守ると言うことは


第5話 水の中に住む子供達へ









1.

私の活動は5ヶ月が過ぎようとした。
季節は夏になり海の干上がりは加速度的に進み,腐った水は歪んだ大地へと姿を変えていった このころになると,この異常な光景に疑問を持つ人が増えてきた。
私の活動にも賛同者が増えてきた。

海岸周辺の町内会は,住民が日替わりでゴミ拾いを始めた。 町内会長は私にこう言ったものだ。「私のイメージアップに繋がるかね」と, 私はただ苦笑した。

以前の小学生達は,夕方,私と一緒に紙を配るようになった。 ちゃんとビラ持参で来てくれるので,助かる。学校側も授業の一貫として認めたようだ。 少しづつではあるが,確実に私の活動は進み始めている。

しかしそれはあまりにも非力な力だった。


2.

この前,彼女にあったのは2週間前。
それ以来,彼女はこの場所に来ない。
初めてあったあの時から,海は更に淀み,廃棄物の量は更に増え,海面は低くなっていた。 大方の予想は,年内には干上がるというものだった。

いつしか,彼女との出会いは夢だったのではないかと思えるようになった。


3.

「......今朝未明,大型の台風17号は.....上陸.....瞬間風速は.....」


実に14年ぶりに此処へ台風は直撃した。
今,行われている開拓事業は長期予報に基づき開始されたハズであった。 もくろみとかけ離れた展開を見せた。

海水の進入を防ぐために作られた鉄の壁も,大きく荒れた海の前には無力としか言えなかった。 そして,雨と風の激しい台風は,埋め立て関連の人間達を驚愕させることに違いない。 投棄された廃棄物は次々と海岸線に打ち上げられた。
海の水位は確実に上がっていった。

雨合羽を着込んだ私の前にはそんな光景が広がっていた。


さすがに今夜は彼女を探しに来るつもりは無かった。来たところで, この状況では到底無理だろうと考えたからだ。
でも,私は海へと足を運んだ。

彼女と出会った,廃棄物だけの浜はとうの昔に無くなり,そして,彼女も姿を見せなくなってから, 私は海岸線を歩くようになっていた。


4.

1時間ほど海岸近くの道路に設置されたガードレールに捕まっていただろうか, 人間達の行為を簡単に打ち崩していく,この光景を,私は, 子を叱る,母親のように見ていた。
あまりにも強く,あまりにも激しく,そして全てを飲み込む勢いを持った母親であった。

そろそろ,台風も通り過ぎるハズである。
久々に,胸のすく思いでその場を離れようとしたときに,廃棄物の浜があったであろう場所に, 青白く輝く光のような物があるのに気が付いた。

私はもしやと思いつつその場所へと向かった。それに答えるがごとく, 雨,風は急速に弱まっていった。 そして,彼女との出会いの場所であるそこには,


膝を折るように立ち上がっていた彼女は,私に気が付き, 穏やかな表情を見せたかと思うと崩れ落ちた。


台風は母親でもなんでもなかった。彼女そのものだった。 あれから眠っているかのように,目を開くことのない彼女に,聞くこともできなければ。 実際に見たわけでもないが,台風は彼女が呼んだ物だと確信できた。

倒れ込んだ彼女を私はとっさに抱きかかえ,自分のアパートのバスタブへと運んだ。


5.

明け方,1本の電話がかかってきた。例の海岸近くの町内会会長からだ。
用件はわかっている。海岸に打ち上げられた廃棄物のことだろう。 会長はヒステリックな声で騒ぎ立てていた。まるで私になんとかしてくれと言わんばかりに。 だが私の一つの提案に,あっさりと引き下がった。 数時間後,会長は朝のワイドショーに出演していた。 さぞかし会長の株は上がることだろう。


彼女が目覚めたのは,子供達に悪いと思いつつ,駅には行けないと電話をかけた後だった。 ずっと風呂場で彼女を見ていた私はいち早く彼女が目を開くのに気が付いた。

私は色々と聞きたいことを問いかけた。
2週間どこにいたのか,何故あの場所にいたのか,あの台風は君が呼んだのではないか, しかし,彼女は何も答えず,また目を閉じて眠りについた。




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