はじめに
私は「駒ヶ岳ファンクラブ」に所属しています。
会員は、会の指定する18座の「駒ヶ岳」に登るかたわら、駒ヶ岳に関する何らかのテーマを決めて、研究することになっています。
私は、かって米作りの指導をしていたとき ”信州には「代掻き
馬の雪形」が出る山があって、麓ではそれを見て水田の代掻き
を始める” ということを聞きました。これが、私が「雪形」というも
のを知った初めです。
その後、「駒の雪形が出る山を駒ヶ岳」と云っている山が沢山
あるということも知りました。このことが、全国の「駒ヶ岳」に興味
を持つきっかけになりました。
そのころ、健康にために妻と共に「山歩き」を始めていましたの
で、「駒ヶ岳ファンクラブ」が結成されると仲間に入れていただき
ました。そして、仲間たちと一緒に、あちらこちらの「駒ヶ岳」に登
りました。
私の研究テーマは、その山名の由来となった「駒の雪形」を探
すことにしました。
しかし、いざ調べ始めてみると中々難しいものでした。何せ雪があまり降らない地方に住んでいるものですから、雪山とは縁が薄くもっぱら文献を漁ったり、山麓の市町村へ問い合わせたりしてみました。
すぐに分かったものや調べてもなかなか出てこないもの。中には雪形からではなさそうだというものまでありました。
すでに農業技術の進歩によって農業の形態も変り、雪形を見な
がら農作業を始めるということもなくなってしまいました。
その結果、昔の伝承が今の世代に引き継がれなくなり、雪形も忘れられ、山名の由来がどこからきているのかも分からなくなってしまっているのではないだろうか。
ここに収録したものは、途中経過として載せさせていただきまし
た。これらについての間違いや足らないことなどがありましたらご
指摘を頂きたいと思っています。
また、分からない山については、「こんな情報がある」「こんな写
真がある」「こんな伝承がある」など、なんでもけっこうですので、
ぜひお知らせいただければと思っています。
雪形とは
雪どけとともに山の地肌が露出すると、残雪や残雪の溶けた跡
の地肌が人や動物などの形を描き出します。これを「雪形」といい
ます。
雪形には、白く出る雪形を「ポジ型」、黒く出る雪形を「ネガ型」と
区別していると、故田淵行男氏は表現されています。
また、出現する雪形にはどのようなものがあるかというと
(1)人 物 : 種蒔き爺、粟蒔き入道(婆)苗取爺、
田植爺、種蒔き婆、豆まき小僧、農男、
島田娘、五人坊主、田打ち、さずき男、
飯盛バサ、恵比寿様、虚無僧、など
(2)動 物 : 駒、 馬、 牛、 兎、 猿、 シシ、竜、 犬、
狐、 狸、など
(3)鳥 : 鷺、 こうもり、 ツル、 雁、 はと、 からす、
など
(4)魚 : 鯉、 鯛、 蟹、鮒、など
(5)虫 : 蝶、蛙、カタツムリ、ヤモリ、など
(6)植 物 : 松、 胡桃、 松茸、茗荷、など
(7)文 字 : 山、 川、 火、 い、三、七、 八の字、など
(8)その他 : 菱形、籠、 馬鍬、鎌、 えぶり、錠前、 鏡 、
三角ちまき、蛤、布、 船、 糸巻き、 ざる、
御幣、など
雪形と伝承
雪形が山麓の人々の農業や暮らしと密接に結びついていたこと
は、その名称からも覗われます。
したがって、雪形の多くは農事ごよみとして利用されてきたので
した。
(1) 田仕事では : 苗代作り、種蒔き、肥撒き、田打ち、畦作り
、 代掻き、田植え
(2) 畑仕事では : 豆まき、畑の種蒔き、粟蒔き、野菜や麻の
種蒔き
(3) 季節を知る : ゼンマイ取りの適期、川に水浴びに入って
良い時期、蚕を掃く時期 草刈の時期、
薪取り時期、雑魚捕りの時期 など
(4) 豊凶占い : 豊凶を占う、豊年の微、大漁の微 など
このようにして、かっての山麓の農民たちは、雪山を見上げては
自分達の身近な人間、動物、道具にみたて、これを農事ごよみとし
て利用してきたのでした。
農事暦
昔の暦は、月の満ち欠けによる太陰暦であったため、自然の運
行と月日とが合致しませんでした。そのために、二十四節気や雑節を頼りにすることが多かったものと思われます。ことに春の蒔きの旬を見定めるのには、八十八夜と小満とが使われたようです。
しかし、その年のその地域の気象は、高山の雪の残り具合が平
地の水温や気候が微妙に影響を与えるため、農業は暦どおりに
はいかなかったようです。
そこで農家の人たちは、長い生活体験の中から自然現象を巧みに捉え、その年の気象を判断をしてきたのです。
どのような雪形が出た時が冷害にも遭わず、収穫が多かったか
を経験から学び取ってきたのでしょう。
山の雪形も、長年の残雪の観察の中から生まれたもので、農民
の知恵でもある「農事暦」を作り上げてたのでした。
農事暦は、残雪をいろいろなものにたとえ、その雪形の出現を待
って、稲の種蒔きや田植えなどの農作業を始める時期としてきた
のです。 |