんだろうか? そもそも、俺ってほんとにTRPGが好きなんだろうか……」

■数日後/未来長屋の奥まった一室

「ご心配おかけしてご迷惑おかけいたしました」
「助さん、出てきて大丈夫なんですか?」
一茶「あらたまった挨拶をせんでもかまわんのにのぉ」

「考えてみれば、簡単なことだったさ」
「かんたん?」
「簡単、というより単純ということかな。
 〈楽しい〉からTRPGをやる。
 〈楽しい〉からTRPGが好き。
 この好きなTRPGをもっと楽しくしたいから、楽しさを分け与えたいからものを書いて発表したい。
 こういう単純なことだと思ったわけさ」
「どうしてそう思えたんですか?」
「どうしてだろうな……昔のブーム直前のTRPG記事を読み返したからかな。ほんとうに楽しそうに書かれている。今みたいに惰性で量産しているわけでなく、TRPGへの飢えがまだ感じられるというか」
一茶「うむ。今は大きくはないが固定のファン層があるからプレイしたければプレイをすることができるし、関連書籍も入手しやすいからのぉ。どんなにがんばってもプレイも書籍入手も難しかったブーム直前と比べれば、確かにのぉ。
 このような状況ではTRPGへの飢えは少ないと言われても仕方がないかもしれぬわい」
「金だけが目当てでものを書くぐらいならば、もっと簡単に大金が手に入る仕事がたくさんあるしな。今書いているものも、これから書き始めるものも、TRPGが好き、〈楽しい〉という想いがあるからやっているはずだろ」
「結局、苦労が金銭的には報われないのは仕方がない?」
一茶「それは需要と供給のバランス的に仕方あるまい。そのあたりは、TRPG120%の他の記事でも語ってくれてるはずじゃ」
「こうやって〈楽しい〉にこだわり続ける、それだけで男の生き方としてありなんじゃないかな、って。キザすぎるけれどな」
一茶「人間国宝と呼ばれる人も、結局は、一つのことにこだわり続けてきたからその称号を得たのじゃ。愚直に、ただ愚直に一つにこだわることだけでも大変なことなんじゃ」
「こだわり続けることで、きっと何かを変えられるって思うさ。20年の中で自分を変えられたわけだし、八さんやご隠居に楽しさを伝えられたわけだしな」

「そういえば、結局、版元への持込はどうだったんですか?」
「原稿にもう一ひねり加えた上で、締切を守れるようになれば発注したい、と言ってもらえたぜ」
一茶「そのわりには、あまりうれしそうではないのぉ」
「ただ、会ってくれた編集者さんが伊勢屋さんに以前紹介された見合い相手だったんだ……こっぴどく振られた相手だけに非常にやりにくくてな……」

■一茶助八のつぶやき

 趣味にしろ、仕事にしろ、毎日毎日同じように強い意気込みで行うことはできないのは、おぬしもわかっておるじゃろう?
 やる気の衰えを感じたのならば、一時的にそれから離れることも必要じゃ。助さんのようにひたすら一つのことだけを考え続けることは危険なんじゃ、実は。思い詰めて、病になりかねないからのぉ。
 わしも仕事に飽きたときは、よく吉原に通い詰めたもんじゃ。ふぉっふぉっ。
 ※ 本記事は、2004年8月頃に読まれることを想定してかかれました。 (初出)「TRPG120%」8号(発行:サークルFORTUNE、2004年8月13日)

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