守ると言うことは


第1話 新たな大地









1.

集積炉からここまで,だいたい1日に4往復する。
本来は焼却炉からの輸送のハズが,いつの間にかそのまま海の底へ,運ばれる。
埋め立て地と称してこんなことがまかり通っている事は,この仕事を始めてから知った。
報道機関も,行政も,全てがこの事を発表しようとしない。
数年後この海は,歪んだ土台の夢の大地へと変わるのだそうだ。

仕事とはいえ,やり切れない。
ただ,どうしようもないことを知っているから,考えないようにする。
この仕事が終わったら,この町からは出ていくことだろう。
自分の行為が偽善者的な考えであったとしても。

今日2度目の投棄は午前3時を回っていた。
いつもなら,もう作業が終了している時間だ。

どこかの団体が調査を行っていたようで,上から作業にストップがかけられていたために, 作業が遅れたのだ。
当然今日は,これで作業は終了する。
後は帰って寝るだけだった。
座席に身を預けタバコに火を付けた。


2.

一服してから運転席に預けていた身体を持ち上げると,目の前には異変が起きていた。
いつもの淀んだ海面に不規則な波が立っていた。
外海から隔離されたハズの海面にあの大きさの波はあまりに不自然であった。
それよりも,明らかにいつもと違う光景であった。

それに気が付くには,さらに少しの時間を要した。
海に月が写っているのだ。
自分の顔ですら,写っているか怪しいほどに淀んだ海に。

急いで外に出て,自分の目で確かめた。
海底の廃棄物が視界に入る。底が見えるほどに水が澄んでいた。
良く見るとそれは,幅が数メートルほどで外海の壁へと続く,ごく限られた範囲だけだった。


時は進み,いつもの淀んだ海になるには,時間はほとんど必要としなかった。
まるで,夢でも見ているかのような。


3.

怪しい人影を見たので作業を停止すると報告してから2時間が経過した。
時計は午前2時を少し回ったところだろうか。
どうしても,昨日の光景が頭から離れずに,物陰に隠れて時が立つのを待った。

こんなにも,ここが酷い場所であることを理解するには,5分と必要としなかった。
何とも言えない臭いは,鼻の間隔を失わせ,目は強烈な痒みが止まらず,目を擦り続けた。
我ながらこんなところで2時間もよく待っているものだ。
今なら,環境団体の主張に賛同できそうだ。
少なくともこの状況は,彼らの主張を軽く越えている。
酷く,自分の手が汚れている感覚に襲われる,今までの行いに吐き気すら覚える。


4.

時計からアラームが鳴る,午前3時だ。
今日も起こるなど,どこにも補償はないが,自分が納得できるだけの事はやったと想う。
少なくとも,自分の考えに大きな変化が出てきたことは,間違いがなかった。


ふと外海の壁の方を見ると,輝く波が目に映った。
物陰から飛び出し,すぐさま海岸線まで足を運んだ。
ゆっくりとした,輝く波は何かが泳いだ後にできているようだった。

そして,その波が海岸に着くとき,目の前の光景に,凍り付いた。

淀んだ水を泳いできたのは,女性。
長い黒髪であったであろう,その髪は無惨なまでに汚されていた。
白肌であったであろう,その肌は悲しいまでに黒ずんでいた。

そして腰から下には.......


5.

翌日,彼は会社をやめた。
彼はこの町を出ていく事をしなかった。
数日後,投棄場所にほど近い駅の前で必死になってビラを配る彼がいた。

ただ一人の戦いの始まり。




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