高校美術部OBの同人誌「樹」からのピックアップ
95.3.9 こんな絵を描きたい(原題:タネあかし)
去年の夏に十数枚の水彩小品を描いて以来、絵を描いていません。自慢ではなく報告です。
でも、こんな絵を描きたいなというイメージは発酵が進んでいます。油絵の静物で10号程
度でしょう。大きい絵を描く必然性をまだ感じません。今までもそうだったように壁に掛け
て1,2mの距離で見ることを前提に描きます。花とか果物とか陶器の瓶とか、生命の感じ
られるものを描きます。イエローオーカーか茶系の中間色で下塗りをして乾いてから、細い
筆で強すぎない色でデッサンして構成をきめます。このとき物と空間の関係を重視します。
物だけを描いているようにならないように、物がまわりの空間と対話するように描きます。
極端な言い方をすれば物は空間を作るためにあり、うしろの壁やテーブルの面と同じです。
物と壁とテーブルによって作られる居心地のいい空間が僕のめざす絵です。それは前に言っ
た物の存在感、孤独感と矛盾しそうですが両立不可能ではないと思っています。人間の存在
自体がそんなものだと思います。自分が居心地がいいようにまわりの空間をつくって孤独を
内に秘めて自分らしく生きていく。それを絵に表しているんだと思います。空間の形が気持
ちいいものになってきたら色を塗ってゆきます。色もお互いに気持ちのいい関係をめざしま
す。色数は多くせず同じ色の中で微妙な違いを作るようにします。ごく近い色どうしの響き
あいが好きだからです。筆とナイフを交互に使って自分好みのマチエールをつくってゆきま
す。下塗りも見えかくれして生かすようにします。見えた通り描くのではなく物や空間と相
談しながら線や陰、影、光を描き込みます。空間が画面の中だけで完結しないように配慮し
ます。外にこんな形で広がっている、こんな動きが続いているというようにします。この絵
の中で永眠したいな、と思うような絵になったら完成です。もちろんまだそんな絵は描けて
いません。理屈と実際の制作が全然ちがってしまうかも知れません。でもある程度は現在の
僕の絵のタネあかしをしたつもりです。S君、O君のタネあかしも聞きたいです。