ビートルズのこと

 受験勉強は我ながら一生懸命やったと思う。家計の事情から何としてでも国立大学
に入らなければならなかった。下宿生活をしていたので、金はなかったが、時間はた
っぷりりあったのが幸いした。東京のTK大学に入ることができた。
 1年間アパート生活をしたが、生活費に困窮し、2年の時学生寮に移ることにした。
この寮は都内の様々な大学の学生が寄せ集まったところで、場所は田安門から入った
皇居内にあった。武道館のすぐ近くである。

 この年ビートルズが日本公演に来た。公演場所は武道館である。混乱を避ける警備
上の関係から,武道館のある皇居内は厳重に封鎖され、入場券を持つ人しか中に入れな
かった。田安門を通らなければならない我々には特別な通行手形が渡された。

 私もビートルズには大いに興味があった。そして、公演当日パッとひらめいた。
誰しもビートルズの公演を聞きたい、見たいはずである。それは、入り口で切符切り
をしている受付の人間も同じだ。公演が始まったら、入り口には誰もいなくなるので
ないかとと考えた。そこで、開始時間をみはからって行ってみた。案の上、入り口に
誰もいない。関係者の姿すら見えない。左右を見渡し、急いで中に飛び込んだ。

 公演会場に入って驚いた。信じられない光景が繰り広げられていた。男も女も立ち
上がって泣き叫び、ビートルズの歌など何も聞こえない。床に顔を突っ伏して泣いて
いる女もいる。私はビートルズよりもその阿鼻叫喚の状況をひたすら見続けた。

 翌日、1人で見るのはもったいないと考え、高校時代の友人T(日大に入っていた)
を呼び、友達だからといって手形で田安門を通り、前日と同じように館内に侵入するこ
とができた。彼は大いに満足して帰った。こうして、私は2回にわたり、1銭の金を払
うことなくビートルズの公演を楽しんだのである。

 ところで、私の入ったこの学生寮、学生運動活動家の巣窟であった。各派入り乱れて
おり、皆戦闘的な連中ばかりであった。我が大学の主要メンバーは寮自治会執行部とは
対立関係に位置し、ある事件をきっかけに抗争激化し、身の危険を感じるまでになって
翌年我が大学の学生大部分はここから脱出した。
 この学生寮しばらくして取り壊されしまった。

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