新編 磯丸全集

二十二、いく千代もの巻 文政十三年 (即ち天保元年)

 

文政十三年といふとしの秋、江戸櫻田なる御館にめされて月のさやかなりければ

いく千世もふるき軒端の草の名のしのふにあまる長月のかけ
とよみて奉りけれはある君より
 ことの葉の露かゝらすはさやかなる月もしのふにかけはやとさし
またよみて奉る
もらせ猶あふくにたかき木の間よりかゝること葉の露の月かけ
九月十三夜空くもりければ
天つ風うき雲はらへひとゝせをまちし今宵の長月のそら
同し夜海邊の月を
さやけさはいそ山かけて浪のうへに光りみちくる長月のかけ
御庭の菊の花を見てよみて奉る
菊の花庭のまかきに千世のあきかけてや君かかさしにはさく
きのえ子の日を祝ひ給ふとて御館にめされければよみて奉

めされすはしらて過ましからころもきのえ子の日の神のまつりも

御杯をたまはりければ
くむからに我もよはひをかくやへん君か千年の菊のさかつき
くむ人のよはひもさそな長月のけふのまとゐの菊のさかつき
磯丸におほろまんちうをたまはりければぬしににかはりてよめる
仰ても猶あふくへし月影のおほろけならぬ君のめくみを
御かへし
くれ竹のよゝにあふかん月の名のおほろけならぬ君の御かけを
あたごしたなる御館にめされて、菊合てふ香をきゝ給ふとて、歌よめとおほせことかうぶりてよみて奉る
しら菊の名にしおへてやそらたきのけふりも花の香ににほふらん
我にも香をきゝてよとおほせことありければ
問はれてもきくことかたきそらたきのけふりもそれとわかぬ身なれは
殿よりうちひもをたまはりければよみて奉る
末長くよはひのへよとたまはりしこのうちひもに身をはまかせん
いそきてや庭のもみちをそむるかとおもへはかゝる雨もたのもし
とよみければある殿より
そめあへぬ庭のもみちもことの葉の露のなさけにいろやそふらん
愛宕下御館にて茶のゆの音を聞きてよみて奉る
にゆるゆの音にはなにか及はしな松ふく風も琴のしらへも
遠藤君の御館にめされて
あかすみんさ夜はふくとも武蔵野の限しられぬ長月のかけ
武蔵のゝ月にとはすは世にひろききみの御かけもしらて過まし
むさし野のひろきめくみの露うけてなひく千草のかきりしられす
ある夜御庭にてくつわむしのなくこゑを聞て
秋の夜の月毛のこまのくつわむしきみかめすとていさみてやなく
とよみ奉りければ
秋の夜の月毛のこまのくつはむしひく人なくはこゑもいさまし
御庭のふたん櫻の花をみてよみ奉る
千世ふへき君かためとてとことはにさくや御館の山さくら花
櫻さく御館は春の心ちしてよのあき風もかよはさりけり
その花を折て季文法昭の御許へおくり給ふみつかひにまかりて
たをりもて君におくれとある君の花のつかひに我はきにけり
とかきて奉りければ
 ことの葉の花のつかひときくからにかもかくはしく見ゆる人かな
御鞠をあそはすとて歌よめとおほせことこうふりて
あり/\となをも雲井にあけまりのくつの音さへたかくきこゆる
うちなひくいろにもしるし八つか穂のみつほの國の秋は豐あき
寄筵戀
もらさしと敷しのへともあやむしろあやなくたゝん名こそをしけれ
たかをの紅葉をうつしかきたる扇に
かくふかきいろ見てもしれ世の中に名さへたかをの山のもみち葉
井手のやまふき

いひ出ぬいろにもしろしたま川や名に流れたる井手の山ふき

加茂あふひ

おさまれる御よにあふひのもろかつらかけてそいのる加茂のみや人
八瀬のしのふ
この里に契りありてやいにしへをしのふてふ名のくさは生ひけん
嵐山の櫻
うつしみるあふきの風も花さそふあらしの山の春のおもかけ
朝顔
ぬるかうちもかよふ心はよるのつゆおきてこそみれあさかほの花
ふちはかま
いろふかく人まちかほにふちはかまきてみよとてや野にはさくらん
くす
わけゆけは露もこほれておのつからうらみかほなる秋のくす原
よりきてはたちうかりけりひきとむるものとはなしにいと萩の花
ある人の許よりしきしかみをたまはりければよみてまひらす
おりかさねめくまるゝかなすかむしろしきしかみ代のあとしのへとて
ある人歌はなにの集をみるかよからんといひければ

みな人の心をたねとするかなる富士のふもとの山のことの葉

しをりに歌かきてよとありければ
言の葉の花のはやしにしをりしてなをおくふかくわけもいらはや
手ならふ人につかはすとてある人歌よみてよとありければ
ふみ見つゝ空とふ鳥のあととめて行は雲井に名をもあけまし
ある君よリ五嶋へおくりたまふとて漁の歌よみてよとおほせことかうぶりてよみて奉る
うろくつをいのるいつゝの嶋さきにいたきよせてよわたつみの神
荻似人来
たのめつゝ人まつ宵におとつれて心まとはす荻のうは風
寄筵戀
あはれかく床のさむしろおのれのみ敷しのふとも人しるらめや
御祝のいひをたまはりけれはおこはめしといふ五もじを句のかしらにおきてよめる
もかけをゝろにとめてな紅葉かれすしのふき嶋のみち
かのこもちといふものをたまはりければ
つまかふるねにこそたてねかのこをは秋のものとて人のもちゆる
さつまいもをたまわりければ句のかしらにおきて
やかなるきまつほともつ風のとゝすゝしきりのしたかけ
山中立冬
山ふかみ道は木の葉にうつもれてあとこそ見えね冬はきにけり
残紅葉
をしまるゝ秋のあはれはいまも猶しのふの山にのこるもみち葉
十月十三日 季文法昭君御許にて けんだひ 松下時雨
やまちのみしくれても猶山まつはつれなきまゝのいろもかはらす
とふざ冬夕嵐
あらしふくみ山の庵のゆふくれは秋よりことにわひしかりけり
君のお供にめされて御下屋敷の松の問の紅葉を見てよみて奉る
たちましる松に契りて千世のあき君は見るらん園のもみち葉
君かきる錦とみえてたちならふまつるかひある園のもみち葉

 

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