新編 磯丸全集

磯の玉藻 (七) 戀

 

偽戀
いたつらに夜半の手枕偽としらてむすひしことをしそおもふ
比丘尼戀といふ題をとりて
すみそめの袖につゝめと尼の身はあまりていろに出にけるかな
尼となりかしらすりてもまよひねる心はかりはすられさりけり
かしらより心をすらはくろ髪はありとも何かさはりあるへき
まよひぬる心もしらてくろ髪をおろすはおろかむやくなりけり
無他心戀
月花も目にはとまらて明暮にたちそふものは君かおもかけ
さ夜ころもつまはありても名のみにてひとりまるねのとこのさひしさ
むさしのゝ千草百草花のひもとけてや君をさこそまつらめ
わか戀は水にうつれる花のかけをられぬ浪に袖そぬれける
思ひ川淺せしら浪たかけれは袖のみぬれてえこそわたらね
不逢戀
あふことは遠山鳥のおのれのみわりなくものをおもふくるしさ
きゝしより名をなつかしみこひ衣うらのひめ島たつねきにけり
老戀
年へても浦若草のあら枕むすふの神を祈りてそまつ
わかるゝ戀といふことを
きえかへりものをこそおもへうき人におきてわかるゝ袖の朝露
たをやめにまみへて
わけのほり又もあふみのみかみ山やまもる神をいのりつゝ行
依忍難逢戀
しられしと思ひつくして忍ふ山深くいらすはあはましものを
祈戀
うちとけて寄くるまては下ひもの關もる神を祈てそまつ
へんする戀
契りてもうすきゑにしの戀衣染あへぬ間に色まさり行
思戀
かよへとも君はしらしなよるの鶴子を思ふほと思ふ心は
あはてたゆる戀といふ題をとリて
わか戀はかくとはかりもいは橋のよるのちきりのたくひなるらん
名の立戀といふ題をとりて
いかにせんなき名流れてたつた川かへらぬ浪にぬるゝたもとを
契戀
ときかはすわすれかたみのひたち帯むすふ契りのかたらすもかな
未見戀
吹わたる風のたよりにきゝしよりまたみぬ人もこひしかりけり
忍ふ戀
いかにせん人やとかめんもらさしとつゝむにあまる袖の涙を
道日増戀
日にそいてふかくこそなれ思ひ川あふせも浪のあわれとはみよ
夏戀
つれなさをうらみなからに夏衣君をまつむしねをのみそなく
なつくさもしけみかなかにもゆれともけむりたてねばしる人もなき
うらみれはおなしうき世の戀衣おもてはかりをすみそめにして
夏むしのねにこそたてねもゆれとも煙たてねばしる人ぞなし
ふみわけているより袖をしぼるかなならわぬ戀の道芝の露
我戀はみるめ計の契りにてあふことかたき沖の姫しま
あまをふねかゝる衣の思ひからなみによらすはまさましものを
戀歌
思ひきや絶えて久しきなかかわの流れのすゑに現はれんとは
思ひ川逢ふ瀬も波に打たへてなき名流るゝ身を如何にせん
いつしかとながらの橋のなか絶えて渡り逢ふ瀬も波のあはれさ
咋日まておもて計の戀衣けふより君をうらとたのまん
つまにたにいとはるるまで年をへて何をたのみにけふをくらさん
老の身の若女をつれてとひこしとふる里人にかたるなよ君
しきしまの道にみそめし若竹を老の枕にむすふ夜半かな
昨日まてよそなる池のあやめくさけふはわかやのつまに見るかな
つな子のものとへ(七十八歳)
名にしおふあまのをふねの綱とけてわかかたによるおりをこそまて
又かる子の君のもとへ
おもへともなひかぬ中はわけいりてかることかたき野への若くさ
久しくとはさりける人のもとへよみてまゐらす
とひくやとまつにつれなく年もはやなかはすくれはあきやたつらん
とはすとも心はかりはかよへかしそらふきわたる風にたくえて
明暮にそらなかめつゝふく風のたよりもかなとまたぬ日そなき
有子の君のみもとへよみてまゐらす
めくみあれは伊勢の神風かよひきてきみかたよりを聞そうれしき
ほと近くゆきてからまし伊勢海の清き渚に生ふる見るめを
いつしかとま遠になりしあまころもおりえて君をとはんとそおもふ
打とけて思ふかたにもよられぬはうき世のつなやほたしなるらん
ふかは又こちのかへしもありなんとしなとの風のめくみをそまつ
琴をひき給ふを聞てよみてまゐらす
きくたひにひくてもかなとへおもへともいとまたになきよ所のつまこと
かへし
 みたれたるこゝろはつかしつま琴の音にこそかよへよそのまつかせ   東子
あるたをやめのもとよリ、歌よみてよこせければ
それとのみいはねといろにあらはれて心ゆかしきことの葉の花
ゆへありてわかるゝとて女のもとへよみてつかはす
かりそめのくさのまくらのつゆはかりかけしなさけも今はうらめし
しら波のかけしたもとはぬきすててうらなくかへん海士のさころも
うらみしなあふもわかれもかりそめのくさのまくらのゆめとおもへは
すむ水のふかきなさけもくみしらてよそによりゆくなみのあはれさ
わか袖にかけしはきのふけふははやよそのみきはにさはくしらなみ
○(八十五歳)
をりをりは千鳥となりてかよはまし此濱しまの沖のいそ丸
かへし
 をりをりはかよへうらはのいそちとりふみのこしおくあとをしるへに ふく子上
三つ子の君のもとえ
みせはやな衣がうらにみつ汐のひるまも浪のかかるたもとを
きく子のもとへ
きくの花庭のまかきに千世かけて君みよとてやさきにほふらん
とよ子の君のもとへ
名にしおへはひくつまことの音よりもこひしきはたた君がおもかけ
よしこの君かもとえ
名にしおふ花にあらねとふりもよし心よしのと人はいふなり
つまのもとへ
此秋はさひしかるらんをみなへしあれたる野邊にひとりたてれは
ふみ子の君によみてまゐらす
たか殿のつまにひかれんあやめくさ浪々ならぬ池に生ふれは
 わかれてもしはしわするゝひまもなく君のことのみおもひくらしつ   千鳥子
 あはれかく身はきた島のうら千鳥君をこひつゝねをのみそなく      同
かへし
あたなりと人やとかめん友千鳥ねにはなくとも涙もらすな
天保十二丑年閏正月六日
 あはれかく身はきた島のうら千鳥君をこひつつねをのみそなく      千鳥
北嶋の里なる
 あけくれに君をまつほのうら千鳥浪のよるよるねをのみそなく    千烏子
かへし

友千鳥なみにまかせてきた島の君かみきわによるそ嬉しき

 我かたははなつやもなし君をのみあつさの弓のひくておほきに     千代
かへし
あつさ弓ひく手あまたになるとても心は君によりにしものを
ふみ月の頃萩原氏の御もとにとふらひ侍りて
きし日より色こそまされ萩原の露のなさけのかゝるたもとは
かへし
 たつね來し君かこと葉の色そひてひとしほまさる庭の萩原       千代
 ふみ置し跡をしるへにかヘリ來て千代もとちきる和歌の友つる      千代
かへし

名にしおはゝ千とせの春の末まてもちきりかさねよつるのけ衣

別に
 歸りこん程を待つ間も老が身のたのまれかたきけふの別路        邦子
 頼むそよなをいつまてもあふことのしらへの糸のたへぬ契りを      同
かへし
たのもしなその音によせてひくことの絲長かれとむすふ契りは
 なからへんことをそ思ふ君にまたあひかたらはんたのみばかりに     邦子
かへし
露ふかみ君かなさけのことの葉にかゝるうき身もをしまるゝかな
梅てふ女のもとヘ
さく花のいろ香になれしゆふへより梅てふ梅の名さへなつかし
初瀬子かもとへ
名にしおふはつせの山のさくらにもまさるは君が姿なりけり
わけきても猶おくふかくこもりくの初瀬の花はたをられもせす
こもりくのはつせの山のさくらはな君しゆるさはたをらんものを
わけいりて心は花にこもりくのはつせの山はたちもはなれす
 わかれてはあひみんことをこひころも君のことのみおもひくらしつ    千鳥
かへし
わかれても心はそはをはなれねと目にしみえねは君はしらしな
琴ひき給ふかたによみてまゐらす
音高くひくつま琴の絲なみを心にかけてわすれすも哉
春子の君のもとへ
つむ人も限りしられしふかみとりねよけにみゆるはるの若草
又花にそへてよみてつかはす
うつしうゑてわかそのにさく花なれは人のたをらんことをしそ思ふ
又花によそへてよみてつかはす
をみなへしおほかるのべをたづねても君よりほかにみる花はなし
寄甲戀
壹筋に戀のま弓のながれ矢はかぶとのはちもとおす物なり
寄虎戀
もろこしの虎ふすやふの奥までもかよふは戀の道にそありける
寄川戀
みなかみをたのむはかりそせをはやみわたりかねたるみほのそま川
うつはによする戀といふことを(八十歳)
うつはなる心のそこもくみしらて淺くや人の遠さかるらん
寄佛戀(八十五歳)
うつゝにも夢にもみえてあはれぬは心つれなき人のおもかけ
寄盃戀
さかつきの月のかつらのかけはかり手にもとられぬ戀もするかな
寄磯戀
あはれかく見るめもかひもなみ枕いく夜磯邊に數つもるらん
寄海戀
うきしつみよるかたなみに袖ぬれてあはれいつまてうみわたるらん
兼題 寄花戀
移りゆくつらさもしらす頼むかな人の心の花にこかれて
寄浦戀(八十四歳)
よりきてもあふことかたきこひ衣うらみてかへる袖のあたなみ
寄草戀
かく計なひかぬ中に思ひくさたかたねまきて生ひ茂るらん
面かけを草のはつかにみてしよりやけののききすねをのみそなく
寄冬戀
ふゆふかみ雪の下なる思ひ草もえ出るともかひなかるらん
寄水鳥戀
いかにせんうへは氷れる水鳥の下こがれてもあふよしも波
寄山戀
契りてもかひこそなけれ浦波のよることかたきすへの松山
寄里戀
深草や妻しこもれば鶉なくあれにし里の戀しかりけり
寄鏡戀
かくふかく思ひいれとも山鳥の尾ろのかかみのかけもうつらす
あやめによする戀といふことを
おもへともひくことかたきあやめ草根さしもふかき池に生ふれは
寄松戀
うらやましわれにつれなき姫小松たれか千年をかけてひくらん
寄草戀
ことの葉の道にみそめし若草を老の枕にむすふ世もかな
むすはねと心なくさむ若草のもえ出るのへになるゝこのころ
小夜ころもうら若草の新枕むすふの神をいのりてそまつ
ふみわけてかる人もかな年をへてあはれ老その森のした草
寄山戀
かくふかくおもいいりてもあふことはかたおか山に年をふるかな
寄橋戀
逢ふ事は思ひたへてもかゝるかなよな/\渡る夢の浮きはし
寄武士戀

ことはりやさすがにたけき式士もまよふは戀の道にそ有りける

寄栗戀
ながめてもちきるにかたきいがくりのゑみ落るまでまたんとそ思ふ
わけいりていつかむすはん草まくらあたの大野の名には立とも
寄枕戀
こひ衣うらわかくさの新まくらむすふの神をいのりてそまつ
寄川戀
思ひ川淺せの浪のたかけれは袖のみぬれてえこそわたらね
寄月戀
空みつゝ月にかこちてまつとしもしらてや君はつれなかるらん
寄井戀
契りてもくむほともなくやまの井のあさくや人の遠さかるらん
寄雪戀

しらせはやあはて月日のふる雪のきゆる計におもふ心を

寄水鳥戀
おしとりのつかひはなれぬ水鏡かけみるはかり手にもとられす
寄獅予戀
わけいらん獅子ふすほらのおくまても思ひかけたる戀の山みち
からころもよしやはたみはあわすともそひねはかりはゆるしてよ君
わけいりていつかたをらんかくとたにいはねかくれの八重のやまふき

あはて の 森にて

名にしおふあはての森にめくりきてあはて過にし昔をそ思ふ
あひ見んといのるまことは昔よりあはての森の神そしるらん
こかれつゝあはての森の下露にぬるゝたもとのかはくまそなき
明暮におもひ出てはなく計君にあはての森のこからす
山彦はあさきほとにはこたえせしなをおくふかく思ひいらすは
寄玉戀
波のうへに海士のをふねのこかれても手にはとられぬそこのしら玉
かつきいりていつか手にとるよしもかなみつゝこかるゝそこのしら玉
うつつにはあふことかたき面かけを夢にやみんとたのみつゝぬる
日にそへてなるゝ情のかさなれはいとゝたちうきたひのころも手

まつ人のつれなきものとふる里にうらみやすらんたひの衣手

まき子のもとへよみてまゐらす
 いかにせん眞木の葉山のゆふ時雨つれなき色にさわく心を     みか丸

かへし彼まき子にかわりて

猶そめよ心しあらはむら時雨まきのは山の色に出まて

 よしやさはおもふいろにはそますともまきの下葉よ露たにもおけ  みか丸

かへし
露計眞木の下葉はそめもせてあたし時雨やよ所にふるらん
 我袖の時雨ひまなくかけて見ん眞木の葉山の色に出やと      みか丸
いく千たひ袖の時雨はかゝるとも眞木のは山はいろもかはらす
彼男にかはりて
つれもなき眞木のは山をそめかねて袖に時雨のふらぬ日そなき
女にかはりて
 さためなき空の時雨に色かへはまきのは山の名をや下さん     みか山
かへし
袖にのみかかる計の村しくれ眞木のは山は色もかはらす
松竹鶴亀といふ事をかくして戀の歌よめとありければ
なかめても人まつ袖の秋風に月もくたけておつるしらつゆ
松かえといふたをやめに
千世かけてたれと枕をかはしまやいろさへ深ききしの松かえ

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