守ると言うことは


第3話 転機は唐突に









1.

彼の行動は,この町では当たり前の物となってきた。
朝,ヘドロの海に行くと彼はゴミ拾いをしている。 通勤時間帯になると,駅の前でビラを配っている。
最初は誰もが,いつもの環境保護を訴える団体の活動とばかり思っていた。
だが,彼がここでビラ配りを始めてから,拡声器を掲げた,あの車は来なくなった。

そして,いつしか,彼のビラは歩道に捨てられることは無くなっていた。

彼は突き動かされるかのように,ビラを受け取る人たちに語り始めた。 彼の行った行為を,彼の受けた行為を,

只一つのことを除いて。


2.

背中には大きな籠,少し前には考えられないような格好で朝5時30分には,この場所に来る。 ゴミ拾いを始めてから2ヶ月が立とうとしていた。

今日も彼女と会った後に,少しの仮眠をとってから,海岸に来た。
いつもと変わらぬ風景のハズが,その日は違っていた。
小さな影と大きな影が,大きな袋を持って海岸線を歩いていた。

気にせずに海岸に降り立ったときに,小さな影は,私に駆け寄って来た。 手には歪んだペットボトルをもって。


親子連れだった,この海岸にほど近いところのアパートに住んでいるそうだ。 毎日大きな籠を背負った私を,台所の窓から子供のお弁当を作りながら見ていたそうだ。 つい先日,夕方に駅を通ったときに私に気が付いたらしい。

子供は両手に一つずつゴミを持つと,私にしゃがませて,背中の籠に入れていく。 いつもより,作業量は落ちていた。

ただ背中は重かった。


3.

その日の午後

いつものように睡眠をとってから午後4時頃,駅前でビラを配り始めた。 昼夜が逆転した生活は,3ヶ月が過ぎていた。 最近は,以前のように通りすがる人全てに,前を立ちふさがるような配り方をしなくなった。
ただ、無用にゴミを増やすことになることが,よくわかったからでもあるが,それよりも, 彼が訴えながら,ビラを置いておいた方が,ビラの減りが良くなってきたからだ。

いつものように,遠巻きに警察官が眺めているのはわかったが,以前のように, 私に近づいて来れなくなっていた。市民の前で騒ぎは起こせないのだろう。


ビラも無くなり,いつものようにコンビニへバイトに向かおうとしたときに、 一人の男性に呼び止められた。
呼び止めた男性は,若くまだしっくりとこないネクタイにスーツの出で立ちで私の方に歩き出した。
私は不安を覚えながらも,彼と喫茶店に入ることを了承した。


4.

いつもなら寝ている時間であったが,彼は今日に限って,着慣れないスーツに腕を通していた。
皮肉な物である。似合わない格好の男性のおかげで,自らも似合わない格好をしているのだから。

私は約束どおり,小学校の教壇にたった。 学校嫌いで,大学にもほとんど行かず,自主休校中の私が,こんなところに立つことになるとは, 夢にも思わなかった。

喫茶店で話した男性は,ビラの内容に引かれ自主的に調べた結果, 子供達にこの事を知ってもらいたいと考えたそうだ。
はじめは,男性自身が教えるつもりだったそうだが,再び駅前の私を見て,声をかけてきたそうだ。


自分でもただ驚くばかりの時間が過ぎた。教師としての才能があるのではと錯覚するほどに, 今まで見てきたことを語り始めたら止まらない私がいた。
子供達が退屈するのでは,と,心配していたが,そんなことは忘れてしまうほどに

私の特別授業は,6時間目の算数の時間を半分以上奪って終了した。


5.

日曜日の朝

海岸にいつものように籠を担いできた私は,少しばかり勝手が違った。 学校側の好意で今日から集めたゴミは全て学校で処理される。
ゴミの回収業者の手を借りずに処理される。

海岸は,小さな影達が辺り狭しと走り回っていた。


この事を私は涙ながらに話した。

彼女は何も言わずに微笑みを返した。




第一夜メインへ