新編 磯丸全集

二六さく花の巻 天保四年

  

旅へたつとてよめる
さく花の錦かさねてかへりこんけふたつ袖はよしうすくとも

大崎なる殿の御館にめされて數々題をたまはる中に天をといふこと
あうきてもあふくにあまる大そらのひろきめくみはかきりしられす
いまも猶かゝるたふとき月と日のわたりたえせぬ天のうきはし

御子たちの榮えましますやうに、歌よめとおほせことかうふりて
かけたかく生ふる御館のこまつはらいやつき/\に千世もさかえん

紀伊国三名郡といふ所の海の産なりとて、櫻のりといふものをたまはりけれは
をりをえてみるもめつらし紀のうみの波々ならぬ花さくらのり

ある女のぬいはりのよく出きるやうに、歌よみてとありければ
から衣たちぬふはりのいとなみをこゝろにかけてわすれすもかな

女のかしよくよく出きる歌、よみてよと乞ひけれは
うみつむきしつのをたまきいとまなく心にかけて手ぶりおほへよ

不及戀
下もえはけふりの末もおよはねはあまつそらなる人はしらしな

ひるねといふことをよめと、おほせことかうふりて
しらつゆのひるまたになきうたゝねの夢とおもへは安き世の中

鯉の瀧にのほれる絵に祝の歌よめとおほせことかうふりて
おち瀧つはや瀬にすゝむ魚のこと君かいさほもたちやのほらん

寄玉述懐といふ題をたまはりけれは
あめつちにうけしみたまはありなからしらてみかゝぬことやくやしき

おかけまひりといふことを、よめとおほせことありけれは
みなかみのなかれとめきて宮川になみたつ人のかきりしられす

寄弓祝
武士のみちをまもりの梓弓をさまる御世のためしにやひく

孝子
雪わけてほりしむかしの竹のこの君がいさほにならへもろ人

忠臣
御代安くたみをおさむる武士のつかふるみちに身をなをしみそ

わらび
春ふかみもえ出るかな若草をつむ手に似たる野へのさわらひ

寄笠懸
きてかよふかひこそなけれあふことはゆるさぬ中のみのかくれかさ

ある人茄子の夢みしと聞て
よきことをなすとて人のみし夢をうつゝにきくもたのしかりけり

年へぬる人、つまむかえんとて、歌よみてよとありけれは
年へてもまたうら若きひめこまつ君はひくらんねの日するとて

とことはにかたぐ時なく身をたつるまことはま木のはしらなりけり

暮春といふ題をたまはりけれは
山川や花さへちりてなかれゆく春をとゝむるしからみもかな

八幡宮の神主のみもとにて、松上藤という題をたまわりて
山川やふかく契りて千年ともいはねのまつにかゝるふちなみ

初戀といふ題を出されけれは
いかにせんふみもならはぬみち芝のつゆわけそめてぬるゝたもとを

かくとたにいはて思ひにもゆる身はよるのほたるのたくひなるらん

しら波のたちさはくかなうらのとによをもるいぬのなきあかすこゑ

つくせたゝまことなけれは身はたゝぬまことは真木の柱なりけり

西行
富士のねの煙はたえてたゝねともそのことの葉にのこる面影

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