小文集’1997
97.1/7 年 頭 所 感
私は一日単位で生きているので新年だからどうということはない。毎朝が明けましておめ
でたい朝だ。だから一昨年から年賀状はやめた。消息を伝えたい人には年末状を出している。
いずれ年末状もやめるだろう。世間の慣習から自由になって行きようと思っている。慣習が
すべて無意味とは思わないが、多くの人が内心では変えたいと思っているものも多い。お年
玉しかり、成人式しかり、結婚式お葬式バレンタインまたしかり。
97.2/9 平 成
昭和が平成になって9年目にはいるが、未だにこの尺度になじめない。言葉の響きがどう
こうという問題ではなく、だれかの寿命によって気まぐれに1に戻るのがいやだ。こんなこ
とで日本人のアイデンティティーが保てるとは思えない。これからは地球上の人々の共通の
言葉を増やしてゆかなくてはならない。音楽はその言葉の一つだ。
97.3/7 きわめて個人的な話題
3/27に50才になります。30才くらいの気分でいるのですが鏡をみるとよそのおじ
さんみたいな人が写るので、これが私なんだと言い聞かせております。心と体は一緒に歳を
とらないのですね。今年は花粉症状が思ったより軽いです。教室にいると楽なのに自宅の3
03号に戻ると目鼻が痒くなるので、どうも家のホコリも関係しているようでお恥ずかしい
話です。
97.4/4 は な
桜が満開です。桜と書くより「さくら」とかなで書くほうがふくよかな広がりがある。儚
くて豪華。この世の哀しみと喜びが形になったような姿。神様の芸術作品。遠くの物音が時
折り聞こえるような静かなところで花を味わいたいものです。風の音、水の音を大切にする
心が音楽の原点です。桜の下でラジカセはかけてほしくない。感性の貧しさを証明してしま
います。ピアニッシモの美しさを感じとれるように心がけましょう。
97.5/12 初 心
ベテランバンドの演奏よりも、ビギナーバンドの方が聞いていて楽しい、面白い、という
話がよく出る。それはきっと必死になってやっている真剣さと、自分にも演奏ができるとい
う喜びの強さがベテランバンドを上まわるからだろう。長く続けていても真剣さと喜びを常
に持っていたいものだ。バンドに限らず絵もそうだし、人との関係も同じ。慣れは必要では
あるけれども、慣れを越えてゆかなくてはならない。日々初心。
97.7/7 待 つ
6月中は買うまいと我慢していたスイカをついに7/3に買って食べた。から梅雨で真夏
日が続いているのでひときわうまい。その季節が来ないと食べられないものを1年間待って
食べる。待つことでうまさが倍になる。物がすぐに手にはいる世の中は喜びも少ない。楽器
も思うようには上達しないものだが、だからこそ弾けるようになった時の喜びは大きい。
手間をかけ時間をかけて物を作ることから文化が育つ。
97.8/4 フ レ ー ズ
曲には起伏があって緊張と弛緩がうまく組み合わされている。曲の中の1つのフレーズも
、その中のあるポイントに向かって緊張が高まってゆき、そこを過ぎるとほっと安らぐ気分
になる。そういう大小のフレーズが関連しあって曲になる。人生もまたフレーズの集まり。
1つ1つのフレーズを大切にしたい。本番演奏はうまくできなくて落ち込むこともあるが、
その前後も含めて1つのフレーズなのだ。繰り返されるフレーズも多い。
97.9/2 私にできること
教室だよりが181号めになりました。15年を通り越したわけです。この15年は楽し
いことばかりやってきたので、えっ、もう15年?という感じです。過去の、そして今の多
くの人の重い一日の犠牲の上に私の楽しい一日があります。8月は特にそういう気持になり
ますが、私にできるのは絵と音楽によって平和で幸せな美しい世界を表現することだけです
。そのために、平和と幸せと美しさに敏感にならなくては。
97.10/6 今 を 生 き る
今が大切とよく言うが、物理的には今という瞬間は無限小の一瞬で、1秒でも前は未来、
1秒でも後は過去だ。しかし心の時間は心のあり方で進み方が変わる。何かに集中すると時
間は遅くなり、ついには時間が止まる。集中からさめて時計を見ると3時間も経っていたり
する。その3時間こそが「今」なのだ。時計と同じ時間を生きている人に本当の「今」はな
い。時計を止めてしまう程に「今」をいきたいものだ。
97.11/1 午 後 4 時
一日を一生に重ね合わせてみる。朝6時に人生が始まり8時に10才、10時に20才、
12時に30才、午後2時に40才・・・とすると50才の私は午後4時か。2時頃のつも
りでいたのだけれど。10時の就寝までには間があるがもう陽は高くはない。微妙な時刻だ。
でもうまくいけば、これから美しい夕暮れが始まり空に星がかがやく。いい一日だった、と
感謝できる夜を迎えたい。
97.12.1 年 末 状
何年か前に年賀状をやめ、年末状に変えました。教室の生徒さんや日頃お会いする方には
年末状も略させていただきます。儀礼慣習をすべて否定するつもりはありませんが、私は私
の人生様式をつくります。身内以外の結婚式、お葬式には出ません(演奏は仕事としてお受
けします)。私の葬式は行いません。墓も作りません。あの世はありません。名前のついた
神仏は信じません。今日一日がすべてです。