<  旧中仙道を走る - その2  諏訪大社・上社前宮から奈良井の宿 >

2006/8

 ー  下諏訪から奈良井の宿へ 80km  ー

 


             神長官守矢資料館 

今回の目的のひとつがこの神長官守矢資料館だったが、残念なことに月曜で休館だった。

 

 幸いにも夜来の雨は上がっていた。雲は厚いが低くはない。市内では通勤ラッシュが始まる時刻。昨日の疲れを感じながら、諏訪大社上社前宮へ向かう。

 


 

< 上社前宮 >

 


                                     上社前宮本殿の御柱

 

 御柱で有名な諏訪大社だが、諏訪大社は不思議なお宮である。上社前宮、上社本宮、下社春宮、下社秋宮の4社で成り、下社では神様が春宮、秋宮を行き来する。又、上社前宮には「穴巣始」とか「蛙狩神事」「御頭祭」などの不思議な神事がある。

 


                                   上社前宮配置図(案内図より)

 

 諏訪大社は鹿島神宮とともに出雲系だといわれ、前宮では大祝と神長官という二重権力のような構造になっている。

 「穴巣始の神事」や「蛙狩神事」、本殿脇の水眼(すいが)と呼ばれる流水など、ここでは蛇が重要なテーマとなっている。

 稲作の民にとって蛇や龍は水の神であった。志賀島で見つかった金印のつまみのモチーフは蛇である。同じ蛇のつまみをした金印が雲南省でも見つかっている。雲南、長江流域から日本列島への照葉樹林帯は発酵食品や高床式住居、鳥居や注連縄など、文化的類似性が指摘され稲作文化圏である。

 弥生時代の住居跡では、蓋付きの容器に入れられた稲が土間の隅に埋められたまま見つかるケースがある。種籾は春に新しい生命を与えられるまで、土の中で眠りにつくと考えられたのであろう。「穴巣始」の神事などとの類似性が想像できる。また、上社前宮には本来、本殿がなかったという。

 明治期、各地の神社が国家神道に格付け、統合された結果、失われてしまったものの大きさを惜しむ。おそらく諏訪に限らず、神のあり方は多彩であったろう。

 


 

< 諏訪湖 釜口水門付近 >

 


                                     諏訪湖 釜口水門付近

 

 諏訪湖の水は釜口水門から天竜川へ下る。

 釜口付近は諏訪地方の文化の玄関口だったところである。天竜川水系は縄文時代には参河や遠江と結ぶ黒曜石の道であった。紀元前100年から紀元100年頃には、稲作が天竜川の左岸の泥床を伝って、この地にもたらされた。さらに6c頃には右岸の段丘崖を伝って馬を伴った人々がいずれもこの付近に第一歩をしるし、ここからさらに上田盆地方面に移動して行った。

 


 

< 洗馬 >

 

 諏訪湖で曇っていた天気が塩尻峠では快晴、気温23度。8月とは思えないさわやかさである。塩尻への長い下りは快適だった。洗馬は中仙道と北国西往還、通称善光寺道の分かれ道である。道標の筆文字に少し洒落っ気がみえる。

 

 


 

< 奈良井宿 >

 

 木曽谷に入ると雲行きが怪しくなってきて、贄川の手前で本降りになってしまった。ずぶ濡れになって贄川駅で雨宿り。山ひだで雲が湧くさまを眺める。雲。雨雲の過ぎるのを待つ。

 奈良井の宿は月曜日なのに観光客で込んでいた。「生活感があっていい。」と家族連れが道の真ん中をのんびり歩いている。雨が降りだすと軒先に避難して、止むと通りへ出てくる。水場では勢い良く水がわき出して、いかにも山国の宿場らしい。

 


                         雨の奈良井宿

 


 

< 奈良井宿 中村屋 >

 

 奈良井の宿は上町、中町、下町の三つの区域に分かれ、上と下には職人が多く住み、中町に旅籠が集まっていたという。

 ここ中村屋は中村利兵衛の家。塗り櫛の創始者とされる中村恵吉の分家である。天保8年(1837〕の大火の直後に建てられたものとみられる。建物は間口3間2尺(6.06m)、奥行き9間半(17.2m)と細長く、建物の奥には廊下でつながった便所がある。また庭を挟んで蔵が建つ。

 ミセノマの街道側は2間半を3つ割りとして、格子を外すと店となり、商品が街道から直接見られるようになっている。

 

 


 カッテ あがりはな

 

 左端はカマド。囲炉裏を背にして煮炊きするようになっている。カマドの脇に大きな水甕が置かれている。ミセノマの上とナカノマ、ザシキの上には2階があるが、カッテの上は煙り抜きのため吹抜けになっている。

 


ミセノマの2階、連子窓から下の街道を見る

 

 当初の予定ではこのまま木曽谷を妻篭、馬篭あたりまで行くつもりだったが、天気の回復は望めない。昨日の疲れも残っている。自転車など配慮なく追い越して行く長距離トラックの水しぶきもかなわない。今日は切り上げと決め、奈良井の駅に向かう。

 駅の事務室はたった一人、しかも定年後10何年も経ったかのような年配の駅員さん。その方がテキパキ教えてくれる。「次の列車は1時間後です。」それも木曽福島まで。「そこで2時間待って中津川行きです。」やはり木曽は山の中である。

 

3日目・名古屋から豊橋へに続く     back