新編 磯丸全集

六十七、磯の玉藻 〔六)呪 禁


猪よけ歌よみてよとありければ
心あらはうえてししてもみつきものつくる田はたをはみなあらしそ
兎猪除歌
うさぎでもうえてししてもみつきものつくる田畑をはみなあらしそ
馬あらふるとてうたこひければ
からかはんあらぶることをわすれくさ手なれの駒よこゝろしつまれ
馬の病の治る歌
ひつじさる鳥いぬいねもうしとおもひとらうたつみの馬をたすけよ
鼠除
いかてかくねすみおきすみ夜もすから人の住家のものあらすらん
水虫
人の身にかゝるはおろか名にしおふ水むしならは水にすまなん
油虫よけの歌
とぼし火のためにもならぬ油むし出るはむやく消もうせなん
あま火という虫よけの歌(八十歳)
あま火ならもゆとも消よむしならはのへの草葉の根へかへれかし
むかてよけ
いそけ行おのが住家は百足山ゆみ矢の家にいるは身しらず
へびよけ
へびならは蛇の道すくに池か山よるなさわるな人の住家に
かまほこよけ
おのか名のかまほこ持てかりとらんわくとも蟲の根のたゆるまて
のみ、蚊、しらみよけ
人をのみくろふはおろか身をしらみ人たる物の身にはやとらし
蟹よけ
人の住家にはよるな穴を出て穴にいるこそ蟹の道なれ
田畑虫祓
みつきもの作る田畑につくむしをはらひたまへよ国津神風
天火虫除
天火ならもゆるとも消蟲ならは野辺の千草の根に返らなん
蝿除
ふきはらへこと葉のかせよ夏むしのこかれし跡のはひものこらす
蚊をよける歌よみてよとありければ
花はとくちりにしあとにのこるかをふきはらはなん木々の下風
ありよけの歌
穴を出て穴にいるこそありのま々人の住家によるなさはるな
あんとに虫のいらぬ歌よみてよとありければ
夏のむしおのか思ひにもえなからなとともし火のかけによるらん
井戸に長虫のわくとて
いとはるゝ井土をはいてゝ人のため山川にすむ命長むし
井戸に虫のわき出るとて歌よみてよありければ
いたつらに出るはむやくねかはくは淡と消なん井戸の水むし
かけ井の水のますうた
ねがわくは出よ眞清水君かため思ひかけ井のひきあまるまて
田の井戸の水ます歌こひければ
人のため田かやすよりもたえまなく流れ出なん田井の眞清水
庭鳥の宵なきするとて、歌よみてとありければことふきて
行末も猶よきよふにとりなをしやとのさかえをつくるよひなき
柿のあまくなる歌
かきむすふ言葉の花に今年よりしぶけをとりてあまくなりなん
梅にみのならぬと歌よみてよとありければ
いたつらに咲けるはかり今年よりみのなることをならへ此花
ある人竹の病を、はらふうたこひければ
いたつらにかるるはむやくめもはるのみとりにかへれ竹のこのきみ
竹のかるゝとて歌よみてよとありければ
いたつらにかるゝはおろか千世かけてみとりにかへれ竹のこの君
屋敷をもとむるとて(八十二歳)
君かためあふきまつらんうけえたるこの地の神のあらんかきりは
屋敷をもとむるとて
君かためあふきまつらんしをませるこの地の神のあらん限りは
ある人住所さたまる歌こひければ
心からまよふはおろかいでゝみよいつくも同しわか里にすめ
養子できる歌
君がため千世を契りて栄え行子の日の小松うつし植なん

ねかわくば千年をかけてひくまつの子の日の小松うつし植なん

春たゝは千年をかけてこの宿に子の日の小松うつし植なん
とくえにしある歌よみてよとこひ給ふに
むさし野になひくふた葉のひめこ松とくひかれなん子の日すくさて
出生子そたつ歌
ねがわくは御館の小松今年より千年とがけて生ひ出よかし
御神に大漁を祈り奉りて
海士をふねあみもてむかふうろくづをたきよせたまへわたつみの神
御神に大漁を祈奉りて(八十歳)
ひくあみのめにあまるまてうろくづをだきよせたまへわたつみの神
大漁満足
うろくすをたきよせたまへ引網の目にも口にも入過るまで
うき波にたたよふよりは大あみにひかれてうかへ海のうろくつ

なむあみにひきあげられてうろくつのいまや六じのうちにうかはん
ある女よるおびえるとて歌こひけれは(七十九歳)
ひきしめてゆるすなよ夢おとろかすおのがこころのこまのたつなを
明石の神に祈り奉りて(八十四歳)
うすかすみかかる我目もほのほのとあかしの神にいのることの葉
ある乙女子か八重歯のぬける歌よみてとありければ
ねかはくはわか歯にさはる八重の歯を言葉の風よふきおとせかし
生目の神に祈奉て
ねかはくはかすむ我目も安らかに生目の神よ守りたまはれ

年をへてかすむ我目のはるゝまて生目の神をいのりてそまつ
井戸をほるとて歌よみてよとこひ給ふに
あまるまて出よ眞清水ほる井戸のあらんかきりはくむ人のため
旅え行たる人のはや返る歌
ふる里にはや立かへれ旅衣君まつ風のふかぬ日そなき
返し
音つれて耳にはきけといとはねば心にかゝる浪風もなし
家内安全(八十四歳)
むつましく君もろともに住吉のきしの姫まつ千世も榮えよ
家内の榮ゆる歌こひけれは
あらそはてたゝむつましく住の江の松に契りて千世も榮えよ
あきない繁盛
かけねなく賣買事を安くせは徳は升々はかりしられじ
あまを舟あすの渡りのやすかれとけふよりいのるわたつみの神
船中安全
綱手繩たゆむ間もなく渡津海の神の恵をおもへ舟人
船中安全(八十四歳)
いのるそよ清きなぎさによるまでは君が舟路のつゝがなかれと

祈るその清きなきさによるまては君か舟路はつつかなかれと
酢の濁のすめる歌こひ給ふによめる(八十四歳)
君かためにこるはおろか名にしおふすならすまなんならひある世に
田に汐のさすとて歌こひけれは
なこりなく浪路に返れ海ならぬ田にさすしほのみちはあらしな
新田のために井戸をほるとて
君かため出よ眞清水みつきもの造るあらたにひきあまるまて
おはりのてきる
うみつむき立ぬひはりの絲なみを心にかけてわすれすもかな
木のみちのたくみの家の榮ゆる歌よめるとありければ
すみ繩のすぐなるみちをわすれすはゆく末長く家もさかえん
ものかくことに手のふるふとて歌こいたり
ふてをもち硯のうみの神かけてもじとかく手のふるひやまなん
弓のあたる歌よめとおほせことこふふりて
梓ゆみまゆみ月ゆみたゆみなく祈はいまもとほらさらめや
ものおほえのよき歌よみてとありければ
何こともみしめの繩のたゆみなく心にかけてわすれすもかな
うときとてちゑのつく歌こひければ
うとき身もかしこき神にいのりなばちゑ枝の杉のかけやそはまし
ある人ものおほゆるよふに歌よみてよとありけれは
鳥の跡とめて覚えよふみみつゝ濱の眞砂の数おほくとも
乳出る歌
あまるまて出よ名にあふちくま川流をくみてそたつ子のため
女の月やくのよくめくる歌よみてよとありけれは
月なみの花のした水よとみなくその時々にゆきめくれかし
ある人とくつまむかへる歌よみてよと乞ひけれは
春たたはとくもひかなん姫小松子の日する野のをりをすくさて
おもふ人とえにしある歌こひけれは
ねかはくはなほ末かけてひたち帯むすふの神の恵みまたなん
ふうふ中あしくとて
つまのためみはゝあはすはいせもよしうらはおもてにうちまかせつゝ
世續の子のてきる歌こひ給ふに
をみなへしはくめるたねは名にしおふ男山にそ生ひいつるらん

祈れかし花の盛に種となる身をはむすふの神に祈らん
尾張の国内海の里にて、産の安き歌よみてよとありけれは
うふ神の恵みも満る汐さひをまちてそ安く出るあまの子
安産歌
子の日する小松か原にまくたねは千年をかけて生ひ出つるらん
安産をいのりて
三つのひもとけやすかれとうふ神にかけてそいのる親と子のため
おほせことこうむりて
君かためたゝひと筋にめくりよくまもり治めよちのみちの神
寄風祝
四方の海の浪も治まる時つ風ふくとて木々の枝もならさし
井水すむ歌
蔭やとる月に濁はなきものとなとすまざらん田井のまし水
井水出る歌
ねがわくは出よ眞清水このつゝのつゝがなかれとくむ人のため
大御神に雨を祈り奉りて
天つ神ふらせたまへよあめ露をまつの下草かれぬ計そ
ある時御神に雨を乞奉りて
たみ草のうるおふまてに天の川照る日の本えせきくたせかし
雨をこひ奉りて
ねかはくはふらせたまへよ雨つゆのかゝるめくみをまつの下草
雨ふらせます御神を祈奉てよめる
たみ草のうるほふまでにあめか下雨ふらせませ天くたる神
雨ふり出しけれよろこびのあまりに
みな人のいのるまことの室にみちてかかるめくみの雨やふるらん
天保三年正月八日の夜、我せこか大ひなるむかでの数々家にいりくる夢を見しとて歌よめとありけれははきてよめる
神たからつみや治めん我やとにはこふむかてのあしの数々
髪はえる歌
ねがわくは猶生茂れ名にしおふくろ髪山の色まさるまて
髪のこくなる歌よみてよとあリけれは
年ふとも猶生ひ茂れふかみとりくろ髪山の色まさるまて
天保十三年五月十七日、名古屋の里なる押切町京屋氏のもとにて、人々つとひて天気をいのりて歌よめとすすめけれは
五月雨の日数ふりそふうき雲をふきはらへかし天の神かせ
とよみて奉りけれはあくる十八日の日晴天にたりけれはありかたさのあまり
天津神いのる信を水にせてあめやめ給ふめくみをそおもふ
田畑汐風除
吹とても沖津汐風御次もの作る田畑にさわらすもかな
例ならさるいとて、歌よみてよとありけれは
みそきかはみなかみかけて君かためつみもさはりもはらひなかさん

神かけて清き河原にかき流せかゝるいつつのつみもさはりも
かへし
さはりあるいつつのつみもわすられて君か言葉の恵をそおもふ 己 義
こかねのよる歌
この宿にあまるまてさけ世の中にめつるたからのやまふきの花
あるひとこかねのあつまる歌よみてよとありけれは
此やとにあくまてさけよ世の中にめつるたからの山ふきの花


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