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彼女の千年王国          1章:きみに、会った。


「どこなんだここわーーーっ!!」
叫んでいるのはキサラだ。
こいつは気が短い。手と足がすぐ出る。・・・でも、そんな性格は置いておいたって、これはちょっと叫びたくなる状況かもしれない。
「まいったな、これは・・・。」
ため息混じりにつぶやいたのは、チーフパイロットの紅(コウ)。
冷静沈着、無口、うーん、ちょっと変わり者かも。ニッポン系の黒髪の男。
「最後に進路確認したヤツは?」
イライラした声でキサラが言う。
「・・・ぼくだよぉ。」
このナサケナイのがぼく。サブパイロットのシトレ。

ぼくたち3人の仕事は、宇宙船を駆って、異星の有機化合物を持ち帰ること。
今の地球は環境を荒しまくった代償として、天然資源がほとんど採れない。
だから、他の星から化合物を持ちこんで、それを燃料として再生している。
ぼく達はお金持ちじゃないから、旧式のボロ宇宙船に乗ってるけど、小回りのきく、かわいいやつだ。愛称は「アシュラ」と言う。(紅がつけたんだ。なんか、神様の名前なんだって。)
今回もいつものように、積み込んだ化合物と一緒に地球へ帰るところだった。
ちょっと長めの航路になるから、操縦をオートにして、コールドスリープ状態ですやすやと心地良く眠っていたぼくらが目覚めたとき、・・・そこは地球じゃなかったんだ。

周りは一面の砂、砂、砂・・・。
砂漠だ。
風が吹いている。
酸素がある。
太陽光はちょっと弱いみたいだ。あんまり暑くない。
「で、でも、ぼくが進路を確認したときは、ちゃんと地球にロックされてたよ。間違いないよ。」
ぼくはキサラに切り返した。紅がキサラに言った。
「・・・整備不良じゃねーの?」
カチンときたキサラが紅を睨み付けた。
キサラは船体整備師だ。ホントは「士」だけど、本人が「師」だって言うんだ。
紅はキサラの視線をふいっとよけると、
「ここでモメててもしょーがない。中でもう一回アシュラに話し聞こうぜ。」
と言って、船内に戻った。
キサラはぼくを見ると、悔しそうに「オレはミスってねーぞ。」と言って船内へ入った。
ぼくは「わかってるよ。」と言って、後を追いかけた。
「いんやー、あきまへんて。ほんまにわてもワケわからんのですわ。」
中では、紅がアシュラとの対話を始めていた。
ぼくらの宇宙船のAIは人語を理解し、話す。だけど、ちょっとおバカなんで、言葉がヘンだ。
「わてはほんまにきちーーっと地球に向かって飛んでたんでっせ。それが、途中でなんかにきゅーーっと引き寄せられて、あれよあれよと言う間にここへ・・・。」
船の2つある操縦席のちょうど真中に、小さなロボットのようなアシュラの本体がある。そのセンサーの目がぼくら3人を順に見まわし、最後に、申し訳なさそうにうつむいた。
「お前を責めてるんじゃないよ、アシュラ。でも、今、一番知りたいのは、ここがどこで、どうやったら脱出できるかってことなんだ。」
紅は機械に対してはものすごく優しい。たぶん、人間が苦手なんだろう。だから、最も生身の人間らしく感情をぶつけてくるキサラとよく衝突する。
「すんませんなぁ、紅サン。ここはまったく未知の星ですわ。宇宙地図に載ってナイ。それから、空になんやら磁気のカタマリのような雲がありましてなぁ、カンタンには飛びたてそうにありまへんのや。よく、あの雲の合間をぬって着陸できたと、自分で自分を誉めてやりたい気分ですわ。」
「誉めるって、勝手に着陸したのはオメーだろうがよっ!アシュラ!!」
キサラが怒鳴りつけると、一瞬の間の後、アシュラが言った。
「・・・アンタの整備が悪いのとちゃいます?へっへーんだ。不良整備士!」
さすが、整備士が整備師なだけに、機械も不良だ。
「言葉遊びしてる場合じゃないよ。なんか対策を考えないと・・・。」
スパナを振りまわしながら「ブチ壊したる!!」と息巻いてるキサラをなだめながらぼくが言ったとき、紅が前面のモニターにくぎ付けになって言った。
「なんか、いるぞ・・・。」
「えっ?!」
風にあおられる砂煙のなかに、何か影が見える。
「ヒ、ヒトだ・・・。」
その影は確かに人影に見えた。

「これは会って、話してみないといけないだろう。」
キサラは興味津々って感じだ。
「待ってよ。足が8本あったり、急に襲って来たりしたらどうすんのさ。」
「いいや、行動あるのみ!何もしないと、何も始まらないからな!」
”思い立ったら吉日”なキサラはダッシュして外へ出ると、その人影に向かって手を振った。
ぼくも船を降りて、キサラの影に隠れるようにしていると(ちょっと怖かったんだ)、その人影は小走りにこちらへ寄ってきた。
全身をサリーのような黒い布で覆っている。砂漠だからだろうか。
目が2つ見える。
いきなりサリーをバサーっとやって襲いかかってきたりしないだろうなぁ。
ビクビクしているぼくとは正反対に、キサラはそのヒトに一気に話しかけた。
「あのですね、ボクたち、ナゼかここに着陸してしまったんですけど、ここは一体どこなんでしょうか?それに、どうやったら宇宙へ帰れますか?」
2つの瞳がじっとこっちを見ている・・・と、
「あ・・・あーあー、えーと、この言葉で合ってるかしら?」
と言葉を発した。
うわ!女の人の声だ!!
「すごいわ!あなたたち、宇宙から来たの!?こんなこと始めてよ!」
その人はぼく達に興味を示しているようだ。瞳がキラキラしている。
どうやら安全らしいことを確かめて、紅がようやくアシュラから降りてきて言った。
「この星は俺達の宇宙図に載ってないんだ。強力な電磁波の雲壁のおかげで無線も使えないし・・・。一体、ここは?」
冷静な紅に反し、その人が興奮気味に目の前にいるキサラの手を握り締めて、
「ステキだわ!!是非お話しを伺いたいわ!!外から異星の人がやってくるなんて!うちのアンテナにかかった波動は、あなた達だったのね!ゆっくりお話ししたいわ。私の家へいらっしゃらない!?・・・あ、申し遅れまして、私、フリージアと申します。」
と言うと、間髪入れずに、
「キサラです。いやー、女性のお誘いは断らないことにしてるんですけど、他の2人がねぇ・・・。」
とキサラが、ぼくと紅に何か訴えるような眼差しを向けながら言った。
「ぼく、シトレです。ぼくも、構わないけど・・・。」(ほんとはちょっと怖いけど)
「紅。身の安全は保障されんだろーな。」
「あら、私がこんな格好してるのが悪いのかしら、ごめんなさいね。人相怪しいわね。陽射しが強いものだから・・・。」
いぶかしげな視線を送る紅を見て、その人・・・フリージアは、着ていたサリーを脱いだ。
一瞬、ぼくの動きは止まってしまった。
腰ほどまである、長い黒髪、整えられた目、鼻先、唇、そして、すばらしいプロポーション。
これほどまでに美しい女の人を、ぼくは見たことがない。
「あなた達と同じでしょう?」
「え、ええ、確かに・・・。」
珍しくキサラがドギマギしていた。
「すっげぇ、いい女。」
紅が軽く口笛を吹いた。
「あら、ありがとう。あなた達の星の人はみんなそう言うんでしょう。」
フリージアは軽く笑うと、砂漠の一方向を指差して、
「あっちに、車停めてあるの。充電が切れちゃって。でも、興味が先走っちゃって、ここまで歩いて来ちゃったのよ。多少は充電できただろうからこっちへ呼ぶわ。」
と言って、リモコンのようなものを取り出した。
「アシュラで後ろおっかけてってもいいんじゃないの?」
とぼくが言うと、
「いや、無事とは言えアシュラも船体にダメージを負ってる。あまり動かしたくない。」
「それに、うちの前に停めておくと駐車違反で罰金取られちゃうかもしれないわ。」
と、紅とフリージアが答えた。
「駐車違反に罰金!?なんだかおれ達のとこと変わんないな。」
「あなた達の星とシステムが似てるの?いいわぁ。そう言う話、たくさん聞きたいわ。」
そんな話しをしているうちにフリージアの車がついた。
見た目が同じと言うのは不思議な気持ちだ。
警戒心が薄れる。
もし、フリージアに足が8本あったら、ぼくらはこんなに簡単に彼女の車に乗らないだろう。・・・いや、ぼくは乗っちゃうかもしれない。とにかく綺麗だった。ずーっと見とれていた。紅がぼくをつついて、「世の中で一番怖いのは女だからな、気をつけろよ。」と、からかったのが、ほとんど耳に入っていないくらいだった。
やがて、砂漠の果てに、広大な緑の土地が見えてきた。
そのもっと向こうに、天にも届きそうなビル、いや、塔と言うのかもしれない、が見えた。
「この砂漠はねー、エネルギーを得る為に人工的に作られたものなの。地熱、風力、太陽光。そういうものを利用して、私達の都市は成り立ってるのよ。」
やがて大きな風車の群れを抜けて、都市に入った。
都市はたくさんの緑に覆われ、その合間から、大きなビルや家などがボコボコと建っていて、いたるところに泉や細い川があり、空気がとても澄んでいる。
人はみんなぼくたちとまったく変わらない姿だ。
ぼくらの地球はあまり緑がなくなってしまって、そう思えば、ここは今の地球が夢見ているような世界だろう。
「あそこの白いのが私のうちー。」
住宅街から少し外れた森の中に、アンテナのたくさんついた白い建物が見えた。

「あのたくさんのアンテナは?」
紅がたずねると、フリージアが風になびく髪を押さえながら言った。
「私ねー、こう見えても宇宙探査員なのね。で、あれはいろいろデータをとるためにくっつけてるんだけど・・・。さっき、あの砂漠に、何かが降りてきたような波動を捕らえたのよ。それで、行って見たらあなたたちがいたわけ。・・・さ、着いたわ。」
白い、4?5階建ての、なんだか昔粘土で作ったことのあるようなメルヘンチックな建物だった。
「あら、誰か来てるわ。」
玄関を開けたフリージアがそう言って、ぼくたちに分からない言葉で家の奥に向かって話すと、フリージアよりちょっと年下くらいの女の子が出てきた。
「うっわー、かわええ。」
キサラが言うとおり、小柄で、肩のあたりで内巻きにされた金髪に大きな瞳のとてもかわいい子だった。
その子は、ぼくたちをみてびっくりしたようだったけど、フリージアと何か話しをして説明を受けると、
「はじめまして。カトレアと言います。」
と自己紹介をした。
「汚いとこだけど、中へどうぞどうぞ。今、お茶を入れるから。」
「まったく、誰の家だと思ってるのかしら。」
フリージアがあきれたように笑った。

フリージアの家の中は、ぼくらの地球の家とまったく変わりがなかった。
入れてくれたお茶も同じ。
「それでそれで?あなた達ってどんな所からどうやって来たの?」
カトレアがぼく達にお茶菓子を勧めながら言った。
「えーーっと、ぼくらの星は“地球”と言うところなんですけど、人間は、外見はあなた達と同じで、この家を見る限り、生活様式も同じようです。」
ぼくは続けて、銀河系の話、地球の歴史の話、そこに住む人々の歴史、現在の地球の話などをすると、フリージアとカトレアはじっと耳を傾けて聞いてくれた。
「ここへはどうして?」
カトレアがたずねると、今度は紅が答えた。
「機は確実に地球に向かって飛んでた。しかも、記録を見ると、かなり地球に近いところまで来てたはずだ。それが、何かに強力に引きつけられたらしいから、次元のゆがみとか、そういうものが発生してたとしか考えられないんだが・・・。」
ここでぼくは始めて事態が深刻なとこに気が付いた。
それって、どっかにすっとばされちゃったってこと?ひょっとして、一方通行で帰れないんじゃないの?もしかしたら、ここは、そういう帰れなくなった地球人が住み着いた星なんじゃないの?だから、姿が同じで、言葉が通じて、生活が一緒なんじゃないの?
げー!ぼく、帰れないんだ!!
ぼくが1人青ざめていると、紅が
「君達は、おれ達の言葉をすぐ理解したけど、それは、どうして?言葉が通じるのがすごく不思議なんだけど。」
と聞いたので、ぼくとキサラが、うん、うん。と首を縦に振った。
「そうね?、不思議ねぇ。もしかしたら祖先が同じなのかもしれないわね。私達は管理局から多種の言葉を学習するようにされてるから、そのうちのひとつがあなたたちの言葉と同じだっただけなんだけど。」
フリージアの答えに、キサラが言った。
「管理局?なんだそりゃ。オレ達で言うところの学校みたいなもんか?」
カトレアがきょとんとして言った。
「管理局はこの星の全ての管理をするところよ。人間は造られてから死亡するまで全てにおいてお世話になって行くわ。」
「ちょっと待て。“造られる”ってなんだ。」
「え?管理局で人間が造られることじゃないの。」
「・・・それは、この星じゃあ、女は子供産まないってことか?」
「・・・ナニそれ。なんで女が子供造るのよ。」
カトレアとキサラが見合ったまま動かなくなってしまった。二人ともボーゼンとしている。
「女っつーのは、家庭に入って、子供育てて、ダンナの帰り待ってるもんじゃねーのか。」
キサラの考えかたは意外と古風だ。
「女と男は見た目は違うけど、それぞれに合った職業があるし、権限も同じだわ。“待ってるもんだ”なんて、そんなに差別的なの?あなたの星は。」
「差別?そーじゃねーだろ。」
「だってそうじゃない。ヘンよ。そんなの。」
「ヘン!?悪いけど、オレらからしたら、ここの方がよっぽどおかしいぜ。なんだよ、同じのなんて、見た目だけじゃん。」
「なんか、私達が悪いみたいに言わないでくれる?」
「悪いなんて言ってないだろう?“変わってる”って言ってんだよ。」
なんか、険悪な雰囲気。ヤバイな。キサラって初対面でもケンカできちゃうヤツなんだよなぁ。
割って入ったのはフリージアだった。
「うーん、確かにこの星では女は子供産まないのよ。でも、人間以外の動物や植物はオスとメスで繁殖して行くけど・・・。でも、それだと、良い種子が残って行くとは限らないでしょう?管理局は優秀な遺伝子と遺伝子をかけ合わせて、子供を造っているの。その子供を申請によって夫婦が受け取って、育てて行くのよ。そのあとは、管理局から教育プログラムが送られてくるから、それを学習して行くの。プロセスはだいたい17年くらいで終了して、その後は自分の好きな道に進んで生きていくのよ。カトレアは私の妹だけど、あなた達で言うところの血のつながりがなくても、かけがいのない大切な家族よ。」
は〜〜〜。そういう世界ってあるんだ。ぼくら地球人にはちょっと考え難いなぁ。
管理局の中でどうやって成長させてんだろ。
・・・大きい試験管に、赤ちゃんが入ってるのを想像して、ぼくはちょっと怖くなった。
「オレ、こんなとこ、ヤダ。帰ろうよ〜〜。」
キサラが弱音を吐くと、カトレアが挑戦的に言い返した。
「“こんなとこ”で悪かったわね!!だいたいどうやって帰るつもりよ。私達ずーーっと“出口”を探してるけど、見つかりゃしないんだから!あなた達、入って来れたんならそっから出ればいいじゃない。出口と入り口は同じもんじゃないの!?」
「おっまえ、かわいくないな〜〜〜。おい、シトレ、紅、青い地球の代表者として、なんか言い返してやれよ!」
「青い地球って言ったって、今じゃ環境汚染でそんなに青くないじゃん。」
「そう。それに、ここは異星なんだから、違うところがあるのは当然だろう。」
ぼくと紅にあっさり切り返されて、キサラはむくれてしまった。
フリージアはとても落ち着いていて、ぼくらにおかわりのお茶を注ぐと言った。
「あなた達は、帰りたい。私達は出口を探して宇宙へ出てみたい。結局やりたいことは同じなんだから、協力するべきだわ。で、提案なんだけど、あなた達の宇宙船のデータをちょっと見させてほしいの。私も研究室にこれまでのデータがあるから、それと掛け合せて見たいのよ。」
「なーるほど。」
ぼくと紅は同意して頷いた。

ぼくらはお茶のあと、フリージアの研究室を見せてもらった。
彼女の家は、部屋ひとつずつはそう広くはないんだけど4階建てで、その最上階にそれはあった。中には数々のパソコンと、レーダーと、天体観測用のドームがあった。
研究室と言うよりは、天文台と言った方が分かりやすいかもしれない。
彼女は大きなディスプレイの前でキーボードを叩いて、ぼくらに言った。
「これが私達の星ね。さっき聞いた地球の話からすると、とても小さいんだわ。周りには、同じように月と太陽があるの。・・・で、星の周りにこう、薄い雲がかかってて、これが強力な磁力と雷を帯びてるのね。だから、宇宙船でここを通過すると必ず機体が損傷してしまうのよ。でも太陽光を遮ることはないし、通常の生活上ではなんの問題もない雲なの。ただ私達を星の中に閉じこめるためにあるような雲ね。」
「どうしてぼく達、無事だったんだろう。」
「たぶん、雲の切れ間に上手い具合に落ちてきたのね。でないと、地表に着くまでに宇宙船、爆発してるはずだわ。」
「ラッキーなんだかよくわかんねーな。」
「周りを囲ってるとは言えど、所詮雲。切れ間があるのよ。その切れ間にうまく宇宙船を打ち上げられれば、外へ出られるわ。でも、そのタイミングや場所がまったく不規則なの。私はそれを観測、研究してるんだけど、今のところなんの規則性も見出せないわ。管理局にも協力してもらってるけど、なんともねー・・・。」
フリージアははため息をついた。
「管理局自体は、なにもしてないの?」
ぼくがディスプレイを覗き込みながら聞くと、
「管理局も調査はしてるのよ。何機か打ち上げたこともあるし。でも、あんまり上手くはいかなかったみたい。詳しいデータを公表してくれないの。」
「耐久度の高い宇宙船造れば済む話じゃないの?」
「そうなんだけど、実際、管理局が強い宇宙船を造ってみたりしたんだけど、機体だけでなく、プログラムにまで害を及ぼしてきて、墜落させるのよ。宇宙船が外からも、内からも壊される訳。怖いでしょう?なんなのかしらね。でも、あなた達が雲を抜けてきたときのデータがあれば、なにか対策を考えることができるかもしれない
わ。私、それに期待しているの。」
ふーん、そうなんだ。ぼくは研究室を見渡してみた。数々の資料や模型やハードディスクが彼女の宇宙への情熱を思わせる。
思えば、今でこそ、宇宙なんて隣の家の庭みたいに簡単に入りこめる世界になったけど、昔の地球人はきっと、こんなフリージアのように、宇宙に飛び出すことを夢見て必死になっていたのだろう。
「さってと、今日はこの位にしましょう。もう、日も落ちるし、私の家に泊まって行って。部屋はあるし、まだまだお話したいのよ。きっとカトレアもそう言うわ。ねぇ、是非。」
フリージアはくるっと体を向き変えてぼく達に言った。
「でも、アシュラを放っておくのは心配なんだが・・・。」
紅はやっぱりアシュラ思いだ。
「アシュラってあなた達の宇宙船?大丈夫よ、砂漠に入る人なんていないから。それに、今夜は新月だから真っ暗でとてもじゃないけど辿り着けないわよ。」
そんな訳でぼく達は、フリージアの家にお世話になることにした。

フリージアは空いている3階にぼく達のベッドを三つてきぱきと作ると、カトレアとキサラに手伝ってもらいながら(カトレアとキサラの仲を良くしようと配慮したらしい)、夕飯を作ってくれた。
やはりこれも、見た目も味も地球のものと変わらない。
「ぼくはね、ここは、異次元空間の中のもう一つの地球だと思うんだ。だって、こんなに姿も、言語も、衣食住までもが同じだなんて、フリージアさんたちが元は地球人だとしか思えないよ。」
夕食とワインをいただきながらぼくが言うと、
「確かにな〜、それなら外部に出れないのも分からないでもない。空にあるのは、雲じゃなくて、空間のひずみなんじゃないのか?だから高エネルギーを持ってる。」
と紅が皿のパスタをつつきながら言った。
「そういう考えかたって、科学的にどう分析していいのか分からないわ。・・・でも、もし、それが正しかったら、外へは出られないし、もし、出られたとしても、どこかへ飛ばされて、2度とこの星へは帰ってこられなさそうね。」
フリージアはそう言って軽くため息をつくと、ぼくにワインを注いでくれた。
「でも、ここがもう一つの地球だとしたら、ここってすごいよな。科学的な進歩、家族制度の違い、低公害のエネルギー供給。空気も水も澄んでるし、地球と言えど、地球じゃないよな。」
キサラはどーしても“家族制度の違い”にこだわりたいらしい。
「また、あたし達の星にケンカ売ってるの!?キサラ!」
「いいとこだって言ってんじゃんか、地球じゃないと思えば。」
「だから、地球じゃないでしょおっ。」
カトレアとキサラがまた言い合いを始めたのを見てフリージアが、
「カトレア、あーやって楽しんでるのよ。この星の人間はね、テレパスって言うのかしら・・・、相手の気持ちを何となくだけど、察知できるのよ。もちろんそれはお互いに通じ合いたい、と思った人だけだけど。だからね、ケンカってできないのよ。先に気持ちが分かってるから、争い事にはあまりならないの。きっとカトレアには、すごく新鮮なはずよ。」
と、子供のケンカを見守るお母さんのように穏やかに笑った。
そう。穏やかなんだよな。フリージアって。
落ち着いていて、判断が冷静で、それでいて、場を和ませる優しい雰囲気を持っている。
才女で、美人で、柔和だなんて、うわー!なんかすごいな。
ぼくはまたドキドキしていた。
その後しばらくぼく達は歓談し、夕食の後片付けをして、家へ帰るカトレアを見送った後、寝室へ入った。
「あーっ、あの生意気な女、ムカつくなっ!オレはもう寝るぜ。風呂は明日だ明日っ!」
キサラはさっさとベッドにもぐり込むと、すぐに寝息をたてた。
ぼくは紅のあとにシャワーを使って、寝床に入ったけど、なんだか眠れない。
どのくらい時間がたったのだろう。
キサラと紅の寝息しか聞こえない。ここはとても静かだ。
しばらく天井を見つめていると、下の方で窓の開く音がした。
ぼくは気になって、バルコニーから下を覗き込むと、フリージアが2階のバルコニーでワインを飲んでいた。
彼女はぼくに気が付くと、
「あら、シトレ。眠れないの?よかったら降りていらっしゃらない?」
と声をかけてくれたので、ぼくは誘われるまま階下へ降りて行った。
フリージアはナイトドレスを着ていて、長い髪を結い上げ、ベランダの低い手すりに腰掛けてワインを飲んでいた。
ぼくはフリージアが注いでくれたグラスを受け取ると、彼女の隣に座った。
首筋にかかる後れ毛が色っぽい。
ドキドキする。顔が赤くなる。・・・ワインのせいにしよう。
「あなたの言った事、本当かもしれないわね。」
「え?」
「あたし達が、もともとは同じ人種だってこと。・・・この星の人はきっと地球へ帰りたいんだわ。だから宇宙へ出たがろうとするのよ。きっと。」
「地球はそんなにいいところじゃないよ。ここのほうがずっといいよ。」
「・・・でも、地球へ帰りたいと思うでしょう?」
「それは、そうだけど・・・。」
「あなたって、正直なひとねぇ。」
フリージアはそう言うとぼくの肩に額を当てた。
ぼくはドキドキを通り越して、震えていた。
「シトレ、あたしが怖い?震えてるわ。でも、不思議ねぇ。あたし、ぜんぜん警戒してないのよ。だから異星人だなんて思えない。なんだかとても懐かしいのよ。あなたに会ったことがあるような気がするの。ずっと待っていたような気がするの。」
「フリージア、酔ってる・・・?」
「ふふ、そうかも知れないわね。・・・でも、こうさせててね。とても心地良いのよ。」
そしてそのまま動かずにそのままいると、やがてフリージアは寝入ってしまった。
ぼくは彼女をベッドに運び、部屋へ戻ったけど、まだドキドキしていて、とても寝つけそうにはなかった。
この星に来て、始めての夜。
こんなに急速に人に惹かれる事があることを知った夜だった。



彼女の千年王国          2章:きみを、知りたい。

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