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 ある晴れた冬の日。未来長屋は今日も日本晴れだった。


八さん「みんな遅いなぁ。今日はやっとルールブック読んできたのに。ルール忘れちゃいますよ」


 ここは、大江戸。公方さまがおさめる平和な世界。侍が法を操り、農業従事者が食料を生産し、職人が道具を造り、商人がものを受け渡す、そんな世界だ。


助さん「よぉ、八っつあんじゃねぇか、新作買ったか?」

 長屋の端にある、その部屋への扉を開けた職人風の男は、中にいた丁稚風の男に声をかけた。


八さん「ほえ? 助さんはまた新しいルールブックを買ったんですか? 買ったってやらないくせに」

 丁稚風の男は、部屋の片隅に積まれた座布団を1枚掴み、入ってきた男の元へと押しやる。助はその座布団に座り込み、部屋を見回す。


助さん「おっといけねぇ、一茶のご隠居はまだかい?」
八さん「なんでも大江戸GM会議の申込みを忘れていたとかいう話で遅れて来られるそうですよ」
助さん「とかいって、どうせまだシナリオができていねぇってことじゃねぇのかねぇ」
八さん「ご隠居にかぎってそれはないんじゃありませんか。どこぞの職人さんじゃあるまいし」

助さん「ところで新作買っていないようだな。いかんなぁ」
八さん「そうかなぁ、私はいつもやってるTRPGのルールブックさえあればいいと思いますけれど」
助さん「そいつは甘いねぇ」
八さん「甘い?? そう言いました?」
助さん「あぁ。『甘い』、そう言ったさ」
八さん「どういうことです?」
助さん「そいつぁな……」

★  ☆  ★


 一茶助八の悠々TRPG好き
〈第1回 TRPGってどれだけ買えばいいの?〉

 この文章は、全国のTRPG愛好者(以降、TRPG好きと表記)が、無意識のうちに受け入れていることから、日頃の悩みまで様々な事例を語ったものである。
 今回のテーマは、上記タイトルの通り。ルールブックに、シナリオ集、リプレイ集、関連小説、サポート雑誌、似たような世界観を舞台にしたTRPGルールブック、同人サプリメント……等々、GM(ゲームマスター)だけではなく、PL(プレイヤー)にとっても様々な資料を目にすることは多い。
 そのすべてが役立つというわけでもなく、すべてを購入、使用、保管することは、限りある時間を生きる人間には難しいことだ。
 はたして、人はどこまで資料を買えばいいのだろうか?

☆  ★  ☆

助さん「入手できる限りのルールブックを買い漁るのがやはり最初のゴールってもんよ」
八さん「えっ?!」
助さん「ルールブック購入と並んで進めるのが、リプレイ集、関連小説、シナリオ集やなんかを含む、追加データ集購入だな」
八さん「……」(愕)
助さん「驚いてやがるな。まぁ、俺もこの長屋に流れてくる前、TRPGの世界に足を踏み入れてすぐ、格さんにそう言われたときには腰を抜かしたかけたものさ」
八さん「そこが収集家助さんのスタート地点ですか……、はぁ」
助さん「俺は格さんとは違って温厚だっからよな、いきなりずぅぇえんぶのルールブックを集めろなんて言やしねぇ」
八さん「結局、何か集めなければいけないのですね……」(涙)
助さん「おまえさんは、「ソード・ワールドRPG」(以下、SWと表記).ならばGMもやったな」(*1)
〈ソード・ワールドRPG〉*1
 富士見書房から発行されている清松みゆき氏中心のデザインのファンタジーTRPG。次にあげる「完全版」と「基本+上級+Q&Aセット」の2種類のルールがあります。 「完全版」
 A4判の大きなルールブックで述べられているルールに従ってプレイします。「基本+上級+Q&Aセット」をバランス修正のうえ、再構成したものになります。使用するルールブックは次のものになります。
書籍名:ソード・ワールドRPG【完全版】
著者名:清松みゆき/グループSNE
発行所:富士見書房
ISBN :4-8291-7306-8

「基本+上級+Q&Aセット」
 文庫判の書籍4冊で構成されるルールブックで述べられているルール従ってプレイします。「完全版」で修正されたバランスを好まない方や、文庫判の携帯性の良さを気に入っている方が使用しています。使用するルールブックは次のものになります。
書籍名:ソード・ワールドRPG
著者名:水野良/グループSNE
発行所:富士見書房
ISBN :4-8291-4228-6
 とりあえず、この1冊だけでもプレイ可能です。基本ルールブックと称されることがあります。詳細情報 in 楽天ブックス

書籍名:ソード・ワールドRPG 上級ルール 分冊1
著者名:清松みゆき/グループSNE
発行所:富士見書房
ISBN :4-8291-4240-5詳細情報 in 楽天ブックス

書籍名:ソード・ワールドRPG 上級ルール 分冊2
著者名:清松みゆき/グループSNE
発行所:富士見書房
ISBN :4-8291-4241-3
 プレイヤーしかやらない人は、この本を持っていない場合が多いです。プレイヤー・キャラクターにとっての障害となる、怪物たちのデータ集だからです。詳細情報 in 楽天ブックス

書籍名:ソード・ワールドRPG Q&Aブック
著者名:清松みゆき/グループSNE
発行所:富士見書房
ISBN :4-8291-4323-1
 これを持たない人も多いです。詳細情報 in 楽天ブックス

八さん「はい。私がGMできるのはこれだけです」
助さん「となると、まずは、王道ともいえるSWリプレイ集15冊、シナリオ集15冊、そして短編集・長編を合わせた小説32冊」(*2)
〈SW関連作品〉*2
 次のようなものが出ています。1989年に出て以来、それだけたくさんの人々に愛されてきたということでしょう。

 ルール関係:完全版、基本ルールブック(文庫判)、上級ルール、Q&Aブック(詳しくは、*1を参照)
 シナリオ集:「石巨人の迷宮」(著:水野良/グループSNE/詳細情報 in 楽天ブックス)など、11冊
 リプレイ集:「盗賊たちの狂詩曲」(著:山本弘/グループSNE/詳細情報 in 楽天ブックス)など、15冊
 短編小説集:「レプラコーンの涙」(著:水野良・他/詳細情報 in 楽天ブックス)など、16冊
 長編小説:「死せる神の島」(著:下村家惠子/詳細情報 in 楽天ブックス)など、約40冊
 漫画:「ユニコーンの乙女」(原作:水野良/画:青木邦夫/詳細情報 in 楽天ブックス)など

八さん「そんなにありましたっけ?」
助さん「確か、おまえの家にはPC-9801シリーズ(日本電気)のパソコンがあったな」
八さん「最近使っていませんけれど、あるにはありますよ」
助さん「じゃ、パソコン版ソード・ワールド(T&Eソフト)はおさえておかねぇとな。コンプコレクション(角川書店)から出ていた『SWPCシナリオ100本集』はさすがに絶版だからあきらめてやっからさ」(*3)
〈SWPCシナリオ100本集〉*3
『コンプコレクション11 ソード・ワールドSFC・PCシナリオ全100本集』
 著:安田均・水野良・下村家惠子・グループSNE
 発行所:(株)角川書店
 ISBN 4-04-714011-2詳細情報 in 楽天ブックス

 筆者は内容確認していませんが、上記の本の代わりに、(株)双葉社もしくは(株)勁文社から発行されていたSFC版のSWの攻略本を参考するのもいいかしれません。特に、「SFC2」については、攻略本を見るしかシナリオを知る手段はないと思われます。
 なお、「SWPC」については「PCー9801ゲームリバイバルコレクション」(詳細情報 in 楽天ブックス)に収められています。

八さん「PC-9801シリーズ用のソフトっていつのソフトです?」
助さん「八十年代から九十年代に移るころじゃなかったかな」
八さん「そんなんじゃ、ソフトも手に入れられませんって」
助さん「では、スーパーファミコン(任天堂)は持ってやがるか」
八さん「確か壊れて捨てちゃいましたけれど」
助さん「ならば、スーパーファミコンJr.を買え」
八さん「スーパーファミコン(以下、SFCと表記)でSWなんて出てましたっけ?」
助さん「よくそれでGMやってこられたなぁ……、PC-9801版からの移植作の『SWSFC』、それとラジオドラマに小説とメディアミックス展開をさせた『SFC2』の2本がでてやがるぞ。無論、古くせぇ作品だっからよ中古販売に頼る必要が出てくるかもしれねぇが」(*4)
(SWメディアミックス作品)*4
 毎日放送でラジオドラマが放映され、そのドラマがビクターから発売されていたような気がします。
 また、SFC版のTVCF(!)や雑誌広告などでは芥川賞作家志茂田景樹氏とwinkが起用されていたのも懐かしいものです。
 現在では、WOWOWで放映されたTVアニメ作品「魔法戦士リウイ」詳細情報 in 楽天市場も参考作品になるでしょうし、本誌発売のころにはTCGになった「SWカードRPG」詳細情報 in 楽天ブックスも役にたってくれていることでしょう。と思っていたのですが、カードは発売延期のようですね。

(1時間経過)


助さん「なんて感じでSW関連物を買い終えたのならば、さらに押さえておかなければいけねぇものがいくつかあるぜ。これらを押さえておけば、ほかのSW専門GMとは一線を画す存在になれるってもんよ」
八さん「まだそろえるんですか……、長男が今年生まれそうなので、こづかい減らされそうなんですけれど」
助さん「まぁぼやくな。ここで、ボウズが自慢できる親父になれるかどうかが決まりかねねぇポイントだっからよな」(*5)
〈子供が自慢できる親父〉*5
 嘘です……、と単純に言い切れないところです。現在日本で、GMできる親父が子供の自慢できるポイントになるかどうかを考えれば……。
八さん「同じ世界を舞台にした『ロードス島』『クリスタニア』をおさえておけと言うことですよね」(*6)
〈『ロードス島』『クリスタニア』〉*6
 角川スニーカー文庫(角川書店)で展開されている「ロードス島戦記」詳細情報 in 楽天ブックス「ロードス島伝説」詳細情報 in 楽天ブックス「新ロードス島戦記」シリーズ詳細情報 in 楽天ブックスと、電撃文庫(メディアワークス)で展開されている「クリスタニア」シリーズ詳細情報 in 楽天ブックスのこと。
 ともに、SWの背景世界であるフォーセリア世界を舞台にしています。似たような文化を持つ世界で描かれる物語などは、SWの資料として無視はできないでしょう。
 これらの作品も、TRPG、アニメなど様々なジャンルに展開されています。
助さん「それだけではワールドデザイナーの水野良氏部分の資料だけで、不十分だぜ。ルールデザイナーの清松みゆき氏部分の資料である『ハイパーT&T』(角川書店)、『ドラゴンハーフRPG』(富士見書房)、『央華封神』(メディアワークス)の3つくれぇはさらにおさえておくべきだろうな。これで同氏の意図しているルール面からの世界観再現についての造詣を得ることができる」(*7)
〈ルール面からの世界観再現〉*7
 たとえば、次のような感じです。

『ハイパーT&T』
  書名:ハイパーT&Tルールブック
   著:安田均・清松みゆき・黒田和人/グループSNE
 出版社:角川書店(角川スニーカーG文庫)
  ISBN:4-04-480502-4
 SWの技能制はマルチクラス制に近いものです。これとは逆に、HTTは、クラス制になっています。詳細情報 in 楽天ブックス

『ドラゴンハーフRPG』
  書名:ドラゴンハーフRPG
   著:清松みゆき/グループSNE
 出版社:富士見書房
  ISBN:4-8291-4249-9
 原作コミック『ドラゴンハーフ』(作・見田竜介/富士見書房)でよく出てきた防具(着衣)破壊シーンを再現するためのルールなども入っています。
 SWをパロディにしてみよう、という手法も取り入れられています。というわけですので、SWのルールやデータとかなり近い存在ともいえます。詳細情報 in 楽天ブックス

『央華封神』   書名:央華封神RPG
   著:清松みゆき・友野詳/グループSNE
 出版社:メディアワークス
  ISBN:4-8402-1624-X
 仙人をファンタジーRPGの魔法使いと差別化させるために、仙術(魔法使いの魔法みたいなもの)を無限に使えるようにしてあります。
 判定の仕方は、SWにかなり近いです。詳細情報 in 楽天ブックス

八さん「う〜ん、『央華封神 完全版』くらいしか見たことないです」
助さん「格さんならば、拳をぱきぱきならしながら、『書店に注文してでも、インターネットオークションに参加してでも入手しろ!』と怒りそうなとこだろ〜けど、俺はそこからスタートでいいと思う」(*8)
〈書店に注文してでも、インターネットオークションに参加してでも入手しろ!〉*8
 実際の方法については、本記事の最後にある【付録】を参考にして、皆様考えてみてください。
八さん「助さんの助言を生かして、子供に尊敬されるSWのGMになれるよう資料を集めてみます!」

 結局、その日は一茶GMは部屋に来なかった。二人は後からきた数名と一緒に呑みに行った。

△  ▼  △

 一週間後。

八さん「SW関連書籍とハイパーT&Tを買ってみたんですけれど」
助さん「おっ、なかなか素早ぇ動きだな」
八さん「ちゃかさないでくださいよ」
助さん「すまねぇ」
八さん「ハイパーT&Tも面白そうですね。さすがはSWをデザインされた方がつくっただけのことはありますね」
助さん「なっ、いろいろ買ってみてよかっただろ」
八さん「そういえば、助さんは買われたTRPGすべてを遊んでいるんですか」
助さん「……」(遠い目)
八さん「助さん、話 聞いてます?」
助さん「おっといけねぇ、すまねぇぜ。昔はやっていたさ」
八さん「やっていた……?」
助さん「あぁ、昔の話さ」
八さん「現在はやっていないんですか」
助さん「昔の仲間はみんな冒険よりも家庭を選んだっからよなぁ。まぁ奴らの選択を非難はできねぇさ」
八さん「最近はどれくらいやってます?」
助さん「新作は、年に1,2本やってみるくれぇじゃねぇか。どうしてもプレイの数自体が少なくなってやがるからな」
八さん「そうなると、やっていないTRPGのルールブックや使わないサプリメントも増えているのでは?」
助さん「それが何か問題なのか」
八さん「それってもったいなくありません?」
助さん「たとえ読まなかったとしても、筆者や発行者に収入が入るじゃねぇか、それで十分だろう?」
八さん「読んでないんですか?」
助さん「ここんとこはかなり読み切れていねぇ。刊行ペースがかなり回復してきてやがるせえだな」
八さん「回復?」
助さん「八っつあんは知らねぇのか……、あの明るく澱んだ栄華と退廃の時代を……」(遠い目)(*9)
〈明るく澱んだ栄華と退廃の時代〉*9
 角川スニーカーG文庫創刊(1994年?)から、富士見書房のMAGIUSシリーズの量産までの時代(〜1998年)が象徴的な時代です。毎月数冊のルールブックやサプリメントが出ていた時代なのです……。サポート雑誌も数冊あり……。
 本誌3号の「国内TRPGシステム年表」を覗いてみてください。当時、どれだけのシステムが出ていたかを。
 この時代について読みたければ、そうご要望ください(宣伝)。
八さん「??」
助さん「毎月のようにルールブックや関連書籍が出版されていた時代があったのさ、玉石混合だったがな」
八さん「助さんのような人には良かった時代だったんでしょうね」
助さん「そいつぁどうかな」
八さん「良くなかったんですか?」
助さん「途中までは良かったさ……。そうだな、この話題はまた今度にしよう」
八さん「それじゃ話を戻しますが、実際にプレイしていないルールブックや読んでいないルールブックがたまっているんですよね」
助さん「まぁな。八っつあんの訊きてぇことはこうなんだろ〈何のために買っているんですか?〉」
八さん「そこまで言うつもりはありませんでしたが、突き詰めていえばそんな感じですね。実際、プレイも読みもしないルールブックを何か使っているのですか?」
助さん「使っているかと訊かれると……、なあんにも使っていねぇな。一応、必要になりやがったとき用に、資料として手元におさえておきてぇといったトコかな」
八さん「つまりとりあえず買っておく……と」
助さん「まぁそうだな」
八さん「いわゆるコレクター?」
助さん「俺はいっぺぇ集めてぇわけではなく、ただ資料としてだなぁ……」
八さん「でも、この前の『特命転攻生』をレジに持っていくときの助さんの表情はコレクターの悦びに見えましたが」(*10)
〈特命転攻生〉*10
  書名:特命転攻生
   著:坂東真紅郎/エルスウェア
  ISBN:4-7577-0504-2
 「蓬莱学園」シリーズの柳川房彦監修のハチャメチャ学園ものRPGです。2002年には同じ世界でのメイルゲームも始まるそうです。詳細情報 in 楽天ブックス
助さん「な……なぬ? あのとき、いたのか……」
八さん「えぇ。挨拶しても気づいてもらえないくらい、助さん嬉しそうでしたねぇ」
助さん「むむむ……」
八さん「どうされました?」

 助、突然立ち上がる。頭上から八を見下ろして叫びだした。


助さん「あぁ、てめえの言うとおり俺はコレクターさ! 買って満足する俺が悪いってぇのか? 収集することで迷惑をかけたっていうのか? えぇ??」

 助、八の首元を掴んで前後に揺さぶり始める。八、逃れようとするものの、職人仕事で鍛えた肉体に商人修行中のひ弱な体で対抗することはできなかった。


八さん「べ、べつに……悪くありません。別に助さんを責めているわけではありませんよ……」

 息も絶え絶え、どうにか八は声を絞り出した。
 だが、助の怒りはおさまらず……
 八の意識は真っ白になった。


(十数分後)


一茶「おっと気がついたようじゃな」
助さん「すまなかった、ちょっとばかし……、な」

 八の開けた瞳に二人の姿が飛び込んできた。先ほどまで話をしていた助と、そして、この部屋の主であり、彼らのセッションを運営する一茶GMである。
 一茶GMは、いかにも数え切れないほどの年月を経てきた風貌を、俳諧の師匠のようなこざっぱりとした衣装で飾っている。


一茶「いけないのぅ、助」
八さん「いえ、助さんは悪くありません。私が助さんの気に障ることをいってしまっただけで……」
助さん「いえ、悪いのは俺です。なんでもねぇ八っつあんの一言に過剰反応してしまった俺がいけねぇんです」
一茶「ま、今回悪いのは助だな」
助さん「すいやせんでした」
一茶「なぜ〈コレクター〉という語に過剰反応する? 収集家である己を恥じているというのかな?」
助さん「そうかもしれやせん。買ったぁきりで使ってねぇルールブックに悪いな、なんて思っていたもので。その辺りを八っつあんに非難されたような気がして」
一茶「非難するつもりだったのかね?」
八さん「そんなつもりはありませんでした……、もしかしたら私に呑み代を借りてまでルールブックを買う助さんに非難の念があったのかもしれませんが」
一茶「それが非難だったとしても〈コレクターな助〉に対する非難ではなく、〈飲み代を返さない助〉への非難であるので、この激昂は助がいけないということになるのぅ」
助さん「恥ずかしくて顔から火が出そうな思いです」

一茶「一応言っておくが、自分が主にやるTRPGのルールブックしか買わないことも、手当たり次第ルールブックを買い漁ることもともに長所ともいえるし、短所ともいえる」
八さん「何が長所で短所なんですか?」

一茶「まず、自分が主にやるTRPGのルールブックしか買わないことについて説明しよう」
八さん「私みたいなタイプですね、気になりますね。お願いします」
一茶「TRPGのルールブックはそれさえあれば、無限の可能性を秘めている存在だ。そして追加データにより、その可能性は開放されていく。そのデータは、己で創ってもいいし、いろいろなところから集めてきてもいい。つまり、ルールブック自体さえ買ってしまえば、後は別に買わなくてもいい商品だといえる」
八さん「そうですね」
一茶「ところで皆がルールブックだけを買ってその後何も(TRPG関連物を)買わないとなると、どうなると思う?」
助さん「ルールデザイナーたちへお金はルールブックの印税しか入らねぇな」
八さん「ということは、彼らの生活が苦しくなるということですか?」
一茶「彼らの生活が苦しくなると、ルールの不備やギモンに対するサポートは止まるじゃろ。さらにそれだけでなく、ルールブックを編集・発行している出版社も経営が苦しくなる。小売店も次の本を買ってもらえず経営が苦しくなる」
助さん「こうして業界は衰退するってぇわけだ」(*11)
〈こうして業界は衰退するわけだ〉*11  なぜこうなったのか、市場原理によれば簡単なことです。
 売れないからです。
 90年代前半のTRPGバブルは、安価な文庫判ルールブックという形で創造されました。この安価……というところが問題です。
 安価なものを発行するには、それなりの量が発行されなければいけません。半ばコレクター的なマニア層にだけ買われるようになっては、それなりの量を売り切ることができませんでした。
 また、安価ということは著者への収入にも響きます。マニア層だけしかかってくれないのならば、1冊あたりの価格を上げて、著者へ流れてくるお金の量を増やさなければ、著者はデザイナー稼業を続けることができません。
 結局、マニア層しか買わなくなり、売れ行きの落ち込んだTRPG関連文庫は、年に数冊程度しか発行されないところまで落ち込みました。
 わずか年に数冊まで落ちこんだ文庫たちだけでは、業界というものを形成できなくなるのでした。

 最近の大型書籍(数千円という価格帯)でのルールブック刊行ラッシュは、ちいさなマニア層から確実にお金を取っていこうというスタイルです。出版界で、出版不況といわれるこの時代、数千部を確実には売り切ることが出きるという、マニア層相手の商売は、ほかの書籍刊行と比べても、発行者にとって悪くないものだったということなのです。
 ところで、「業界」というほどの規模があるのかな? また、そんなに成熟したジャンルなのかねぇ……。

一茶「という業界関係者の生活の悩み以外にも問題がある」
八さん「何です?」
一茶「プレイのマンネリ化を招くということじゃ。同じルール、同じデータを繰り返し用いているうちに、どうしても人間飽きがきてしまう」
八さん「確かにそれはあり得ますね。同じGM、同じシステム、同じメンバーでプレイしていると、ときどき目新しさを感じなくなることがありますものね」
一茶「これが、己がやるルールブックしか買わない者の長所と短所じゃ」

一茶「次に〈コレクター〉の長所と短所じゃ」
助さん「どれどれ……」
一茶「業界にとっては歓迎すべき存在じゃ。彼らのおかげで経営も助かりかねない。さらに熱心なコレクターならば、作品についての意見も出してくれる」
八さん「そう言えば、助さんはメーカーによく投書をしていますね」
一茶「さらにあらゆるジャンルで見られることだが、〈コレクター〉からそのジャンルの研究家・批評家が誕生するということだ。未だ、TRPGにおいては研究家・批評家といった存在はほとんど認知されていないが、もっと永く愛される存在になっていけば、こういった存在が必要になることだろう。この需要を満たす存在になりうる層なのだ」(*12)
〈研究家・批評家〉*12
 余談になりますが、〈文学〉というジャンルでは、未だに様々な作家についての研究書などが発行されています。宮沢賢治辺りは人気が高いらしく、とりあえず買ってしまうというそうも大きいようです。今までにかなりの数が出ているのですが、まだまだ宮沢賢治に関する研究者などは出そうな勢いです。もちろん、それだけに質のいい書物ばかりとは限りませんけれど。
 こういったように、研究書が出るようになってくれば、ジャンルも成熟期に入ったといえるのではないでしょうか。
 そういえば、最近の現代文学関係の大学生の卒業論文に水野良氏などを取り上げる動きが増えつつあるようです。
助さん「なんだか自信が出てきたぞ」
一茶「次に短所だが、〈コレクター〉は入手したものを必ずしも使いこなさない(もしくは、使いこなせない)。コレクションの対象としてしか見ていない者の手に渡ったルールブックは、ルールブックとしての役割を果たすことなく、本棚の片隅で終わることが多い。絶版になったルールでのプレイに関心を持つ者の期待に応えられないところが非常に残念だ」
助さん「確か、『ブルーフォレスト物語』(デザイナー版)をやりたいのに見つけられませ〜ん、つう相談を受けたことがあったなぁ」
八さん「そのときは結局、助さん、なんだかんだと理由を付けてプレイしてあげなかったんですよね」
一茶「そういったところが、ちょっと残念なところだ」

一茶「おっと、そろそろ他のプレイヤーもやってきたのぅ」
助さん「それじゃ、プレイに入りやしょう」
八さん「では、次回まで」
「ごきげんよう」

筆者の独り言

 助さんタイプのユーザーは、質の悪い作品にも、代価を払います。これは、市場淘汰を阻害し、質の悪いものを市場に生き残らせることになります。どういうことかというと、彼らの存在により、どんなサプリメントでもある程度の売り上げが発生してしまうということです。それにより、市場データが歪んでしまうのです。その結果、質の悪いものが淘汰されない市場が形成されてしまうのです。
 このタイプのユーザーが、現在の業界を導き出したという、うがった見方も存在しています。

 八さんタイプのユーザーをどう囲い込むか? 八さんタイプのユーザーによってデザイナーたちの生活を支えるにはどうすればいいのでしょうか?
 これが現在の業界の問題といえます。
 (有)ファー・イースト・アミューズメント・リサーチでは、隔月で特定システムのシナリオを刊行していくことで、この問題を解決しようとしているようにも見えます。

 ん? 私がどっちのタイプかって? そりゃもちろん、助さんタイプですよ。昨夏に買った『天羅万象・零』(*13)を読んでいないくらいですし……。

〈天羅万象・零〉*13
  書名:天羅万象・零
   著:井上純弌/F.E.A.R.
 出版社:エンターブレイン
  ISBN:4-7577-0188-8
 ホビージャパンから発行されていた「天羅万象」の改訂版。
 戦国時代の日本によく似た世界で繰り広げられるオリエンタル・ファンタジーの物語を感じ取れます。詳細情報 in 楽天ブックス


【付録】

〈購入方法/Step1〉

 書籍として存在している資料については、たいてい街角の書店、通信販売をしている書店などから購入することができます。
 基本は、「コロコロコミック」などの少年少女誌で紹介されている「コミックの購入方法」と同じです。
 欲しい書籍があったのならば、まず次の4点を調べましょう。
      
  • 書籍名(例:「霞を食べて仙人になろう!」)   
  • 著者名(例:一茶助八)   
  • 出版社・発行所名(例:オニオンワークス)   
  • ISBNコード(例:4-1234-5678-9)  
 ISBNコードだけでもいいのですが、万が一、番号を間違えてしまうと、予想もしなかった書籍と巡り会うことになってしまいます。というわけで、できるだけ3点は調べ上げたいところです。
 TRPG関連書籍でも、同じ題名で別の出版社から出ている本などもいくつかあります。ですから、本を特定するために、情報をできるだけ集めておくべきなのです。
 こういった情報の記されたメモ用紙を以て、書店に行ってみましょう。そこで、店員さんに「本を注文したい」もしくは「本を取り寄せてください」といえば、親切に説明してくれるはずです。

〈購入方法/Step2〉

 (有)ファー・イースト・アミューズメント・リサーチなどの書籍の一部は、街角の書店で扱われていません。それはなぜか? 書店の仕入れルートで扱われていないからです。
 どんな書籍がこのルートで扱われていないのでしょうか? これは簡単です。ISBNコードがついていない書籍がこれにあたります。
 この雑誌「TRPG120%」もISBNコードを持っていません。ですから、書店ではなく、こういった即売会、発行元からの直接通販などで手に入れることになるのです。

 さて、どうすればこういった資料を得られるのでしょうか?
 通信販売を利用するか、ゲームショップまで出向くかになります。

 通信販売は、大きく2つにわけられます。専門店による通信販売、もしくはインターネットで行われているネットオークションです。発行元に在庫があれば、通信販売のほうがお得になります。ですが、在庫がなければ、ネットオークションで、譲ってくれる人を捜すしかありません。
 通信販売は、信頼できる販売業者を使いましょう。狭い業界なので、うさんくさい業者はほとんどいません。うさんくさいことをしたら、すぐに狭い業界中に知れ渡ってしまいますからね。
 ネットオークションは、信頼できるサイトを利用しましょう。活発にアクセスのあるサイトなら無難でしょう。また、ネットオークションは遠隔地にお住まいの方が、普段手に入れにくいものを入手したいという行動に出る場所の一つらしいです。そういうわけか、ちょっと実際の価値よりも高値で取引されることがあるそうです。自分の財布と相談してご利用ください。

 ゲームショップは、都会にあります。ゲームショップの中には通信販売を行っているところもあります。都会に出ることができる人ならば、街角の書店で「げ〜むぎゃざ」などといった雑誌を見つけることができるでしょう。その雑誌に、ゲームショップの広告が載っています。
 また、コンベンションで他のプレイヤーさんに、ゲームショップの行き方を訊くのもオーソドックスです。

 ※ 一茶師匠、助さん、八さんに考えてもらいたい質問、相談、悩みがあればご連絡ください。蛇行道の道端窓が質問には便利かもしれません。
 ※ 本記事は、2001年12月頃に読まれることを想定してかかれました。

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[管理人:たまねぎ須永へ連絡]