守ると言うことは


最終話 君を守りたい









1.

台風によって海の水位はあの時の夜と同じぐらいまで戻っていた。
ただそれは,水位が元の位置まできたのであって,海が帰ってきたわけではないのは, 誰の目にも明らかだった。

死んだ海は,甦らなかった。




2.

台風の夜から2週間が経過した。
今も私が先頭になって海岸を清掃している。
日に日に協力者は減っていった。

みんな知っているのだ,この海が甦らないことを!

今回のことで,多くの逮捕者と社会的非難を浴びた人々がでた。 しかし、どんなに今の状況が悪いことが解っていても,手遅れであることには変わらなかった。

辞めていく協力者を引き留めるつもりは無かった。私自身がそろそろ幕を引くことを考えていた。 不毛な状態で,子供達が必死になっているのを見るのが辛いからだ。

その帰りに,直接学校に行った。
あの男性教師に会いに.....




3.

台風の夜から3週間後
いわゆるワイドショー番組に数分,私は出演した。

全てが終わったことの宣言
海が死んだことの宣言

この日より,全ての活動を終了することを宣言した。そして,今後のあの海をどうするのかは, 関わる人間全てで話し合うべきであることを訴えた。

マスコミから英雄扱いされるのが嫌で,極力避けていたが,最期のけじめは付けたかった。

子供達には,伝わったのだろうか....
あの親子には,伝わったのだろうか.....




4.

日に日にバスタブの中で弱っていくことが解るだけに,どうしても辞めさせたかった。 でも最期は彼女の懇願に折れた。

あの海そのものが彼女だと知ったのは目を閉じてから数日後だった。
あの海が死に絶えるとき,存在自体が無くなるのだという。
はじめは,信じたくなかった。
ただ
海の状況と彼女の様子が一致している以上,認めないわけにはいかなかった。

そんな彼女が私に願うのだ
あの海に帰りたいと
そして彼女の姉妹を守ってくれと



日に日にバスタブの中で弱っていくことが解るだけに,どうしても辞めさせたかった。
でも最期は彼女の懇願に私は折れた。

そして,彼女と共にあの廃棄物の浜に戻ってきた。
自分の思いと闘いながら.....




5.

浜にたった彼女は,久々に満面の笑みを見せた。 ボロボロのはずの身体にも関わらず。

心に響く彼女の声に私は答えなかった,ただうなづくだけで...
海を守ろうとしてくれた事への感謝
そして,自分の姉妹達を守って欲しいと言う願い
ただ,うなづくだけ



月の写らない海に彼女はたった。
輝く波も,澄んだ水も,彼女にはもう起こすことは出来ないようだ。
ゆっくりと私の方に振り返り彼女はこう言った。


「ありがとう」


彼女は喋れないわけではないと言うことは,いつ頃かは忘れたが知っていた。
ただ,上辺だけの会話はしたくなかっただけで。
その彼女が最期に発した言葉。
思っていた以上の澄んだ声。
そして,伝わらない心。

ゆっくりと彼女は状態を戻し,死に絶えた海に入っていった。




6.

彼女が見えなくなった浜で僕が守りたかったものを確認した。

僕は死に絶えた海へと歩を進めた


守るために




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