守ると言うことは
第4話
逃げることは解決にはならないと言うこと
1.
そして,その波が海岸に着くとき,目の前の光景に,凍り付いた。
淀んだ水を泳いできたのは,女性。
長い黒髪であったであろう,その髪は無惨なまでに汚されていた。
白肌であったであろう,その肌は悲しいまでに黒ずんでいた。
そして腰から下には,傷つき,所々の鱗がはげた,魚だった。
夢を見る時間には,丁度良い時間であった。
だが,現実であることは,間違いが無く,困惑した。
漫画やおとぎ話ならばまだわかるものの,今、目の前に存在する彼女は,絵空事では無かった。
彼女の下半身は文字通り人魚のそれであり,上半身は何も身に纏っていなかった。
彼女はさも当然のように腰の辺りを廃棄物の浜に降ろした。
何もできぬまま,私はその場に立ちつくすだけだった。
2.
時は止まったかのように進んだ。あまりのことに声は出ず,足も動かなかった。
彼女は尾鰭とでも言うのだろうか,そのヒレを海面でチャプチャプと叩いていた。
そして,ゆっくりとこちらに顔を上げた。何も喋らずにジッと私の顔を見つめたかと思うと,
彼女は子供のような,満面の笑顔を私に送ってきた。
そして
言葉は聞こえない
でも,心に問いかける声
優しく,緩やかな,そして,悲しい声
彼女との間には言葉は無かった。ただ,それは,できないのではなく,必要なかった。
とても,緩やかな時間
そして,悲しみの時
私は一つの提案をした。
外海に行くことを,私が手助けをすると,彼女を見ていると自然と言葉として出てきた。
でもその提案は簡単に拒否された。
彼女だけが逃げるわけにはいかないと。
腐りゆく海を捨てるわけにはいかないと。
3.
私は自分の考えに腹が立った。そして,たとえ自分が生きるためとはいえ,
彼女を追い込む行動をとったことに。
私は彼女に謝罪することしかできなかった。言葉のないからこそ,
文字どおりの心からの謝罪。
何もできない自分に,そして彼女を見ることができない自分に,
ただ廃棄物の浜に頭をこすりつけるだけだった。
心に響く柔らかい声
涙と鼻水でべたべたになった顔をのっそりとあげた。そこには,
聖母のような優しさが伝わるような,微笑んだ彼女がいた。
彼女の声は私に物語った。
子供達の周りに水があるのではなく
水の中に子供達がいるのだと
そして僕は.....
4.
私は今,海岸のゴミを拾っている。大きな籠を背負い。
多くの子供達と共に
私はゆっくりと動き始めたことを実感した。そして,これから始まるということも。