新編 磯丸全集

六十五、我も又の巻

 

みちのくの人とふらひ給ふによみてまゐらす
我も又いつかわけみんみちのくのしのふの山はよし遠くとも
 
遠くともそのみちのくの神かけていのる心はちかのしほかま
うす霞といふ春の比、香をきゝ給ふ
たきそへてかゝるけふりもうす霞花まつ宿ににほふのとけさ
磯丸ぬしのとふらひ給ふに
 さ月まつ山ほとときす我やとに猶いくたひもおちかへリなけ 湛惠
かへし
君しまたは卯の花ころもたちかへりかさねてとはん山ほとゝきす
 
あやめくさねをしのふみはほとゝきす涙計をもらしてそゆく
向川原といふ所の川の月をよみて
よる毎にむかふ川原の浪にうかふ月のみふねのかけのさやけさ
七十賀松によせてよめる

栄えゆく松に契りてななそちのけふより千世を君そかそへん

旅泊 
難波かた芦のまろやにたひねしてけさこそみつれうらのけしきを

嶋千鳥

ゆふされはうら風さむみよる波の淡路のしまに千鳥なくなり
風さむみ波のよる/\たち花の小島のさきに千鳥なくなり
寄松戀
契りてもつれなきものを姫こまついつひくま野の子の日なるらん
網代
いと浪のかゝるわさとていとはれぬ世をうち川にあしろもるらん
磯丸ぬしの故郷にかヘリ給ふわかれををしみて
 わかれ行君かをふねの網手縄ひきとめかたき名残をそおもふ 當久
かへし
海士を船君にひかれて網手なはかゝるみなとを出そかねつる
牡丹
明くれの露のいろさへふかみくさにほひえならぬ花にそありける
海邊歸鴈
程遠くかすむ波路をかへろかな名残をしまのあまつかりかね
櫻田の春をみすてゝわたつみの花もなみ路をかへるかりかね
松聲入琴

ふきたてて軒の松風いとまなくたかつま琴のねにかよふらん

いと長く千年をかけてひくことのねにこそかよへ軒のまつかせ

岡鹿
つれもなきつまやしのふの岡の邊にひとりを鹿のなきあかすらん
吉野たる櫻木の御社にまうてて
さくころは神も心やなくさまんよし野のおくのさくら木のみや
ある人ふみによする祝ひといふことを、よめとありければ
とめゆかん猶末遠くしるへせよふみ見る道のあらん限は
寄竹祝
うちなひくみとりの竹のよをこめて嬉しきふしを君そかそへん
遠江の國あらゐの里に旅ねするよおりしもよ所よりこかねをもてきたりければたはふリ歌よめる
心あらは袖にもとまれたひねする宿にちりくる山ふきの花
熱田の御神の歩射御祭を拝奉りて
世々かけていのる心にひく弓の矢もむつましきけふの神わさ
松間月
山かせに雲ふきはれて峯に生ふるまつにかひある月を見るかな
木の葉のちるをみて
ふきおろす峯のあらしは手もなくていかにこの葉をこきちらすらん
冬嶺秀孤松
ちりはてゝこのめは春を松計のこるもさひし冬の山の端
東山嶺孤月
さやけさは世にたくひなき富士のねの雪にかたふく夜半の月かけ
海邊に待月といふことを
うな原や波にはなるゝ月かけを見ほの松原まつそたのしき
五十鈴川にて
汲からに心も涼し神風やいすゝの川の清きかなれを
宮川にて
名にしへおふ豐宮川にみそきしてこころ涼しき神風そふく
六月祓
もろ人のけふのみそきにうきこともみなふきはらふ風のすゝしさ
母の例ならざる時氏神大明神へまひりするとて
わか心神やうくらん梓弓いかきのうちへいらぬ日そなき
守神のみたらし川のちかけれは清き流をくまぬ日そなき
山のうへの船といふ題をとリて
こゑを帆にあけてこしちの山の端をこきくるふねはかりにそありける

 

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